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1.のんびりスローサバイバル


 目が覚めると、四方を石に囲まれた空間にいた。


 すぐに出口らしいところを見つけたので外へ出てみると、一面の草原だ。

 その草原を二分するように、緩やかな坂道が見えなくなるくらい遠くまで続いている。


 ここが、神さまの言っていた『生死のはざま』ってところなのか。

 今見る限りだと、異世界のような中世ヨーロッパ風って感じでもなさそうだ。

 というか建物らしきものが全くない。


「……これからどうしよう」


 神さまが言うに、一時的に私の魂を避難させて……ということだったけど。

 そもそも身体の修復ってどれだけ時間がかかるんだ?


 ……とりあえず、しばらくここで待つか。


 ふと空を見上げる。夕方なのか、少し黄色を帯びた空だ。


 ここは生死のはざま。

 いわば異世界のようなところ。

 そんな世界だと月や太陽が二つだったりするんだろうかと、ちょっとした好奇心だった。


 けど、浮かんでいたのは月でも太陽でもなく……女の人だった。

 天女のような和服の、髪の長い女性が空を飛んでいた。


「予想外だ……!」


 これがはざま世界か!


 ……。


「……。どれくらい経ったかな」


 ポケットからスマホを取り出してみると、画面が真っ暗だった。何度か触ったが、電源が入る気配がない。

 生死のはざま世界では、スマホはまるで機能しないらしい。これだと時間もわからないのか。

 正確な時間がわからないと、なんとなく待つのが余計に辛くなるよね。


 そういえば、私の服装は神社に行った時のままだ。

 グレーの長袖パーカーにカーキ色のチノパン。我ながら色気も何もないな……。

 それはともかく、汚れも、ましてや車に轢かれた痕もない。


「……ん?」


 待っていると、ふと、草原のあちこちで白い綿毛のようなものが浮かんでいるのが見えた。

 ちらほらと、見える範囲でも結構な数飛んでいる。

 あれは何なんだろう。


「一匹、二匹……」


 ……。


「七十三匹、七十よ……」


 ……暇すぎてつい、綿毛数えに熱中してしまった。

 そもそも、綿毛の数え方は「匹」なのか? 「個」なのか? それともそのまま「綿」なのか?


 ……このままじゃ埒が明かない。少し周辺を散策してみるか。

 とりあえず道なりに進んでいこう。


 しばらく歩くと、小川の流れる場所に着いた。

 正確な時間はわからないけど、体感で二十分くらい歩いたかな?


 その頃には、さっき見た天女風の女性はゆっくりと空の彼方へ消えていくところだった。

 同時に空が暗くなってくる。

 やっぱりあの人(?)がこの世界の太陽的存在なのか……。


 ちょうどいい石を見つけて、そこに腰をおろす。


「お腹減ったな……」


 それに喉も乾いた。

 あれだけ歩いていれば当然といえば当然だ。

 で、問題は、これからどうするかだ。


 水はまぁ、最悪そこの小川がある。

 でも、飲んでお腹を壊すのは辛いな。

 見渡せる範囲では、草と、たまに大小さまざまな石が転がってるくらいだ。

 正体不明の綿毛が浮いてる以外にはとくに何も見当たらない。


「はて、どうしたものか……」


 このまま飲み食いしなければ間違いなく死ぬ。

 ほんとにヤバくなったら、そのへんの草を食べるしかない?


 あ、あと、寝床も探さないと。

 今のところ何もないが、危険な生き物がいる可能性だってないとはいえない。

 そういうのに限って夜行性だったりするんだ。……なんとなく。


 まぁ、生死のはざまだけに、危険なのが生きてるものとは限らないのか…………余計に怖いじゃないか!


 今の状況だと、最初にあった石室に戻るのが一番安全かもしれないな。

 ……ううん、何から何まで考えることだらけだ。


「のんびりスローライフ、どこいった?」


 このままじゃサバイバルもいいとこだ。

 あの神さま……何か手をうってるとか言ってなかったっけ?


 たとえば、この手の話によくあるチート能力とか。

 こう……両手を前にかざして「米、出てこい!」とかしたら、パッと出てきたりとか……。


「……出てきた」



 【 スズキのごはん 200g 】



 両手にパックごはんが載っていた。


「なぜだっ!」


 驚きのあまり思わず落としそうになった。

 いやでも……なぜだっ!


 ――ブブブブブ……。


 と、さっきまで何の反応もなかったスマホがポケットの中で震えた。

 な……なんだ……?

 恐る恐る画面を見ると、そこには私をこの世界に送った神さまの顔が映し出されていた。


 どういう仕組みなんだろう……?

 とりあえず、相手が判明したのでパックごはんを横に置いて通話モードにしてみる。


「はい、もしもし……」


『あ、悠さんですか? こちら、交通安全の神です。無事にそちらに着けたようですね』


 その声は、やっぱりというか、ついさっきに聞いた幼女の声だった。

 ちょうどいろいろ行き詰まっていたところに、なんていいタイミング。


「もしかして、心を読んだんですか?」


『え? 心ですか?』


 素で返された。

 どうやらたまたまだったらしい。


『さすがに、異世界通話もなしに別世界にある心を読むのは無理ですよー。まさに神技ですよー』


 いや、あんたがその神さまだろ。

 そして今は『異世界通話』とやらでかけてきているらしい。


『ところで、どうですか? はざま世界は。なかなか良いところでしょう? 空気はキレイ。お水も澄んでいて、とってもおいしいですし』


 お、この様子だと水は安心して飲めるらしいぞ。

 でも、それ以前に良いところかと言われると……


「今のところ、何にもないところですね……としか」


『え? 何もないですか?』


 意外だと言わんばかりの反応がくる。


『あれ? そちらにどなたかいらっしゃいませんか……?』


「いえ、こっちには誰もいませんけど……」


『そうですかぁ。……うーん。ちょっと送り先がズレたのかもですねぇ。……ま、いいでしょう』


 え! いいのか?

 あまりの軽い切り替えに驚いてしまった。


 今の状況だと、こっち的にはあんまりよくないんですけど……。


『ああ、いえいえ。ご心配なく! ちゃんと対策はあるんです』


 この通話中だと心が読めるらしく、慌てたように神さまは続けた。


『今回ご連絡したのも、悠さんがそちらで過ごすための術をお伝えするためなんですよ。とある世界でいうところの『特性』とか、あと『スキル』ってやつですね』


「特性、スキル……」


 いよいよ異世界なネーミングが出てきたな。





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