16.元神さまたちとバーベキュー
「ではでは、ハルカさんモルエさん両名の歓迎の意を表しまして……かんぱ~いっ!!」
「「かんぱーいっ!!!」」
金属製のコップを打ち鳴らして、宴が始まる。
集落中の元神さまたちも集まって、盛大に歓迎してくれた。
まかみさんたちは米からできたお酒を飲んでいるが、私は下戸なので、麦からできたお茶をいただいている。
「このお茶、味わい深くておいしいですね」
モルエもお茶を飲んでるようだ。
「モルエの世界って、お酒の規則ってあるの? 何歳から飲んでいいとか」
「ええ、一応はありますよ。ボクは飲んでもいい歳なんですけど、お酒に弱いので……」
「なるほど」
見た目は十四、十五歳くらいだけど、一応は飲んでもいいんだ。
地球でも十歳から飲んでいい国もあるくらいだし、それぞれのルールがあるんだな。
熱された石板の上に、次々と食材が乗せられていく。
鳥、牛、モルエいわくオーク、そして、私たちが釣ってきたシャチホコも。
すぐに、集落がお肉の匂いで満たされていく。
くぅぅ~……っ、これだけで白飯5合はいけるね!
「ささ、焼けてきましたよ! ハルカさん、モルエさん、どんどんいっちゃってくださいね!」
「はい、お言葉に甘えて」
こんがりと焼き上がってきたお肉をさっそくいただく。
まずは、やっぱり念願の鳩から…………。
「こ、これは……!」
う、うんまぁぁいっっ!!!
皮の香ばしさが口いっぱいに広がって、そしてそこからやってくる肉厚な食べ応え!
ジューシーなお肉だけど、後味はさっぱりとしていて、これはいくらでも食べられそうだ!
「あの足長鳩……なかなかやるね……!」
「ハルカ、このシャチホコもいつもとは違った食感でおいしいですよ」
モルエは石焼きシャチホコがお気に入りになったようだ。
同じ食材でも、焼き方一つでまた違ったものになるんだね。勉強になった。
帰ったら芽衣にも石焼き料理を振る舞ってあげよう。
私たちに続いて、元神さまたちも食事を始められていた。
「おお、この焼き魚、うまいのぉ!」
「長老~。それはお刺身なんですよぉ」
「そうなのか。まあうまいもんはうまいのでいいかの!」
ヒノ長老はお刺身にしたシャチホコを食べていた。
そうか……。長老は燃えてるから、口に入れた瞬間にナマモノも加熱されるんだな。
ほんとの刺身の味を知らないのは辛い気がするけど、長老はあまり気にとめてないようだった。
知らぬが仏ってことなのか? いや、ここは元神さまの集落なんだから仏じゃないか。
別の方では、カカシさんたちもお肉を食べたり、お酒やお茶を棒状の体の根元から吸い上げたりしていた。
カカシって、動物なの? それとも植物のような括りなの?
「あ、植物といえば……」
お肉の隣には米料理が置かれていた。
ごはん……でも、白米というでもなく、殻を剥いて玄米状にした米や麦を炒めたような料理だった。
試しに一口食べてみると…………これは現代日本人にはちと厳しかった。
味というより、硬さが私の歯では無理がある。
「お米料理ばかりは、人間のようにはいかないんすよね……」
と、近くのカカシさんが話しかけてきた。
「人間さま。何かいいアイデアがあれば教えてほしいっす」
へのへのもへじの顔が真剣味を帯びている。
なるほど……、お米の料理法はただいま研究中ってところなのか。
よし、そうとなれば……。
「炊飯器、出てこいっ」
――ガシャッ。
久々にお取寄せスキルを使った気がする。
「おお! ハルカさんが何か出されたぞ!」「召喚を使えるのか!」「いや、あれは式神では?」「なんにしろすごい技だべ……!」
元神さまたちも、これには驚いたらしい。
でも、あなたたちの方がよっぽどすごいと思うんですけど……。
「これに、研いだお米を入れて……」
しっかりめに洗った米を炊飯器に投入。スイッチを入れて、あとは待つだけだ。
ここの米は見るからに良質なのがわかる。それに、この集落にも幸い精米の技術があるらしい。
なら、あとは「炊く」だけだ。
これなら、おいしいごはんができるぞ。
――だいたい十分後。
炊飯器の炊けたお知らせ音が鳴った。
「えっ、早くない!?」
見ると、ちゃんと炊けてるようだ。ごはんの甘い匂いが漂ってくる。
炊飯器も、現世と違ってちょっとグレードアップしてるのか?
「まあいいや。ちょっと味見を…………うん、うまい!」
甘みと噛みごたえがすごいことになってる!
さすがは五穀豊穣の元神さまが生み出したお米だけあって、今まで食べたことのないレベルだわ!
少しずつだけど、周りで見ていた元神さまたちにも炊きたてのごはんを配る。
全員一致で「おいしい」と絶賛の嵐だった。
「こんな技術があるとはのぉ……。さすがは人間さまの力は偉大じゃわ」
ヒノ長老もごはんに舌鼓をうちながらそう言ってくれた。
炊飯器を生み出したのは当然私じゃないけど、とっても誇らしい気持ちになった。
「いやはや。ぜひにまた、色んな技術を教えてほしいものですじゃ」
「はい、私のできる限りでしたら」
また追加で取り寄せて、炊飯器もいくつか集落に置いていってあげよう。




