12.道祖神とステータス
この座った心地。
この景色。
はて、この感じは…………。
この世界に来てすぐに体験したような気がする。
背後の丘を見上げると、遠く、見覚えのありすぎる大きな岩の頭が見えた。
「あれ、私たちが暮らしてる石室じゃん!」
そしてここ、いつも水くみしてる小川じゃんか!
まかみさんに案内されたのは、はざま世界で毎度お世話になっている小川の前だったのだ。
「ねえ、まかみさん? ほんとにここなんですか? 道間違えたとか?」
「ちゃんと合ってますよー。ほら、こっちに来てください」
まかみさんが手招きする方へ近づくと、そこには腰くらいの背丈の丸い石があった。
よく見ると、目、鼻、口と、石を輪郭にして顔のようなものが彫られている。
ニヤけ顔……ちょっと不気味だ。
「道祖神です。我々の集落を守るための、いわば守り神です」
「道祖神……」
「聞いたことがあります。なんでも、別の世界への入り口……その門番を務めるとか」
モルエは博識だな。
しかしこれは、なんだか有名なアニメ映画を思い出した。
同じ感じだと、この石の向こうは……。
まかみさんが石の頭部に手をかざす。
と、道祖神の細い目が見開かれた……気がした。
『……認証チュウ…………。……"まかみ"サマ。オカエリナサイ……』
「ただいまです~」
そんな会話の直後、道祖神の背後の空間が大きく波打った!
「な、なんじゃこりゃぁ……!」
おっと。
ビックリしすぎてちょっと乙女らしからぬリアクションをしてしまった。
「これは……」
モルエも静かに驚いていた。
……ちょっと。変に反応した自分が恥ずかしいんですけど?
手をかざしながら、まかみさんが振り返った。
「集落に入るためには、それぞれの認証が必要なんですよ。まずはハルカさんとモルエさんの新規登録を済ませちゃいましょう」
ファンタジーからちょっとSFな感じになってきた。
いや、新規登録ってむしろ、どこかのショップのメンバー入会みたいなノリだな。
「お二方の新規登録をお願いします」
『……了解……。……デハ、順ニ手ヲカザシテクダサイ……。……待機中……』
「準備できました。ささ、順番にどうぞ。手をかざすと、お二人の簡単なステータスが表示されて、登録完了ですよ」
「なんか、ハイテクですね……」
それに、この世界にステータスって概念あるんだ……。
ともあれ、新しい体験でちょっと尻込みしてしまいそうだ。
「モルエ……お先にどう?」
自信がないので、モルエに譲ってみた。……このヘタレさ、嫌になるよね。
ごめんねモルエ……仲間を売っちゃう最低な同居人で。
「あ……いえ。ボク、機械オンチなので、できればハルカのお手本を見せてほしい、です」
「……わかった。しっかり見ててね」
そんな、私以上に自信なさげに頼まれたら断るわけにはいかないよ!
……てことで、登録は私からすることに。
恐る恐る石の頭に手をかざすと、再び道祖神の顔が笑った。
『……認証中…………"御巫 悠"…………ステータスヲ表示シマス』
その言葉のあと、目の前の空間に文字が浮かび上がった。
――――――――――
御巫悠
種族:人間(JD)
体力:※神
気力:※神
強さ:※神
速さ:※神
賢さ:シンプル
オシャレさ:低い
特性・スキル:家事、姉体質、シスコン、神の加護、不老不死
――――――――――
『…………登録完了シマシタ。イラッシャイ、"御巫悠"サマ』
「ほ、ほぼ神レベルぅっ!? こんなステータス初めて見ました! まさに神ってますよ!」
「いや、神ってるって……」
なんで最近の日本の流行語知ってるんだよ……。
まあ、神さまの力でここにいるからなんだろうな。"神の加護"ってあるし。
私自身の実力じゃないのは確実だ。
それよりも色々とツッコませてくれ。
オシャレさは……認める。実際、服とか化粧は全く気を使ってない。
でも、なんだ。「賢さシンプル」って。
いいのか? 悪いのか?
それに私はシスコンじゃない。
芽衣はたしかに危なっかしくてほっとけない子だけど、そこまでこじらせた覚えはないぞ。
……ちょっと、思ってたステータス表示とは違うな。
「初めて会った時……腕を切っちゃった時も思ったんですが、やはりハルカは只者じゃないんですね……」
モルエも後ろで驚いた顔を見せていた。
「いやいや、私はただの人間だよ。あの幼女の神さまがすごいんでしょ。……さ、それよりも次はモルエだよ」
「は、はい……」
続いて、モルエがへっぴり腰で石に手を乗せる。
――――――――――
モルエ・ラ・モール
種族:死神
体力:まあまあ
気力:ふつう
強さ:つよい
速さ:まあまあ
賢さ:かしこい
オシャレさ:磨けば光る
特性・スキル:死神の鎌による魂浄化、メルヘン体質、おね――
――――――――――
「これはっっ……!!!」
――ババッ!!
最後まで確認する前に、モルエが両手を大きく広げてステータスに覆い被さった。
「と、突然どうしたのモルエっ? 何かあったの?」
特に変なステータスじゃなかったけど……。
まあ、表示方式はすごく曖昧だけどさ。
やっぱりモルエはオシャレしたらもっと綺麗になるのか……。今度ぜひ色々と試したい。
「い、いえいえ……っ。お気になさらず……!」
いや、あからさまに慌てた様子だけど……。
『…………登録完了シマシタ。イラッシャイ。"モルエ"サマ』
「ささっ、登録も終わりましたし、まかみさん? ご案内お願いしてもよろしいですかっ?」
「え? ……ええ。じ、じゃあ、集落へご案内しますね! ついてきてくださーい」
モルエの迫力に気圧されながら、まかみさんは道祖神の背後、空間の波紋の中へ進んでいく。
「いやあ、でも、モルエさんは案外お茶目なんですね! まさか、おねしょしちゃうとは~」
「ぎゃぁぁぁッ!?」
「も! もごご……っ!」
顔を真っ赤にしてまかみさんの口を塞ぎにかかるけど……しっかり聞いちゃった。
……ははぁん?
だから、最初の朝に布団干したりしてたのかぁぁ~。
あれは証拠隠滅を図ってたんだねぇ?
「ハルカ……? に、ニヤニヤしないでください……」
「ごめんごめん。でも……モルエならかわいいと思うよ?」
「や、やめてくださいよ……! 本気で悩んでるんですからぁ……」
おうおう! 弱ったモルエちゃんもこれまた良きですなぁ!
モルエにしがみつかれながら、やがてすっぽりと波紋の中へ入っていく。
そして、数秒もすることなくパッと視界がひらけた。
「おおっ!」
「これは、すごいですね……!」
「いらっしゃいお二方。ここが"元神の集落"ですよ!」
たどり着いたのは、のどかな風景の村のような場所だった。
広い中央通りの左右には木造の家屋のような建物が点在していて、ところどころに畑なんかもある。
「……すごいなぁ。どういう仕組みなの?」
「簡単にいうと、目くらまし……まあ神隠しの応用みたいなもんですね」
以前にもそういう言葉を聞いたことがあるぞ?
そうそう。無限かばんの仕組みを聞いた時だった。
神さまの中では定番なのか? 神隠し。
「まずは、そうですね。一応、長老に挨拶に行きましょうか」




