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プロローグ

自身初の異世界転移ものに挑戦!

基本まったりと進んでいきます。しばらくよろしくお願いします!


 この数年間、今は21だから五年くらいか……ずっと似たような日々を繰り返してきた。


 朝起きて。

 洗濯物を干して風呂を洗う。そして休む間もなく、自分と歳の離れた妹、芽衣(めい)のぶんの朝ごはんの準備。

 食後の洗いものを済ませると、あっという間に大学へ行く時間だ。


 午後。

 部活やサークルにも入る時間はない。

 大学を出て早々、事前にチェックしていた近所のスーパーのセール品を狩りに行く。

 近所でセールがなければ隣町のスーパーが次の狩り場だ。

 セールのない日はつかの間の楽園タイムです。


 帰宅して。

 芽衣と一緒に、週一恒例の神社参り。

 交通安全と家内安全を願って目を閉じると、ちょっと心が洗われたような気持ちになる。

 ……さて、また帰ってごはんの支度だ。


 て、今日まだ何するか決めてなかった……。


 ええと……、今冷蔵庫に残ってるものといえば。


 こういう時、芽衣もご飯作ってくれたらなぁって思う。

 もう中学生なんだし、週一でも担当してくれたら、私としては助かるんだけどなぁ。


 両親は………………期待しない。

 そもそも、家を私に任せっきりでほとんど海外だし。

 連絡もないから正直生きてるかもわからん。


 いやいや、それよりも晩ごはんだ晩ごはん。


 う~ん。ネギはまだけっこう残ってたし……。

 あ、でもお隣さんからもらった茄子も使わないとヤバい気がする。


 うーん、どうしよう。


 ……うーん。



 ………………う~ん……。


 ………………。


 …………。




「…………はっ」



 気がつくと私は、着物を身につけた黒髪の幼女と向かい合っていた。

 お互いに正座だ。


御巫(みかなぎ)(はるか)さんですね?」


「あ、はい、そうですが」


 そういうあなたは幼女さん、ですね?


「このたびは、大変申し訳ありませんでした」


 そんな幼女にいきなり三つ指をついて謝られた。


 ……困ったぞ。

 幼女に土下座されるJD。

 なんか、自分でJDっていうとこっ恥ずかしいな……。


 いや、それはともかく、この絵面は非常によろしくない。

 なんだかこっちがイジめてるような構図に見えないか……?


 そんな私を見てか、幼女はどこか納得したように、


「ああ、まずはこの状況の説明からですね」


「え?」


「わたし、一応神さまですから。心が読めるんです」


 ……心読めてないんですがそれは。


「神さま、ですか?」


 まあ、この状況が気になるのはたしかだしな。


「はい、そうです。いつもあなたと妹さんがお参りくださっている神社の……」


「ああ。あの神社のですか」


 家からほど近くにある、わりと立派な神社。

 ついさっきも、妹の芽衣と一緒に参ってきたところだ。

 そして今はその帰り道だった……はずなんだけど。


「あちらで、交通安全の神さまをさせてもらってます」


 幼女の正体は、私たち姉妹が足繁く参る神社の神さま、らしい。


「ほんとはわたし、縁結びの方を得手としているのです。でも、先輩の神さまたちに『ガキ神のくせに縁結びなんて生意気』だとか『あんたには交通安全くらいがお似合いよ』とか言われまして」


「はあ……、神さまも大変なんすね」


「ええ。それで、私としても、空いてる神社に暮らしながらのんびり交通安全でも司ろうかなぁと、こちらに来た次第なんです」


「はあ……」


 ……いや、さっきからやたら交通安全の扱いがザツくないか?

 神さまがそんなだったら、なくなる交通事故もなくならないんじゃ……?


「で、その神さまがいったい何の用です?」


「あのですね……。実は、悠さんは神社からの帰りに車に轢かれてしまって」


 幼女が指差す先には、道路の真ん中で倒れている私がいた。

 ……今までなんにも見えない空間だったのに。


 うつ伏せに倒れているけど、私だ。あの少年っぽい服装もはねた短髪も。

 タイヤ痕らしきものに見事に身体を縦割りされている。


「それで、死んだんですか?」


「厳密には、瀕死状態ですね。今は一時的に魂をこちらにお招きしているんです」


 じゃあ、今の私は魂だけの状態なのか……。


「それでですね……。まことに申し上げにくいのですが、あの車を運転していたのはわたし、でして。厳密には操縦なのですが」


「はあ。…………はあ?」


「あの、言い訳にすらならないのですが……、この辺の道は車通りも少なくて。交通安全の神さま的には、とっても暇だったのですよ。なので、ちょっと車でも走らせてやろうかと神社に置いてある車を拝借して、動かして遊んでいたんです」


「で? 操縦を誤って私を轢いた、と?」


「ご名答です」


 つまりは、神さまのラジコン遊びに巻き込まれたってことか。

 おいおい。

 遊びのスケールにも驚きだけど、それで殺されたらたまったもんじゃないぞ……。


「あの、神さま。ひとついいですか? 外で遊ぶ時は車に十分注意しなさいって、お母さんに言われたりしませんでしたか?」


「はい……。よく言いつけられてました」


「でも、今回はその言いつけを破ったと。お母さん、悲しみますよね?」


「返す言葉もございません……」


 交通安全の神さまはしゅんと頭を垂れた。

 あ、いかん。ついつい説教じみたことを言ってしまったか。

 でも、こっちはその幼女のせいで死にかけてるしなぁ。


「それで、お詫びといってはなんですが……、今回は特別に、悠さんには生き返ってもらおうと思いまして」


「え、そんなことができるんですか?」


「はい。本来はダメなんですが、今回は原因が原因ですし……。ほんとに特別ということで」


「まぁ、そうしてくれるなら助かります」


 思い返すとこの二十一年間、ぶっちゃけ楽しかったとは言えない。なにかと忙しかったから大学での思い出もとくにないし。


 でも、だからといってむざむざ死ぬ理由もない。

 生き返れるならそうしてほしい。


 それに、芽衣だってまだ中学生だ。家事もロクにできないんだ。

 これから実質一人で生きていくとなるとまだまだ辛いと思う。


 ……はぁ。だからいつも口酸っぱく家事を手伝えと言ってたんだ。

 姉ちゃんに何かあってからだと遅いんだぞ、ってさ。


「ただし、傷ついた身体の修復などに時間を要しまして。そのあいだ、悠さんには別の世界に避難していただくことになるのです」


 別の世界……なるほど。

 これは一種の異世界転生とか転移とか、そういう系か。

 最初からなんとなく知った展開だなと思ったんだよね。


「今の悠さんは、いわば魂だけの状態なんです。このままだと、思わぬかたちであの世に逝っちゃったり、死神さんに刈られたりする危険があるのですよ」


「そりゃ怖いですね」


「ええ。うっかりぽっくりしたら怖いですね……うひひっ」


 なんだその笑みは!

 一気に信憑性が揺らいだぞ!?


「す、すみません。韻ふみが妙に面白くてつい……」


 ただでさえ非現実的なシーンで困惑気味なのに、余計な不安を煽らないでほしい。


「で、ですね。悠さんがこれから向かうのは、この世でもあの世でも、ましてや天国でも地獄でもない……『生死のはざま』の世界です」


 生死のはざま……。

 なんか、こう、灰色の世界的な?


「あ、心配はご無用ですよ。あちらでは不自由がないよう、それと最悪消滅したりしないよう、こちらで手をうっておきますので。のんびりとスローライフを楽しみながら待っていてください」


 のんびりスローライフ……。

 これも馴染みのあるフレーズだ。

 実際に改めて聞くと、ふむ、なかなかいい響きじゃないか。


「ん? ちょっと待った。最悪消滅……って、そういう目に遭う可能性があるってことなんじゃ……?」


 目を逸らされた。


「では、さっそく悠さんの魂を転移しますね!」


 ちょ、不安を煽るだけ煽っておいて……!?

 まだ心の準備が……てか、それ以前に承諾もしてないぞ!


 慌てながらキョロキョロしていたら、道に倒れる自分の姿が見えた。

 あそこに私がいるってことは……あ、やっぱり。


 倒れる私の少し離れたところに芽衣の姿があった。

 よかった。どうやら芽衣は無事らしい。


「ね、姉、ちゃん……」


 しばらく呆然としていた芽衣だったが、恐る恐る私に近づいていった。


「姉ちゃん……、姉ちゃーーんっ!」


 ああ、泣かせてしまった。

 世話のかかる妹だけど、自分のために泣いてくれるのを見ると、なんともいたたまれない。


「さあ、始めますよ! ここで死神さんなんかが来ちゃったら面白くないですからね!」


 これはもう、覚悟を決めるしかないのか……?


「待っててね、芽衣」


 姉ちゃん、しばらくいなくなるけど、必ず帰ってくるから。

 それまでは元気で生きなよ。

 まぁ、芽衣は元気の塊みたいな子だから、そのへんの心配はあまりないけどさ。


 神さまがむにゃむにゃと何かを唱えると、私の周りを淡い光が包みこむ。

 身体とともに意識も薄れてきた。


 ……生死のはざまって、どんなところなんだろう。

 正直、最近は時間に追われて疲れていたのも本当だ。

 少しの時間、そこでゆっくりするのも悪くないのかも。


 あ、でも、完全な自給自足はイヤだな。

 なるたけダラダラと楽に過ごしたい。

 スローライフならぬ、スロー自堕落ライフ? なんつって。


 そうしてふと、意識が途切れる寸前だった。


「……我は、死神。そなたの魂を正しき方へ(いざな)…………う?」


 すぐ目の前に、大きな鎌を持ったローブ姿の人影が立っていた。


「あ……! し、死神さんっ? ど、どけてっ、離れてくださーい!」


「え? あ、なんで。身体が光って……ちょ、ま――」


 その声を最後に、私の意識は光に包まれた。





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