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魔力至上主義世界編 - 85 制覇 (1)

 この世界は、ただひとつの大陸で構成されている。

 大陸の形はおおよそ次のようなものである。


  □ □

 □■□□

  □ □


 □と■が陸地だ。

 ■部分は、この世界の政治・経済の中心となるエクナルフ地方である。

 首都であるイリスも、大神官が保養に出向いたセイユもここにある。

 広々とした肥沃な平野が広がり、大陸の人口の3割がここに集中している。

 日本で言えば関東地方のようなものか。


 その関東地方を、弾正はまず制覇しようと考えている。

 イリスはこの地方の北東部、セイユは南西部にあるため、この両者を中心にして、同時に制覇を進めている。


 制覇、と言っても、別段そこに住んでいる人間をやっつけて、手下にするわけではない。

 戦ったりなどしない。

 ある意味、何もしない。


 やることと言えば、町作りであり、村作りである。


 つまり、こうだ。


 この世界には人が大勢住んでいる。

 人が住む以上、町や村もたくさんある。

 その町や村1個1個に対し、泥草たちの町や村を隣接して建造するのである。


「これぞ、忍法分身の術じゃ」

 などと弾正は言って、にんまりしているが、分身と呼称するのはどうか。


 何しろ泥草たちの町や村は、オリジナルのものよりも(はる)かに立派で、遙かに豊かで、遙かに華やかなのである。

 建物が大きくて立派だ。

 道がきれいで整備されている。

 人々の着ている服が華やかだ。

 あふれんばかりの豊かな食べ物が、そこかしこに並べられている。

 噴水が水を散らし、芸術的な彫像が建ち並び、楽しげな音楽が聞こえてくる。


 もともとこの世界において、町や村がもっとも豊かで華やかなのは年にわずかばかりの祭りの時である。

 その祭りよりも格段に贅沢で豪華な生活を、新しい町や村では毎日のように送っているのである。


 新しい町や村が作られる流れはこうだ。


 まず、弾正配下の部隊が街や村を訪れて、泥草と教団のどちらを選ぶかを問う。

 かつて、セイユでの決戦直後に弾正がやったのと同じだ。


 選ばせる際、住民たちに情報も与えるようにする。


 例えば、

「我々は神の子の技が使えるぞ」

 と言って、一寸動子をやってみせる。


「教団が言うことが本当に正しいのか? 彼らの言っていることは、すべて自称に過ぎない。何の証拠もないじゃないか。今一度、自分の頭でよく考えてみてほしい」

 と言って、教団のあり方を問う。


「我々は、お前達が自慢する魔法よりも、はるかに優れた技を使える。空も飛べるし、パンも作り出せるし、魔法を弾き返すこともできる。それでも泥草を見下すのか? 教団の言うことを真に受けて虐待するのか?」

 と言って、泥草の見方を見直すように問う。


 決して暴力に訴えることなく(攻撃してきたら容赦なくぶちのめすが)、真摯(しんし)に問う。

 その上で、教団と泥草のどちらを選ぶか、問いかける。


 それでもほとんどの住人は、教団を選ぶ。

 住民のうち、泥草はほぼ99%ついてくるが、泥草ではない者は95%が教団を選ぶ。


 どの町や村でも、弾正達についてくるのは、泥草と泥草以外の住民をあわせても、せいぜい全体の1割弱といったところだ。

 泥草たちも、ここまで言っても教団を選ぶのなら仕方ない、と判断する。

 石碑を建てて、町や村の人達が教団を選んだという証拠(教団を選んだ者達の名前や、町や村の人間が泥草を罵った言葉など)を刻んだら、それでいったん(しま)いである。


 引き抜いた1割弱はどうなるか?

 イリス近郊の都市ダイアか、セイユ近郊の都市エメラルド(新たに作った)か、どちらか近い方に連れて行かれるのだ。

 そして、教育を受ける。

 一寸動子の使い方やら、メイハツの発明品の使い方やら、弾正やアコリリスのすごさやらを教えられる。


 教育が済んだら、希望を聞かれる。

 どんな仕事を望んでいるか尋ねられる。


 仕事は様々である。

 食品や衣類を作る生産職、森を開拓したり地形を変えたりする土木職、建物を建てる建築職、などなどである。

 向いている仕事を薦めはするが、本人が好きでないと意味がないという弾正の意向もあり、本人の希望も聞く。


 特に希望が無いという泥草もいる。


「ううん……色々と教えて頂きましたから、食べ物も作れますし、建物も建てられますし、戦うことも出来るんですが、でも特にこれといった希望というのは……」


 ある時、とある新入りの泥草が希望を問われて、ううんと悩んだ。


「それなら、町や村を作る仕事はどうかな」


 担当官の泥草が言った。


「え? なんです、それは?」

「君、出身は?」

「えっと、ダイアからしばらく南に行ったところにあるショーモンという村ですが……」

「ふむ。ちょうどいい。実はショーモンの出身者達のほとんどが同じ仕事を希望していてね。君さえよければ、同郷の者達と、ショーモンの隣に新しい村を作ってほしいんだ」

「新しい村、ですか?」


 新入りの泥草は小首をかしげる。

 どういう意味だろう、と思っている。


「なあに、簡単だ。ショーモンのすぐ隣に、できるだけ豪勢な村を作ってくれればいい」

「豪勢……」

「そう、豪勢。宝石とかガラスとか大理石とか、絹とか陶磁器とか、肉とか香辛料とか、そういうのがふんだんにあふれた豪勢な村だ。村を作ったら後は好きにしていい。働かなくていい。最低限の生活維持活動さえやってくれれば、あとは飲んで食って踊って歌って、好きに暮らせばいい。それが君の仕事だ」

「えっと……」


 新入りの泥草は、まだよく意味が飲み込めていない。

 そんなことをして何になるのだろうか?


「ふむ。やる意味がわからないかね?」

「あ、その……はい……」


 担当官は「ふむ」と言い、こう続けた。


「じゃあ、考えてみよう。自分の住んでいる場所のすぐ隣で、自分よりも格段に豪華な暮らしをしている人間がいたらどう思うだろうか? 自分が毎日、体を痛めながら畑仕事をして、粗末な家でボロ着を着て暮らして、食べられるものといったら小麦と豆で作ったまずい粥。やってられないくらい貧しくて苦しくて辛い毎日だ。

 だというのに、すぐ隣で、働きもせずに、おいしそうな匂いをぷんぷん漂わせながら、楽しそうに飲み食いしている連中がいたらどう思う?

 しかも、そいつらと来たら、ちょっと前まで同じ村に住んでいて、しかも自分たちがこれまでさんざんイジメてきた泥草だ。自分より遙かに劣っていると信じている連中が、自分よりも遙かに贅沢で楽しそうな暮らしをしている。どう思う?」

「あっ!」


 新入りの泥草は、顔をはっとさせた。


「それは、とても……嫌な気持ちになりますね」

「だろう? となると、どうなる?」

「えっと……そうですね。不満が溜まります。こう……『うがー!』って感じになります」

「そうそう、うがーってなる。さらにだ。君の村にも、教団ではなくて泥草を選んでくれた人達が、ごく一部だけどいるだろう?」

「あ、はい、います。何人かいて、その中に、ぼーっとした感じのお兄さんがいるんですけど、あの、いつもなんていうか優しくて、村人達が『うさばらしに泥草をイジメに行こうぜ』って言う時も、うまく話題をそらしてくれて、その、すごく……」


 新入りの少女の泥草は、そう言って顔を赤らめる。


「ああ、うん。そのお兄さんと思わしき人も、村作りを希望しているんだがね、どうかな?」

「行きます!」

「よろしい。では、よろしく頼むよ」

「はい! わかりました!」


 新入りの泥草は、元気よくうなずいた。


85話にもなると、考えて書くというより、流れで書いています。

自然な流れとでも言うべきでしょうか。

流れの先は見えません。どんな結末になるのか筆者もわかりません。

たぶん弾正はこんなことをやろうとしているのだろう、と想像はしているのですが、実際にどうなるかはまだ見えません。

期待していただければ幸いです。

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