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魔力至上主義世界編 - 80 ダイアへの帰還

「神様ーーーーーー!」


 教団の本拠地であるイリスの隣に建てられた泥草都市ダイア。

 そのダイアに帰還し、中央の塔の自室に帰った弾正を待っていたのは、アコリリスの突撃だった。


 弾正がこの世界に来てから初めて出会い、誰よりも圧倒的に強力な一寸動子の能力を開花させた少女、アコリリス。

 そのアコリリスは、いま弾正にしがみつき、腹に頭をぐりぐりしながら、

「わあ、神様、神様だ。神様ーーー、えへ、えへへ」

 と嬉しそうに声を漏らしている。


「おお、アコリリス、久しいな。息災であったか?」

「たった今、元気になりました!」


 弾正の問いに、アコリリスは言葉通り元気よく答える。


「わはは、さようか。童は元気が一番じゃからな。ほーれほれほれ」


 弾正はそう言いながら、アコリリスの頭を撫でる。

 撫でながら、彼女の黄金色の髪を、指で丁寧に()く。


「あっ、わふっ、そ、そこっ、ああっ……」


 アコリリスは切なげに声を漏らす。


「次はもっと波打つようにやるぞ」


 弾正はその言葉通り、ウェーブを描くような形で頭を撫でる。


「ああっ、そっ、それはっ……」


 アコリリスの声が一層高くなる。


「今度は両手でふんわりと撫でてやろう」

「ああうっ! 神様っ! 神様っ!」


 がらりとふすまが開く音がする(弾正の部屋は純和風である)。

 そして、呆れたような声がする。


「あんたたち、飽きないわね……」


 ネネアであった。

 今や神の子になってしまったアコリリスの親友であり、公的にはアコリリスの副官というか取り次ぎ役というか仲介役というか、そんな立ち位置になってしまった泥草の少女である。

 その気安い態度は、誰からもかしこまられるようになってしまったアコリリスにとって、一種の安心になっている。


「ネネアか。そちとも久しいの。変わらず元気でやっておるか?」

「たった2週間ぶりでしょ。何も変わらないわよ」


 ネネアは、ため息をつきながら言う。

 彼女の言う通り、弾正はセイユに取りかかるようになってからも、セイユとダイアの間をちょくちょく往復している。

 別段、何ヶ月ぶりというわけではないのだ。


 そして、弾正はダイアに帰還するたびに、先ほどアコリリスとやったようなやり取りをする。

 実にまあ、飽きずにする。

 ネネアとしては呆れざるをえない。


「2週間でも久しいものは久しいのじゃよ」

「そうだよ、ネネちゃん。これは感動の再会なんだよ」


 2人の言葉に、ネネアはやれやれと首を振る。


 もっともネネアとしても、弾正とのやり取りでアコリリスが元気になるのなら、それは喜ばしいことだと思っている。

 ただ弾正もアコリリスも、もはや味方の中で彼らを怒る人はいない。誰からも怒られない立場になってしまっている。

 だから、自分一人くらいは苦言を呈さなければ、と思っているのだ。

 12歳で姑の真似事をすることに、思うところがないわけではないが。


「それで、今度はいつまでいられるの?」

「当面じゃ」

「当面?」

「セイユのことは片付いたからな。当面はダイアにいる。遠征の予定はない」


 弾正の言葉に、アコリリスは、ぱーっと顔を輝かせる。


「わっ! わっ! ほんとですか、神様? ほんとですか?」

「本当じゃ」

「わあ! やった! やったやった! 嬉しいです、神様。えへへ」

「わはは、アコリリスよ、そちは()いやつじゃのう。あごの下を撫でてやろう。ほーれ、こしょこしょ」

「わ、わ、きゃっ、きゃふっ!」


 ほっとくとじゃれつく二人を見て、ネネアは(やれやれ)と思いながら、頃合いを見て問いかける。


「セイユはもういいの?」

「うむ、後はレーナたちに任せて大丈夫じゃろう」

「そう」


 ネネアはうなずく。

 レーナは、背の高い泥草ルートの妹であり、イリスで弾正たちが泥草仲間を集めた時に加わった初期メンバーである。

 泥草ラジオのパーソナリティでもある。

 まあ、最近はその泥草ラジオに少々夢中になっているところがあるが、それでもやることはきちっとやってのけている。


「大丈夫じゃ。レーナなら問題ない」


 弾正がそう言うと、なんだかんだで弾正を信頼しているネネアは「そう」と言って、それ以上あれこれ口にしない。

 代わりに別のことを発言する。


「こっちは順調よ。詳しくはこれを見て」

「ほう。これはなかなか」


 ネネアが差し出した資料を見て、弾正は感嘆の声を上げる。


 イリスとセイユ、この2つの大都市を中心にして、弾正たちは泥草勢力の拡大を行っていた。


 セイユでの決戦が終わった後、弾正たちは近隣の村を訪れて「教団か泥草か」を選ばせた。

 村にいた泥草、それに泥草を選んだ村人は全員連れ去った。

 さらには教団を選んだ村人達の言動を記録する石碑を村に建てた。


 そうしたことを、泥草たちは手分けして、他の町々や村々に対しても行っていたのだ。

 イリスとセイユを中心とした数多くの町や村に対し、泥草部隊を派遣して「教団か泥草か」を選ばせる。

 回収した泥草と、泥草を選んだ村人・市民は、ダイアに連れていく。


 必然、回収作業が進めば進むほど、ダイアの人口は増える。

 そして、弾正がセイユに出立する前は4万人弱だったダイアの人口は、とうとう30万人に到達していた。

 そのことに弾正は感嘆の声を上げたのである。


 とはいえ、ダイアがここまで成長するまでの間、弾正は何もしなかったわけではない。

 むしろ積極的に指導をした。

 30万人も人が集まるとなると、それだけ食糧や住居や衣類と手配しなければならない。

 衣食住以外の問題もある。

 たとえば、それだけの人が一カ所に集中して集まれば衛生状態も悪化し、気をつけないと病気が蔓延する。30万人の病人など、悪夢以外の何物でもない。


 弾正はアコリリスにこう語ったことがある。


「温暖、栄養、衛生、医療。人が生きるには、この順で重要じゃ。

 寒ければ人間は1日で死ぬ。

 温かくても、飯がなければ1週間で死ぬ。

 飯があっても、不衛生なら1ヶ月で疫病が蔓延して死ぬ。

 そして温かくて栄養満点で清潔であっても、年に1度は病気やケガもするじゃろうから、その時は治療する。

 要は、緊急性の高い順番ということじゃな」


 温暖、栄養、衛生、医療。

 この4つを整えるのに必要なのは教育である。

 回収した泥草たちに一寸動子を教える。

 その中から、特に見込みのありそうな連中を選んで集中してさらに一寸動子を教える。彼らには、衣食住やインフラ設備を整えたり、ダイアを拡張したりする作業に従事させる。権限と責任を与えて作業をさせるのだ。

 こき使いすぎると「なんで自分だけ……」となるから、元市民や村人を部下という形で下につけて手伝わせたり、適度に休ませたり、名誉を与えたりして、不満を和らげる。

 もっとも慣れてくれば、どの作業も、そこまできつい仕事ではない。何でもそうだが、やり始めが一番大変なのであり、軌道に乗ってしまえば後は慣性の法則のごとく、滑らかに進む。

 その軌道に乗せるまでのサポートが大変なのだが。


 弾正が行ったのは、このあたりの指導である。

 人に命令をすることも、組織を作ることも、弾正は慣れている。

 だから、ダイアの人口増加に伴う、諸々の指導も行った。


 とはいえ、いつまでもつきっきりで指導するのもよくない。

 どこかで任せなければならない。


 だからダイアの人口が10万人に達したあたりから、アコリリスに任せていたのだが、彼女はうまくやってのけたようだ。

 ダイアは今や、人口30万人に達し、大きな問題も起きていない。

 あるいはネネアか、他の宝石団の面々のサポートもあったのかもしれないが、いずれにせよアコリリスは責任を果たした。


 見ると、アコリリスが、ふふんと小さな胸を張っている。

 顔はドヤ顔である。

 あれは褒めてもらいたい時の顔だ。


 弾正は遠慮無く褒める。


「わはは、よくやったぞ、アコリリス。すごいではないか。特別に両手でなでなでをしてやろう」

「わひゃっ! か、神様っ! そ、それは強力すぎ……、ひゃ、ひゃうん! あうっ! はぁっ!」


 撫でる弾正。

 喜びの声を上げるアコリリス。

 呆れるネネア。


 ひとしきり終わると、ネネアがため息をつきながら言った。


「それで? これからどうするの?」

「さよう。それなのじゃがな。5ヶ月後に、ここイリスで教団と最終決戦を行う。これより、その準備を行う」

 本物語ですが、そろそろ終わりが近づいてきています。

 クライマックスはジェットコースターみたいなものなので、制御を誤るとあっという間に話が終わってしまいます。

 あまりあっさりしすぎないよう、かといって終わり際がくどくなりすぎないよう、うまく制御しながら進めていきたいものです。


 たぶん100話くらいで終わります。

 ぴったり100話で終わったら、かっこいいですね。

 ……まあ、そもそも書き始める時に「20話以内に終わるだろう」と思っていた筆者なので、何の当てにもなりませんが。

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