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魔力至上主義世界編 - 79 出てけ、この変態ども!

 大神官たちがセイユから出て行く。

 大神官直属の部下たち200人、それに軍率神官グジンが集めた軍が3000人。さらには補助部隊。


 それら大人数が、セイユから去っていく。


 屈辱の退去である。

 結局彼らは、セイユでふんどし姿になっただけであった。

 何をしにきたんだ、と言いたくなる。

 見送る市民たちの目も冷たい。


「ぐっ……」

「くぅっ……」


 恥辱のうめき声を漏らしながら、聖職者一行はセイユの外に出て、街道を進む。

 その表情は一様に暗い。

 まあ、明るくなるような材料は何ひとつないのだから、当然と言えるだろうが。


 とはいえ、士気が下がったままでは、上層部としては困る。

 暗い顔をした一行に向けて、激励の声を上げる。


「お前たち、聞け! 我々は30000人の軍を用意して泥草を叩きのめす用意がある! 前回の決戦の10倍だぞ。これで絶対に勝つ。だから元気を出せ!」

 と大神官ジラーが吠える。


「我らには神がついておるぞ! 罪人の泥草など、神の力の前には屈するしかないのだ!」

 と高等神官イーハも続く。


「みんな。泥草は確かに怪しげな術を使う。空も飛ぶし、魔法も剣も効かない。でも、あいつらだって不死身じゃない。メシを食って夜は寝るタダの人間だ。殺す算段はついているから安心していい」

 と軍率神官グジンも言う。


 さらには大神官ジラーが大声でこう叫ぶ。


「お前たち! こんな目にあわされて恥ずかしくないのか! 泥草たちは今頃高笑いしているぞ? あのクズの泥草が、だ。ゲラゲラお前達のことを笑っているんだぞ? いいのか? あいつらをぶっ殺して目に物見せてやろうと思わないのか!? ええ!?」


 こうまで言われると、一行もざわめく。


「確かにな……」

「やられっぱなしってのはな……」

「相手はしょせん泥草なんだ。やってやれないことはないさ」


 だんだん「やってやろうじゃないか」という気になってくる。

 足取りも軽くなってくる。


 ところが、そうしてせっかくやる気の出た一行が森の間を抜け、開けた平地に出たところで、ぎょっとするものを目にする。

 街道の両端に何かがずらりと並んでいるのだ。

 像である。

 謎の像が、街道の左右に等間隔で建っているのだ。


「お、おい、あれ……なに……?」

「ま、まさか、あれって……」


 まず目についたのは、神官の像である。

 神官といっても、法衣は身にまとっていない。

 おなじみの(おなじみになってしまった)ふんどしツインテール姿である。

 かろうじて神官だとわかるのは、丸に横線2本を引いた教団のエンブレムを両手で高々と掲げているからである。

 そんな神官の等身大かつリアルなカラーの像が、満面の笑顔で、実に誇らしげに教団のエンブレムを掲げているのだが、格好が格好だからバカにしか見えない。

 教団にとって恥でしかない。


 続いて、目に付くのは、これまたおなじみになってしまった大神官ジラーと高等神官イーハのラブラブ像である。

 2人で抱き合いながら熱烈なキスをする例の像だ。


『おお、イーハよ。愛しておるぞ!』

『私も愛しております、ジラー様』

 という例の吹き出しも、もちろんばっちりとついている。


 さらには、ジラーとイーハとグジンの3人の像が建っている。

 例の魔法少女のごときフリフリの可愛らしい衣装に、ちょんまげ頭である。

 3人が3人、それぞれ、横にした手をチョキにして目に当てるというアイドルのようなポーズを取っている。

 もちろん顔はこの上ないくらい、満面の笑みである。

 わざわざ台座に「大神官ジラー」だとか「高等神官イーハ」だとか書いてある親切っぷりである。


 他にも、教団の面々が泥草の前で土下座する像。

 神官たちがふんどしツインテール姿を披露する像。

 なけなしの食糧を市民から奪い取る聖職者たちを描いた像。

 などなど、ともかく教団をコケにする像がずらりと建ち並んでいる。


「ほぎゃああああ!」

「ひいいいいいいいいい!」

「ぐうううううう!」

 ジラー、イーハ、グジンの3人はそれぞれ屈辱の悲鳴を上げる。


 彼らにとって、恥ずかしい像を建てられるのはこれが初めてというわけではない。

 初めてではないが、屈辱は屈辱なのである。

 3人は3人とも、怒りと恥辱で顔を真っ赤にしながら、悔しそうにギリギリと歯を食いしばる。


 屈辱なのは、部下の聖職者たちも同じである。

 彼らは自分たちがエリートだと信じている。

 愚民どもの上に立つ上位者だと思っている。

 それが今や、こうもあからさまにバカにされているのである。


「おのれ……!」

「泥草殺す!」

「絶対殺す!」


 聖職者達は怒りで心をひとつにする。


 ◇


 心をひとつにした聖職者たちを待っていたのは、村人たちの悲鳴だった。


「ひ、ひぃーーーーー!」

「な、なんだ、あんたらぁ!」

「へへ、変態だ! 変態集団が現れたぞ!」


 補給のために近隣の村に立ち寄った大神官一行を一目見るなり、村人達は恐怖で「ひ、ひい!」と悲鳴を上げ、大騒ぎになったのである。


「いい、いま、今すぐ! 今すぐ神官様を呼べー!」

「女子供は家にこもってろ! 絶対に外に出るんじゃねえぞ!」

「おのれ、変態どもめ! おれたちの村には絶対に入れないぞ!」


 村の男たちは、(くわ)や鎌を手に取り、大神官一行を威嚇する。

 しまいには豚までやってきて、ブヒブヒ鳴きながら一行を追い出そうとする。


「我々は聖職者だ! お前たち、頭が高いぞ!」


 一行はそう言うが、誰も信じない。


「嘘つけ」

「そんな格好の聖職者がいるか!」

「この異端者どもめ!」


 大神官一行は「ぐぅ……」とうめく。

「我々は大神官ジラー様の一行なのだぞ」と叫びたい。

 叫んで、ひれ伏せさせてやりたい。


 が、そんなことをしたら、大神官ジラーがちょんまげミニスカート姿であることを衆目にさらさなければならない。

 これ以上大神官の恥ずかしい姿をさらすわけにはいかない以上、大神官の名前は出せない。もう手遅れかもしれないが、それでも嫌なのだ!

 ぐっとこらえる。

 そうしている間にも、村人達は「出てけ!」「この変態!」の大合唱である。

 日頃は畑の境界線をめぐっていがみあっているエドガーとピエールも、息をぴったり合わせて「出てけ、この変態ども!」と叫ぶ。


 あげくには、後からやってきた村の小神官からも、

「なんとまがまがしい姿……この者たちは悪魔の化身です!」

 などと断言される始末である。


 これまで畏怖と畏敬と畏念を一身に集めてきた大神官たちにしてみれば、泣きたくなるような扱いである。


 一行は、聖印を見せ、魔法を使って見せ、どうにか聖職者であることを納得してもらう。

 が、村人達は謝らない。

 むしろ「なんで聖職者があんな格好をしているんだ?」「破門された連中じゃないのか?」と、うさんくさいものを見る目でじろじろ視線を向けてくる。

 尊敬など欠片もこもっていない。


 大神官一行は、水や食糧を補給すると、逃げるように(まあ、じっさい逃げているのだが)村を出た。

 本当は無礼な村人どもを全員ぶっ殺してやりたいが、いちいちそんなことをしていたら、行く先々で毎回大量殺戮をしなければならないはめになる。

 だから、ともかくも、これ以上不快な思いをする前に、さっさと逃げる。

 彼らの背中には、村人たちの侮蔑の視線が突き刺さっていた。


(くそ、どうしてこんなことになったんだよぉ……)


 大神官ジラーは情けない気持ちでいっぱいだった。

物語を書く時は、適当さと真面目さの割合に苦心します。

適当にしすぎると、内容がめちゃくちゃになります。

真面目にしすぎると、そもそも完成しません。

毎回、バランスにてこずりながら、なんとか書いています。

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