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魔力至上主義世界編 - 54 セイユ到着

 グジンがセイユの近くまで来ている。

 弾正(だんじょう)は、セイユのガラスの塔の最上階でその報告を受けた。


 このところ、弾正は忙しい。

 都市ダイアの立ち上げと、ここセイユでの謀反(むほん)の企みとで、文字通り飛び回っている。


「教団を 地獄に落とすも ひと苦労 ダイアとセイユ 行ったり来たり」


 という弾正にしてはさほど上手くもない和歌を詠んでしまうほどである。


「手はずは出来たな?」


 弾正は部下にたずねる。

 教団に対する次なる一手。それの準備を、今し方まで整えていたのだ。


「はっ。すべて整いましてござる」


 部下は、戦国時代の小姓のごとき口調で答える。

 このところ、弾正の直属の部下は、弾正の影響か、しゃべり方が戦国時代っぽくなってきているのだ。


「よかろう。ならば頃合いが来たら……やるぞ!」

「かしこまりましてござる」


 ◇


 大神官が泥草に殴られている謎の巨大な像。

 それをあとにしたグジン一行は、そのままセイユに向かっていた。

 ほどなくして、副官がセイユの町影に気がつく。

 彼は目が良く、敵影や目的地に真っ先に気づくのだ。


「グジン様、そろそろ見えてまいりました、あれがセイユの……え?」


 副官はそこで固まった。


「んー、どうしたのぉ?」


 グジンはたずねる。


「あ、あの……えっと、その……と、とにかく、あれをご覧ください」

「んー、どれどれぇ」


 副官が指差した「あれ」をグジンは見る。


「……わぁ、あれは何かナァ?」

「わ、わかりません」


 グジンの問いに、副官は答える。

 セイユの町にはグジンも副官も来たことがある。

 海に面した大きな都市である。


 が、いくらセイユが大都市だからと言って、あんな巨大な城壁は存在しない。

 高さ50メートルもある城壁だなんて、イリスにだってない。


「それにあんな塔……んー、塔だよねぇ、あれ。あんなのあったかナァ?」

「い、いえ、なかったと存じます……」


 グジンが指したのは、セイユの中央からぬっと突き出るように建っている高さ200メートルはあろうかというガラスの塔である。

 見たこともない巨大建造物に、副官は口を開け、唖然とするばかりである。


「その……大神官様がお建てになったのでしょうか?」

「んー、去年ねぇ、ボクがセイユに来た時は、あんな塔なかったよぉ。あれだけの塔がたった1年で建つかナァ」

「……いえ、無理でございましょうな」

「だよねぇ。ま、いいや。とにかく近くに行こう。こんなところでぼーっとしていても仕方がない」

「は、はい!」


 一行はそのままセイユに向かう。

 城壁の前まで来ると、またまた副官はびっくりした。


「なっ!」


 副官が驚きの声を上げる。

 高さ50メートルのセイユ城壁には、何やら妙なものが描かれていたのだ。

 4コマ漫画である。

 内容はこうだ。


・1コマ目

 大神官ジラーと高等神官イーハが、豚とネズミのような顔でダブルピースをしている。

 ジラー「僕は大神官ジラーぶひい。教団最強!」

 イーハ「私はジラー様の愛人、高等神官イーハだ。教団最強!」


・2コマ目

 泥草の少女がにっこり笑っている。

 泥草少女「教団の言うことは全部嘘です。教団は泥草より弱いんです。その証拠に、泥草の塔に手も足も出ません」


・3コマ目

 ジラーとイーハが、ガラスの塔に魔法を放っている。

 ジラー「なんだとぉ! 僕たちは強いぶひい! くらえ、大神官様魔法!」

 イーハ「そうだ、教団は正しいのだ! 高等神官様の魔法を受けてみろ!」


・4コマ目

 ジラーとイーハが子供のように大泣きしている。

 ジラー「うわーん、全然歯が立たないよぉ! 本当は教団は弱いぶひい!」

 イーハ「ふえーん、手も足も出ないよぉ! 教団は嘘つきなんです、ごめんなさぁい!」


 ちなみに、4コマ漫画は城壁の内側と外側のいたるところにたくさん描かれており、すべて違う内容である。

 グジン一行が見たのは、そのうちの1話である。


「ななななな、なんですか、これはぁ!」


 副官は驚愕の声を上げた。


「んー、やっぱりセンスのない絵だなぁ」


 一方でグジンは、のんきなことを言う。


「ななな、何を言っているんですか! 大神官様が! 大神官ちゃまがコケにされているんですよ!」

「落ち着きなって。噛むなって。ちゃまって何だよ、ちゃまって」

「いいいい、いえいえいえいえ、しかしですね、しかしこれは!」


 副官はあわあわしながら叫ぶ。

 教団をコケにするものを目にするのは、今日だけでもう2度目である。

 この時代、大神官や高等神官というのは、雲の上の人物であり、強大な権力と権威を誇っていた。

 逆らおうものなら、処刑は確実。

 一族郎党皆殺しにされなければ幸運、とまで言われているほどであった。


 そんな殿上人を笑いものにするような内容の漫画が、でかでかと城壁を飾っているのだ。

 独裁者の悪口を言うと殺される国で、独裁者をコケにする巨大な絵が街中に展示されているようなものだ。

 そんな信じられないようなものを1日で2度も!

 しかも今回は、大都市の入り口の城壁に描かれているのだ!

 副官でなくても「なんじゃこりゃ!」と叫びたくなる。


 まわりを見ると、セイユの市民、あるいはセイユにやってきた行商人や巡礼者が、同じく唖然とした顔で4コマ漫画を見ている。

 中にはこらえきれずに「ぷぷっ」と笑ってしまったり、必死に笑いをこらえようと口元を抑えたりしている者もいる。


「き、貴様らぁ!」


 生真面目な副官は、笑っている者たちに対して処罰を加えようとしたが、グジンが止める。


「放っておきなって」

「し、しかしっ!」

「ボクたちは大神官様から呼ばれてきたんだよ。一刻も早く合流するのが先だよ」

「ま、まあ、それはそうですが……」

「じゃ、入ろう。とはいえ、なんか異常事態が起きているのも確かだ。あー、キミたち、ちょっと偵察行ってきてよ」


 グジンはそう言って部下を5人、偵察に行かせる。

 軍率神官によっては「偵察なんて誰でも出来る」と言って、自分の部下の神官ではなく、平民から雇った補助部隊の人間を偵察に行かせる者もいるが、グジンは情報の大事さを知っている男であり、わざわざ専門の偵察部隊を設けているほどである。

 この時も、偵察部隊から5人、様子を見に行かせている。


 待っている間、グジンは手持ちぶさたになる。

 部下に声をかける。


「あー、そこのキミ。紙とペンとインクをくれ給え。ちょっとボクも描いてみよう」

「え? グジン様?」


 そう言ってグジンは、困惑する副官をよそにして、さらさらと4コマ漫画を描き始めた(ちなみにグジンの部下たちはもう慣れているのか、何も言わない)。


「よっと。できた。どうだい、こっちのほうが、よほど芸術的だろう?」


 グジンはそう言うと「自慢の芸術的4コマ漫画」を部下たちに見せた。


・1コマ目

 グジン「やあ、ボクは軍率神官グジンだよぉ」

 民衆「きゃー、グジン様! 素敵!」

 民衆「ああ、なんとお美しい……」


・2コマ目

 民衆「大変です! 反乱が起きました!」

 グジン「ハハハ、ボクに任せたまえ」


・3コマ目

 グジン「ボクの芸術的用兵で、反乱軍は皆殺しだよぉ。みんな死んじゃえ!」

 反乱軍「うぎゃああああーーー!」


・4コマ目

 民衆「ああ、反乱軍を皆殺しにしたグジン様、格好いい!」

 グジン「ハハハ、当然じゃないか」


 部下たちはちらりと目配せをし合うと、そろってこう言った。


「すばらしいです、グジン様。最高のできばえです!」

「見事なまでに芸術的ですなあ!」

「これぞ芸術です! ああ、こんなすばらしものを目に出来るなんて! 生きてて良かった!」


 グジンは「うんうん」と満足そうにうなずく。


「副官君、キミはどうだい?」

「え、えっと……」


 副官は困った顔をするが、先輩たちの「いいからほめておけ!」という無言の圧力を感じ、

「す、すばらしい、ア、アートだと思います……」

 と言った。


「うんうん、そうかそうか」


 グジンは嬉しそうにうなずく。


 そこに偵察部隊が帰ってきた。

 彼らが持ち帰った情報はわけのわからないものであった。


「大聖堂が……信じられないことになくなっていました。文字通り消えてしまったのです! そして、代わりに大神官様と高等神官様が、その……キスをしている像が建っております」

「ガラスの塔の中には泥草が大勢住んでいました! しかも上手そうに飯を食っているのです!」


 グジンは彼らが何を言っているのかよくわからなかった。


「えっと、大聖堂がなくなった? 大神官様と高等神官様がキス? それは何かの比喩かな? 聖典の引用とか何か」

「い、いえ、言葉通りでございます」


 グジンはやはりよくわかなかった。


「とにかく危険はないんだね?」

「は、はい、目に付く危険はございません」

「よし、じゃあ、行こうか」


 ともかくも安全ならそれでいい。

 グジンはそう判断すると、セイユの町に入る。

 入り口には門番が2人立っているが、グジンたちを見ると「こ、これはこれは!」と言って、道を空ける。


 セイユの町に入ったグジンは、偵察の言葉が全て真実であることを知る。


 まず大広場に謎の巨大なガラスの塔が建っている。

 そして塔の中には、なんと泥草たちが大勢いるのだ。

 しかも白パンだの分厚い肉だのといった贅沢(ぜいたく)な食事を美味そうに食べている。

 通りがかるセイユの市民は、それをいまいましそうににらみつけることしかできない。


 それだけでもびっくり仰天であるのに、さらに驚きの出来事があった。

 大聖堂がなくなり、大神官と高等神官の愛の像が建っていたのだ。


「なるほど、確かに大聖堂がなくなっているねぇ。そして、この像。大神官様が高等神官様との愛に目覚めて像を建てさせた……わけないよねぇ」

「あ、あわわわわ、なんということを、なんということを……」

「落ち着きなよ、副官君」

「こここ、これが落ち着いていられますか!」


 副官は興奮気味に叫ぶ。


「そ、そうだ、グジン様、我々でこの像を壊しましょう! こんなけしからん像、あってはなりません。ご命令があれば、すぐさまガレキにして見せます。ええ、して見せますとも!」


 生真面目な副官は、真剣な顔で提案する。


「んー、やめとくよ」

「ななな、なぜでございますか!」

「嫌な予感がするからね」

「し、しかし……」


 なおも食い下がる副官に対し、グジンはすっと冷たい目で言った。


「ボクの言うことが聞けないの?」


 その冷たい目に、副官はさっと顔が青ざめた。

 上官に対し、言ってはいけないことを言ってしまったことに気がついたのだ。


「い、いえ! とんでもございません! 失礼致しました!」

「ん。わかればいいよぉ」


 グジンは「さてと」と言った。


「なんにせよ、まずは大神官様に会わないとね。ご命令では3000人の軍を率いてイリスに向かえ、ということだけれども、詳しいことは聞いていないしねぇ」

「は、はい! さようでございます」

「そうだね。また偵察させるか。あー、これこれ、そこのキミたち、ちょっと聞き込みに行ってきてよ。知りたいのは大神官様のいどころ、それとこの町でここ数日間、いったい何が起きたのか、もね。頼んだよ」


 そうグジンが命じ、偵察部隊が命令通りに出発しようとしたその時である。

 突如、ガラスの塔から、町中に聞こえるほどの謎の大声が響き渡ったのだ。


「むっほん!」


やっとセイユに着いた!

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