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魔力至上主義世界編 - 47 大邸宅のビフォア・アフター (1)

 ズガァァァン!


 大邸宅が激しく揺れる。


「ななな、なに? なになに? なにが起きたの?」


 ガガァァァン!


 また轟音と共に、激しく揺れる。

 壁の向こうから、ガラガラと建物が崩れるような音もする。


「たた、大変です、大神官様!」


 そこに、ドアを開けて小姓が飛び込んできた。


「え、な、なに!? 何があったの!?」

「そ、それが……」


 小姓が言い終わらないうちに。


 ズガシャァァン!


 轟音と共に、大神官であるジラー達のいる部屋の壁を突き破って、直径1メートルほどの岩が飛び込んできた。

 幸いにして誰も負傷しなかったものの、壁はガラガラと崩れ、美しい調度品はメチャクチャである。


「ひゃああああ! ぼ、ぼ、僕の邸宅がぁ! 未来に残る大邸宅がぁ!」


 ジラーは悲鳴を上げる。


「大神官様! 先ほどから大きな岩が、この邸宅に次々と飛んできているのです! 何者かが、この邸宅を攻撃しているのです!」

 と、小姓は言った。


「こ、攻撃? どどど、どういうこと?」

『わはは、わからぬか、ジラーよ』


 どこからか笑い声がした。遠くから響いてくるような不思議な声だ。現代人が聞けば「マイクを通したような声」と思うだろう。


「そ、その声! さっきの泥草(でいそう)だな! どこだよ!? でてこい!」


 ジラーは怒鳴るが、弾正(だんじょう)は反応しない。

 実のところ、弾正は既に邸宅の外に脱出しており、遠くから拡声器を使ってジラーに呼びかけている。

 そのため、ジラーがいくら叫んだところでその声は聞こえないのだが、そんなことなど知らないジラーからすれば、無視されたように感じる。


「おい! 無視するなよ! 出てこい! どこだ!?」

「大神官様、ここは危険ですぞ。まずはいったん外に避難すべきかと」


 高等神官イーハが避難を提案する。


「はあ? 避難? ふざけんな、何言って……」


 ゴワァァァン!


 また岩がジラー達の部屋に飛び込む。

 先ほど岩が飛んできた時に、全員壁から離れていたから、今回も負傷者は出なかった。

 が、外とを隔てる壁は完全になくなっている。家具類も全て原形をとどめていない。わざわざ大陸の果てから巨木を切り出して作らせたお気に入りの一枚板のテーブルも、純度の高い珍しい水晶を加工して作らせた自慢の器も、何もかもが粉々である。


 ジラーはしばし、めちゃくちゃになった室内を呆然と見つめていたが、だんだんと怒りがこみ上げてきた。


「おのれ! おのれおのれおのれぇぇぇ! よくも僕の邸宅に穴を開けてくれたな! ただで済むと思うなよ! ぶっ殺してやるからな!」


 ジラーは怒りの声を上げる。

 そんなジラーを挑発するように、また弾正の大声が部屋に響き渡った。


『さて、ジラーよ。これから長期間にわたり、楽しい楽しいうぬの地獄ショーが始まる。まずは挨拶代わりのジャブとして、うぬの自慢の邸宅をガレキにしてやろうと思う。一世一代の解体ショーじゃ。楽しみにしておれ』


 弾正の言葉に、ジラーは一瞬きょとんとする。


「は……? え、うそ、ガレキ? 僕の邸宅をガレキ? な、何言って……」


 グワァァァン!


 建物全体を揺らすような大きな音が響き渡る。

 またどこかの部屋に岩が飛び込んできたのだろう。


「大神官様! 早く避難を! おい、お前たち! 大神官様の緊急事態だ! 急いで外にお連れしろ!」


 高等神官イーハは、小姓達に、ジラーを担いで外に連れ出すよう命じる。

 ジラーは怒り狂う。


「お、おい、待てよ! あのクソ泥草は、僕の大邸宅を壊すと言ってるんだぞ! 壊すだって!? ふざけるな! ふざけるなぁぁぁ!

 僕はなぁ、古代帝国の末裔なんだぞぉ! この邸宅は、そんな僕が心血を注いで作ったものなんだぞ! 100年経った後も、僕の栄光の証として残るものなんだぞ! 人類の宝なんだ! それを壊すだってぇ?

 ええい、お前たち、何をしている! 岩の飛んできたほうを調べるんだ! そこに敵がいる! そこに魔法を打ち込むんだ!」

「しかし、大神官様、ここは危険です! まずは避難を……」

「うるさいうるさぁい! 僕にコソコソ逃げろって言うのか? ふざけんな! 僕は戦うぞ! いいか、お前たぐごわぁ!」


 ジラーの言葉は最後まで発せられなかった。

 ちょうどその時、隣の部屋に岩が飛び込み、その衝撃で壁の破片がジラーの頭めがけて飛んできたのだ。

 破片はジラーの頭に直撃した。


 運の悪いことに、普段のジラーなら白銀糸の服という、来ているだけで自動的に全身にバリアを張る特殊な服を身にまとっているのだが、この時はくつろいでいたこともあり、もっと気楽な格好に着替えていたのだ。

 それゆえ、石の破片は、まったく抵抗を受けることなく、ジラーの頭にヒットした。


 不幸中の幸いと言うべきか、さほど大きな破片でもなく、また尖っているわけでもなかったため、ジラーは致命的な傷を負ったわけでも、大怪我をしたわけでもなかったのだが、それでも脳に衝撃を受けた結果、気絶してしまった。


 高等神官イーハは、これ幸いとばかりに、邸宅からの脱出を決めた。

 彼は別に古代帝国趣味などなかったから、この邸宅がどうなろうと知ったことではなかった。むしろ清貧を心がけている彼からすれば、このような城のごとき大邸宅など悪趣味としか思えなかったのだ。

 宗教的に重要なものが邸宅にあれば話は別だが、ここにあるのは贅沢品と、古代帝国の遺跡からの出土品ばかりである。どうでもいい。

 だいいちイーハは、ジラーのことは正直あまり好きではない。彼の名が100年後の未来まで残ろうがどうなろうが、知ったことではないのだ。


「わあ、大変だあ。大神官様が、ケガをされたぞお。戦いたいが、これではしかたがないなあ。大神官様の安全が第一だあ。ここは避難するしかない。そうだろう、お前たち?」


 イーハは、棒読み口調でそんなことを言う。


「は、はい、そうですね」


 周りの者達も、この場で最高位の高等神官がそう言えば逆らえない。慌てて同調する。


 そう決まれば、後は早い。

 小姓達が気絶したジラーのぶくぶく太った重い体を「いっせーの、せっ!」と持ち上げる。

 轟音が鳴り響き、そこかしこが崩れていく大邸宅から急いで抜け出すと、邸宅がそびえる丘から駆け下りる。


「ん……」


 そうして、ようやく目を覚ました大神官が目にしたものは。


 ガガァァァン!

 グワシャァァァン!


 岩が次々と直撃しては、少しずつ崩れている大邸宅だった。

 古代帝国の大建造物を模して作られた白亜の城とも言うべき見事な建物は、壁のあちこちに穴が空き、4つある尖塔のうちの2つは崩れ、すでに半壊状態だった。


「ひゃあああああ! ぼ、僕の大邸宅がぁぁぁぁ! 僕の! 僕の栄光を未来に伝える大邸宅がぁ! 人類の宝がぁ!」


 大神官ジラーは悲鳴を上げた。


「大神官様、岩が飛んでくるということは、どこかに投石機があるはずです。泥草どもは、それを使って攻撃しているはずです。その場所を見つけて、魔法を打ち込んでやれば、勝てます」


 イーハが落ち着いた口調で言う。

 大邸宅がどうなろうと知ったことではないが、だからといって教団に対してなめた真似をするやつを放置できるわけではない。

 冷静に対処策を述べる。


「そ、そんなことはわかっている! さっさとやつらを探しに行くぞ!」


 ジラーは部下達をぞろぞろと連れて、あたりを駆け回る(ジラーは太りすぎていて走れないので、屈強な小姓たちに担がれているのだが)。

 このあたりにはセイユという海に面した都市があり、大邸宅はそこから少し離れた丘の上にある。

 丘の周りには草原しかない。

 見晴らしは良い。

 投石機などという巨大な機械があれば、一発でわかる。


 が、ない。

 そんな巨大な機械など、どこにも見つからない。

 あたかも透明になって姿を消しているかのごとく、人っ子ひとり姿が見えない。

 実際のところ、弾正たちはメイハツの発明品の力で透明になっているのだが、泥草にそんな能力があるなどとはジラーもイーハも想像すらしていない。

 彼らは自分たちこそ一番優れていると思っている。泥草ごときに何ができるものか、と思っている。

 けれども、その「泥草ごとき」の姿がどうしても見つからない。


「なんでだよ!? なんでどこにもいないんだよ!?」


 焦りながら、必死に見えない泥草たちの姿を探す。

 その間にも、岩はそこかしこからポンポンと打ち出される。まるで、見えない投石機が、あたりにたくさん設置されているかのごとくである。

 大邸宅は、そのたびに少しずつ崩れていく。

 莫大な予算をかけて、心血注いで築き上げた大事な大事な大邸宅がガレキに変わっていくのを見ると、心が引き裂かれるような気持ちになる。気が狂いそうになる。

 尖塔がまた1つ、ガラガラと音を立てて崩れる。


『わはは、どうした、ジラーよ。早くしないと、うぬの大切な大邸宅が、ただの石ころの山になってしまうぞ』

「ち、ちくしょう! ちくしょう!」


 ジラーは怒りで顔を真っ赤にする。


「ええい、魔法を放て!」

「は?」


 ジラーの言葉に、小姓は思わず聞き返す。


「いいから魔法を放て!」

「あの、放つって、どこに?」

「どこでもいい! 泥草どもはこのへんに潜んでいるはずだ。やつらをあぶり出すんだ! とにかく片っ端から魔法を放つんだよ!」


 ジラーは怒鳴り声を上げると、「僕が手本を見せてやる」と言って魔法を放った。

 子供の頃からの自慢である大きな赤い光が、弾丸となって草原に飛んでいき、地面に当たって弾け飛んだ。


「こうやるんだよ! 早く! 早くやれよ!」


 ジラーは青筋を立てながら、叫ぶ、

 小姓たちは「わ、わかりました!」と言い、そこかしこに魔法を放つ。

 イーハもため息交じりに魔法を放つ。

 赤い弾丸が、四方八方に飛んでいく。


 が、1発として命中した様子はない。泥草たちの悲鳴も、投石機が破壊されたような音も聞こえない。

 代わりに、また岩がひとつ邸宅に向けて飛んでいき、壁に穴を開ける。


「くそぉ! くそぉ!」


 ジラーは悔しさで歯ぎしりをしながら、それでもひたすらに魔法を放つが、まるで効果は上がらない。

 やがて、最後の尖塔も倒れ、残った建物も崩れ去った。

 多くの泥草の血を流して建てられた大邸宅は、もはやただのガレキの山である。


『わはは、さっぱりしたではないか』

「お、おお、おのれぇ! よくもぉ! よくも僕の大邸宅をぉ!」

『まあ、あわてるでない、ジラーよ。実はうぬの大邸宅、わしがリフォームしてやろうと思ってな。今から新しく建て直してやるから、そこで見ておるがよい』

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