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魔力至上主義世界編 - 31 それなら作れます

「アコリリスよ、そちにはメイハツ以上にやってもらいたいことがある」


 弾正(だんじょう)の言葉に、アコリリスは「え?」と驚いた顔をした。


「ふぇ? わたしにやってもらいたいこと、ですか?」

「さよう、アコリリスにしかできぬことじゃ。そちが頼りなのじゃ」

「わ、わたし、神様に頼られている……!」

「やれるか?」


 弾正の言葉にアコリリスは、ぶんぶんぶんぶん首を縦に振った。


「や、やります! わたし、神様のお役に立てるなら何でも! さっそく行ってきます!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 神の()から駆け出そうとするアコリリスを、ネネアが慌てて呼び止める。


「まだ神様、何も言っていないでしょう? 何やればいいかわからないじゃない!」

「ネネちゃん。神様がやれって言ったら、即行動あるのみなんだよ」

「いや、アコ、さっきも言ったけど落ち着きなさい。ちょっと神様! 笑ってないでアコを止めてよ!」


 5分後、3人は茶をずずっとすすっていた。


「す、すみません、神様。つい興奮してしまって……」


 ようやく落ち着いたアコリリスは、申し訳なさそうに頭を下げる。


「わはは、よいよい。アコリリスのそういう一途(いちず)なところは好きじゃぞ」

「……ふ、ふえぇ!? す、すすす、好き? ふ、ふわぁ……」


 アコリリスは顔を真っ赤にして、(ほう)けたようになる。


「で? アコにしてほしいことって何?」

「おお、そうじゃ。アコリリス。そちが生やした看板の件じゃ」

「……わたしを……好き……」


 アコリリスはまだ呆けている。


「ほら、アコ! 神様が聞いているわよ!」

「ふぇ!? ふぁ、ふぁい! な、なな、何でしょうか!?」

「そちが中神官どもに生やした看板のことじゃ」

「え? ……えっと、あのピカピカ光るやつですか?」

「あのピカピカ光るやつじゃ。あれについて、ちくと(たず)ねたいのじゃがな。あの看板、あれはそちが1人で考えて生み出したものなのか?」

「あ、はい。神様のために1人でがんばりましたっ!」

「そうか。偉いの。よくやったぞ」

「えへへっ」


 アコリリスはほめられて嬉しそうにする。


「それにしても1人でやったのか。ふうむ……」


 弾正は考え込む。


「それがどうかしたの? ただの看板でしょう?」


 ネネアの言葉に、弾正は首を横に振る。


「ただの看板ではない。

 第1に、剣で切りつけると剣のほうがへし折れるほどに硬い。

 第2に、そのわりにえらく軽い。

 第3に、触れたものを腐食させる。

 第4に、書かれた文字がぴかぴか光る。

 どう見てもただの看板ではあるまいて」

「……言われてみればそうね」

「アコリリスよ、あの看板はなんじゃ?」


 弾正の問いかけに、アコリリスは「えっと……」と少し考え、それからこう答える。


「あのですね、まず硬くて軽いのは、なんかそういうの作りたいな、作れそうだな、って思いながら一寸動子(いっすんどうし)をやっていたらできちゃいました。

 腐食させたり、文字を光らせたりするのも、それができたら神様喜んでくれるかな、喜んでほしいな、なんかできそうだな、って思いながら一寸動子を使っていたら、こっちもできちゃいました」

「そうか、できちゃったか」

「はい、できちゃいました!」


 アコリリスの一寸動子は物体を原子レベルで精密に動かす。

 おそらくアコリリスは何度もそういう精密な動きをやっているうちに、「こういうのはこうやれば作れそう」というのが感覚的につかめるようになったのだろう。

 一寸動子の精密さでは随一を誇るアコリリスだからこそできることである(速度も規模も随一なのだが)。


 弾正は「ふうむ」とうなる。


「では、アコリリス。わしが今からそちに『空飛ぶ車を1人で作れ』と命じたとしよう。メイハツが作ったものを参考にすることなく、最初から最後まで1人でじゃ。できるか?」

「空飛ぶ車ですか? えっと、うんと……」


 アコリリスは考え込む。


「も、申し訳ありません。できません……」

「なぜじゃ?」


 弾正はたずねる。

 あんな不思議な看板をあっという間に作れるくらいなのだ。

 空飛ぶ車だって、作れそうなものではないか。

 だが、アコリリスは「できません」と言った。


「その……どう作ればいいのかわからないのです」

「だが、看板は作れたではないか?」

「えっと、あれはそういう材質のものだから作れたのでして……」

「ふむ?」


 やはりよくわからない。

 弾正は何度かアコリリスにたずねる。


 それで、何となく理解した。


 要するにアコリリスは「機械が苦手」なのだ。

 生理的に苦手なのか何なのか。

 ともかく、空飛ぶ車も飛行ベルトも作れない。あれは両方とも機械だ。

 無論、メイハツが作ったものを見てコピーすることはできる。

 けれども、自分で何かゼロから機械を作れと言われてもできない。


 機械以外であれば、アコリリスは色々とすごいものを作る。

 大神官の着る白銀糸の服をもとにして、不動服を作り上げたのはアコリリスである。

 泥草街の城壁に使われている強化ガラスを作ったのもアコリリスだ。

 飛行ベルトの練習のために、ボヨンボヨンと跳ねる床や壁を作ったのもアコリリスだし、中神官たちの頭に生やした不思議な看板もアコリリスが作った。


(そういう意味ではメイハツと棲み分けができていてちょうどよいな。機械はメイハツ、それ以外はアコリリスと言ったところか……ん?)


 ふと、アコリリスを見ると、うつむいている。

 落ち込んだ顔をしている。

「できない」だの「作れない」だのといった言葉を連発してしまったため、弾正をがっかりさせてしまったのではないかと、気が沈んでいるのだろう。


「ああ、これこれ、アコリリスよ。わしは今ゴムがほしいのお」


 弾正はいささか棒読みな口調で言う。


「ゴム、ですか?」

「さよう。弾力があって、よく伸び縮みする素材じゃ。なんだか無性に欲しくなってきてしまったのお」

「ん……なんか作れそうです! ちょっと作ってきます!」

「ちょ、アコ!」


 ネネアが止める間もなく、アコリリスは神の間の窓から外に飛んで行ってしまった。


「ちょっと!」


 アコリリスを元気づけようとしているのはわかるけれども、もっと他にやり方があるんじゃない? とでも言いたげな目でネネアは弾正をにらむ。

 弾正は素知らぬ顔で茶をすする。

 ほどなくしてアコリリスが窓から帰ってくる。


「できました!」

「ほう、できたか! ふむ」


 弾正の知るゴムと違い、それは青かった。

 野球のボールくらいの大きさの青いかたまりである。

 ぐねぐねして、伸びたり縮んだりして、床にたたきつけると勢いよく弾む。


「おお、これぞまさしくゴム! よくやったぞ、アコリリス。ほーれほれほれ」

「あっ、わっ、きゃふっ!」


 弾正はアコリリスのあごの下をこしょこしょとくすぐる。

 アコリリスは、きゃっきゃと言って喜ぶ。

 ネネアは呆れた顔をする。


「このゴム、メイハツに差し入れてやったら喜ぶじゃろうな」

「メイハツさん、ですか?」

「さよう、何か発明の役に立つかもしれぬ」

「わかりました。あとで持って行きます」

「うむ。さて、それはそれとして、アコリリスよ」

「はい」


 アコリリスは返事をする。


 弾正は「さて、どうしよう」と思った。

 何かアコリリスに声をかけなければならない気がした。だから声をかけた。

 が、かけたところで、さて何を言えばいいのか、と思った。


 ゴムを作ったのはすごい。大したものだ。

 だが、それとは別の次元の「何かすごいこと」が、アコリリスにはできる気がするのだ。

 そんな予感がしたからこそ「メイハツ以上にやってもらいたいことがある」と弾正はアコリリスに言ったのだ。


「ふうむ」


 よくよく考えると、この世界には不動服のように「着るとバリアを発する」という服すらあるのだ。

 常識に縛られたものづくりをする必要などない。

 そうとも! 自らを縛っていては、圧倒的な大謀反など起こせぬではないか!


「アコリリスよ!」

「は、はい!」

「そうじゃな。たとえば、身につけることで怪力無双になれる腕輪、なんてものは作れるか? 腕輪でなく、指輪でも服でもいいのじゃが、とにかく身につけると怪力になれる何かじゃ」

「え、えっと……」


 アコリリスは、うんと、ええっと、と考えるが、やがて申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません。たぶん……無理です……」

「ダメか。しからば、こういうのはどうじゃ。履くと韋駄天(いだてん)のごとく高速で走れる靴じゃ」

「えっと……それも難しいかと……」


 弾正は、いくつも提案をする。

 振ると炎が出てくる杖。

 触ると瞬間移動ができる指輪。

 時間を止められる砂時計。

 アコリリスはどれも申し訳なさそうに「難しいです……」と言う。


「ふうむ。ならば、そうじゃな。一寸動子の力を何倍にもする指輪なんてどうじゃろう」

「……あっ! それならできますっ!」

「うーむ。やはり難しいか。ならば……え? できるのか?」

「できますっ! それなら作れそうですっ! さすが、神様! 一寸動子の力を何倍にもするだなんて、わたし、全然思いつきませんでした!」


 アコリリスは、指輪が作れること自体よりも、弾正の期待に応えられるのが嬉しいとばかりに「やりますっ! 作りますっ! 頑張りますっ!」とはしゃぐ。


「……いやはや、驚いた。が、まあよい。これでますます謀反が加速する」


 弾正はにやりと笑った。

 ネネアはそれを見て「相変わらず悪そうな顔して笑うわね」と呆れるのだった。


 先週から「そろそろ毎日更新が止まります」とたびたび言いながら毎日更新してしまい、申し訳ありません。

 そろそろ不定期更新にします。その時は、また改めて連絡します。

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