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魔力至上主義世界編 - 126 空を見る少年 (6)

 オットー少年の挑戦は続いていた。


「何かもっと画期的な方法はないか……空に行くための、もっと斬新な方法は……」


 妹のシャルは、兄の悩みがよくわからない。

 彼は既に天空城と塔という2つの方法で空に達している。

 なのに「飽きた」と言い、「もっと新しい方法で空を目指したい」と言い、みたび空に挑戦しようとしている。


 本当に変なお兄さまですね、と思う。

 それでも兄である。大好きな兄である。できるだけのことはしてあげたいと思う。


「えっと、ジャンプするのはどうでしょう? すごい靴を作って、空まで届くくらいの大ジャンプができるようにするのです」

「ジャンプねえ……」


 シャルの提案に、オットー少年は乗り気ではない。

 自力で空を飛ぶのは、弾正一派がとうの昔に成し遂げてしまっている。

 ジャンプで空まで行くのは、その亜流でしかないように思えた。


「じゃ、じゃあ、巨大化するのはどうでしょう? 山より大きな巨人になってしまえば、頭が空に到達するのです」

「巨大化ねえ……」


 シャルの提案に、オットー少年はやっぱり乗り気ではない。

 そもそも一寸動子は、人間の体に対しては限定的にしか作用しない。


 治療はできる。

 初期に弾正一派に加入したルート兄妹も、足のケガを治療してもらったことに感激して仲間になった。


 破壊もできる。

 軍卒神官グジンは、頭頂部の毛根を破壊されてハゲになった。


 異物をくっつけることもできる。

 頭に看板をつけられた中神官ドミルらや、腹に聖典をくっつけられた大神官ジラーたちはそれである。


 が、できないことも多い。


 若返りはできない。

 整形して顔を変えさせることもできない。

 背を高くしたり低くしたり、太らせたり痩せさせたり、筋肉を増やしたり減らしたりといったことはできない。

 一寸動子の才能を与えることも奪うこともできない。

 脳をいじくって記憶を変えたり、といったこともできない。


 そういう人間の肉体を大きく変質させることは、どういうわけかできないのだ。


 だから、巨大化というシャルの提案にも興味が湧かない。

 もっとも、シャル自身も提案した直後に(お兄さまが巨大化だなんて嫌です!)と我に返ったので、オットー少年の無関心はむしろありがたかったのだが。


「それでは、その……えっと、肩車はどうでしょう? わたしが肩車して空まで持ち上げます!」

「……」


 シャルの提案にオットー少年は無言だった。


(わっ、わっ! わたし、なにをわけのわからない提案をしちゃったんだろう!)


 シャルは先ほどの自身の提案を取り消そうと口を開きかける。

 だが、それよりも早くオットー少年が口を開き、こう言った。


「いいな!」

「え?」

「いいな、それだよ、それ!」

「えっと、な、なにがでしょう? か、肩車ですか?」


(まさかお兄さまは、本当にわたしに肩車させて空に行こうとしているのでしょうか?)


 そう思うシャルに、オットー少年は首を横に振った。


「違う。肩車じゃない」

「え?」

「全部だ」

「は?」

「全部だよ。お前が今まで言ったやつ全部だ。ジャンプと巨大化と肩車だ。これを全部組み合わせるんだよ。それで空に行くのさ!」


 シャルは意味がわからない。

 目をパチクリさせるばかりである。


 オットー少年はすぐに動き出した。

 石を集め、奇妙な形に積み上げていく。

 やがて、できあがったのは……。


「巨人……ですか?」


 石の巨人だった。


「そうさ、ゴーレムさ」


 ゴーレム。

 それは古い伝説に出てくる、人の意のままに動く巨大な人形である。

 材料は石だったり鉄だったりクリスタルだったりと様々であるが、ともかく主人の命令通りに動く。


「このゴーレムの肩に乗って、ゴーレムに高々と飛んでもらい、空に行くんだ」

「飛ぶのですか?」

「飛ばすのさ」


 オットー少年はそう言うと、さっそく石作りのゴーレムに手をかざす。

 オットー石にしているのだ。


 まずは試しに無人で飛ばそうというのだ。


「行け!」


 オットー石の塊と化したゴーレムは、ただちに飛んで行った。

 ただし、その飛び方はいささか奇妙である。

 直立不動の気をつけの姿勢のまま、真上に飛んで行ったのである。


「……」


 オットー少年はしばし無言のまま固まり、やがて大きく「はぁぁぁぁぁ」とため息をついた。


「ど、どうされたのですか、お兄さま」

「あのな、シャル」

「はい」

「あれじゃただの人型のオットー石だ」


 もともとオットー少年は、オットー石に乗って自在に空を飛ぶことができる。

 ただの直方体の石に乗って飛ぶことも出来るし、天空城だってあれは要するにオットー石に城が乗っかっているようなものだ。


 そして今回作ったゴーレムも、全身をオットー石で構成されている。

 そのオットー石の固まりであるゴーレムが、空を飛んでいった。


 オットー少年からしてみれば、何の進歩もないのである。

 単にオットー石の形が人型に変わっただけなのだ。


「やめだ、やめ。やり方を変えるぞ、シャル」

「どうされるのですか?」

「人らしく自在に動くようにする。手や足が人みたいに動くようにするんだ。決めたぞ、シャル。僕は人間のように動いて空まで飛べる巨大人型ゴーレムを作るんだ」


 オットー少年がやろうとしているのは、まさしく人型巨大ロボットの製作である。

 現代日本ではありふれているこのアイデアも、中世のこの世界においては画期的である。

 いや、アイデアだけなら過去に幾度となく出たかもしれない。

 だが、それを本気で実現させるだけの熱意と覚悟を持ち、かつ実現させるだけの能力を持っているのはオットー少年が史上初であった。


「さあ、やるぞ」


 オットー少年はともかく行動が早かった。

 考えるよりやってみる。ともかく最後までやる。最後までやれば経験値が手に入る。

 それを繰り返してレベルアップするのが、結局一番の近道だと考えているのだ。


 材質は石。

 腕や足を構成する石の中に鉄の棒を通す。いわば骨だ。この骨を動かすことで手足を動かそうとした。


 やってみた。

 ダメだった。


 石が重すぎて鉄の棒くらいでは動かないのだ。


 石をオットー石にして浮かせてみたが、やはりダメである。動かない。

 浮かせたところで質量は変わらないからだ。質量があるものを動かすにはそれ相応の力がいる。空を飛んでいる巨大な飛行船を、手で押せば軽々と動くかというと動かないのと同じである。


「まあ、いい。色々やってみよう」


 色々やってみた。


 石の中身をくりぬいて質量を減らしたり、材質の違う石を試したりもした。

 そのうち、新しい材質の石そのものを作るようにもなった。


 幾度となく行われる試行錯誤。

 ある時は、もろくて石そのものが崩れ。

 ある時は、そもそも固まらずに石の形にすらならず。


 そういったことを何度も繰り返した。


 そして……。


「よし、できたぞ!」

「やりましたね、お兄さま」


 オットー少年はとうとう、軽くて頑丈な素材を作り上げることに成功したのだ。

 アルミよりも軽く、鋼鉄よりも頑丈な素材。

 オットー少年はこの素材に、シャル石と名付けた。

 当初はオットー石2と名付けようかと思ったが、似たような名前でわかりにくい。

 そこで妹の名前をつけたのだ。


 とうの妹は、恥ずかしがっていたが、しぶしぶ納得してくれた。


 そんなシャル石で作ったゴーレムをオットー少年はさっそく動かそうとする。

 まずは腕である。

 腕を大きく回して……。


 ガキン!


 大きな音がして腕が止まった。


 オットー少年のゴーレムは、試作品ということもあり、直方体の胴体に直方体の腕が直にくっついているだけである、

 つまり、関節がないのだ、

 であれば、腕を動かしても途中で止まるだけである。


 普通ならここで関節を作ろうとする。

 球体関節なり、よりリアルな人間の関節を模したものなりを作りして、動かそうとする。


 だが、オットー少年は違った。

 彼はこう思ったのだ。


「腕の付け根が溶けるようにすればいいんじゃないか?」


 それはまさに画期的なアイデアであり、一寸動子のあり方そのものを大きく変えるものであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] またまたオットー少年の大発明がきますか! [気になる点] そろそろ 愚か者たちへのお仕置き展開はきませんかな!(期待) オットー少年の大活躍で 大後悔や嫉妬する家族(特に兄)たちとか!(期…
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