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魔力至上主義世界編 - 120 天下統一でしょうか?

 弾正が何を目指しているのか、以前アコリリスがたずねたことがある。


「天下統一でしょうか?」


 弾正の語る昔話の中に、戦国時代の日本の話があった。

 そこでは、幾多もの武将達が天下統一を目指していたという。

 もっとも、大多数の大名や国人たちは天下統一など考えておらず、己の領土の安堵や、近隣との小さな勢力争いに精一杯の日々だったのだが、それでも天下を夢見る武将は決していないわけではなかった。

 その天下統一を弾正は目指してるのだろうか?


「いいや、わしは天下統一なぞ目指しておらぬ。だいいち、天下をおさめたいのであれば、とうに成し遂げておる」


 別段、これは強がりで言っているわけではない。

 事実である。

 アコリリス達に命じて教団をボコボコにしてしまえばいいのだ。

 アコリリスは喜んでやるだろう。


 教団がいなくなれば、残った王様や貴族などは、戦国日本で言うところの将軍家や傀儡守護のようなものである。

 何もできない。


 だが、それでは泥草たちが教団の代わりになるだけである。

 弾正がいるうちはいいが、いなくなったら元の木阿弥であろう。

 泥草が既得権益者となり、偉そうに権力を振るうようになるのだ。

 それでは何が何やら、である。


 弾正は以前、アコリリスとネネアに対してこう言ったことがある。


「わしはな、中世を終わらせようと思うじゃ」

「中世を、ですか?」

「さよう、わしの見たところ、今は中世と言うべき時代じゃ」


 そう言われても、アコリリスもネネアもピンとこない。

 彼女からしてみれば、今こそまさに現代だからだ。


 だが、数々の異世界を巡ってきた弾正にはわかる。

 今が中世と言うべき時代であることを。


「中世と近世の違い、それは人々が『自分たちは正しい』と思っているかどうかじゃ。正しいことはみんな神官様が知っている。全部聖典に書いてある。そんな風に、何かが正しいと信じていて、自分たちはその正しいことを全部知っているんだと思っている。そういう人間は文明のレベルに関係なく、みな中世人じゃ」


 そう言って弾正はアコリリスとネネアにこう尋ねる。


「そち達はどうじゃ? 自分たちは正しいと信じておるか?」


 アコリリスとネネアは顔を見合わせ、首を横に振った。


「い、いいえ。だって、教団はお父さんを殺しましたし、わたしたち泥草をひどい目に合わせてきました。あれが正しいとは思えません」

「同感よ。わたしも教団が正しいなんて思っていないわ」


 弾正は「さようか」とうなずき、続いてこう問う。


「では、わしのことはどうじゃ? 教団の代わりにわしを正しいと信じておらぬか?」


 アコリリスとネネアは再び顔を見合わせ、それから困ったような顔をした。

 アコリリスは弾正を神と信じている。信じているから疑っていない。

 ネネアも態度こそそっけないが、なんだかんだで弾正を信じている。


「それはいかんのう。何かを盲信しては中世人のままじゃ。だいいち、わしはいずれいなくなる身。信じられても困る」

「……え?」


 アコリリスは、巨大隕石が降ってきて世界滅亡が眼前に迫ってきたかのような絶望的な顔をする。


「わはは、いなくなると言っても、すぐではない。少なくとも、アコリリスが生きているうちは、この世界におるわい」

「あっ、あっ……、そ、そうでしたか……よ、よかったぁ……」


 アコリリスが、重傷を負った家族が死の淵から奇跡的な回復したかのように、心底安堵したように言う。


「うむ、まぎらわしい言い方をしてすまなかったのう」

「い、いえ、そんな……」

「まあ、今は仕方ない。暫定的な旗印が必要じゃからな。だが、いずれは旗印すら不要になるようにせねばならぬ」


 ◇


 ヒグリス村での仕事を終えてダイアに帰還した弾正は、各地からの報告を受け取っていた。


 結論から言えば、弾正の勢力は940万人にふくれあがった。

 戦国大名的に言えば940万石で、日本のおおよそ半分を支配していることになり、それだけ勢力があれば諸大名はこぞって降伏してくるだろう。

 天下統一である。


 もっとも、この世界は日本よりは広いし人も多い。

 まだ天下統一ではない。

 が、大幅な勢力拡張であることに間違いは無い。


 弾正は心が躍った。

 弾正が天下統一を目指していないのはすでに語った通りであるが、とはいえ一方で、勢力拡大は元戦国武将として嬉しい限りである。


(武人の血が騒ぐわい)

 というわけである。


「弾正様?」


 報告する泥草が、何やらわくわくしている弾正に怪訝な顔をする。


「おほん!」


 弾正はわざとらしく咳払いをし、報告の続きを促した。

 報告はこうである。


 新たに増えた910万人のうち、800万人が子供たちであった。


 中世というこの時代、人口の多くは子供である。

 多子若齢社会、というわけだ。


 その子供たち、具体的には10歳以下の子供たちを、弾正らは根こそぎさらおうとした。

 もっとも、皆が皆、成功したわけではない。


 今回、弾正らはこの世界の中心地域であるエクナルフ地方の都市・村に人員を派遣した。


 やったことは弾正とアコリリスがヒグリス村でやったことと同じである。

 子供たちと泥草たちを勧誘し、教団をボコボコにし、泥草と教団のどちらを選ぶか選択させたのである。


 だが、この勧誘、皆が皆成功したわけではない。

 弾正のように、子供たちと泥草全員の勧誘に成功したというのは、おおよそ半分程度であり、残りは7割勧誘に成功とか、5割成功とか、3割成功とか、ひどい例になると教団をボコボコにして怖がらせただけで勧誘成功ゼロというのも珍しくなかった。


 それでもトータルで見れば10歳以下の子供たちのおおよそ7割の勧誘に成功した。

 それが800万人。

 残りは泥草と、一部の変わり者の大人たちであり、合わせて910万人。


 弾正に言わせれば「満点ではないにしろ、及第点は優にクリアしておるのう」という結果であった。


 ◇


「それで、どうするのよ?」


 ネネアが弾正にたずねる。


「何がじゃ?」

「子供たちをこんなに仲間にしてどうするのよ。あたしたち、子育てなんて出来ないわよ?」


 12歳のうぬも十分に子供じゃろう、弾正は思ったが口には出さない。


 代わりにアコリリスを見ると、彼女もうなずいている。


「そうじゃのう……」


 弾正はそう言いながら、外を見た。

 窓の外には、ダイアの町並みが広がっている。


「何もせぬわい」

「な、なにもしないってどういうことよ?」


 ネネアが驚く。

 アコリリスも驚いた顔をしている。

 彼女たちの驚きも無理はない。

 なにもしないのであれば、一体何のために仲間にしたというのか。


 だが、弾正は意に介さない。

 代わりにニヤリと笑ってこう言う。


「ふむ。であれば、遊ぶというのはどうか。童は遊ぶのものじゃろう」


 アコリリスとネネアは、顔を見合わせる。

 ますます意味がわからないからだ。


「あの……神様……?」


 アコリリスが困惑したように言う。


「なあに安心致せ。童たちが遊んでいれば、ことは終わるわい」


 弾正はそう言ってニヤリと笑うのだった。


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