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魔力至上主義世界編 - 117 保留

「あいつらをなんとかしてください!」

「そうです、神官様。あのガキどもと泥草をどうにかしてやってください!」


 小聖堂に、村人たちが押し寄せ、口々にそうわめいた。

 村人たちは、子供たちと泥草たちへの嫉妬で気が狂いそうだった。


「なんでガキどもと、クズの泥草どもが、働きもしないで俺たちよりぜいたくな暮らしをしているんだよ!」

「そうよ、こんなのありえないわよ!」


 その嫉妬心が、教団への八つ当たりとして向かったのだ。


 もっとも神官達を血祭りに上げようとか、聖堂をぶっ壊そうとかいうわけではない。

 そんなことは、現代で言うなれば、軍の基地に一般市民が攻め込むような行為であり、文字通りの自殺行為である。


 そんなことはしない。

 代わりに抗議する。


 あいつらをなんとかしてださい、と。

 どうにかしてください、と。

 見ているだけで嫉妬で頭がおかしくなっちまいそうなんですよ、と。


「神官様はおっしゃっていたじゃありませんか。一寸動子は悪魔の技だと。悪魔なら、神官様が退治してくださいよ!」


 そう言われれば、教団としては黙っているわけにはいかない。


「い、いいだろう。やってやるさ」


 そう言って、ハーゲンが嫌なそうな顔をする助官たちを引き連れて(何しろ何度も負けているのだ)、楽しそうに遊んでいる子供たちのところに向かう。

『悪魔の技』を使うのをやめさせ、『正義の道』へと戻してやるためである。


「おーっと、ハーゲンたちが子供たちのところに向かいましたよー。またも懲りずに戦うつもりでしょうか。いやあ、あのおじさんは学習能力が無いのでしょうか。そんなんだから、いい歳して小神官どまりなんですよ」


 ラジオからは、シェナの実況音声が流れる。


「くっ……!」


 さんざんな言われように、ハーゲンは顔を屈辱でしかめる。

『偉大なる神官様』としてチヤホヤされてきた彼の人生において、弾正が来るまで、ここまで露骨に侮辱されたことは無かったからだ。


 だが、歩みを止めるわけには行かない。


「行くぞ、お前たち! 今日こそあのガキどもに、誰が真の強者か思い知らせてやるんだ!」

「は、はあ……」


 ハーゲンのかけ声に、部下たちがやる気なさげにこたえる。


 ちなみに、結果はボロ負けであった。

 いつもの通りである。


 おまけに、ハーゲンたちはバニーガール姿にされた。

 全員、バニーガール衣装(脱げない)を身につけさせられたのである。

 いい歳した男どもが、そろいもそろってバニーガール姿なのは、見ていて気色悪い。


「ひぎゃああああああああああ!」

「な、なんだこりゃああああああああ!」

「ぬ、脱げねえ! 脱げねえよおおおおお!」

「うわあああ! いやだあああああああ!」


 バニーガールにされた聖職者達の絶望の絶叫が、村中に鳴り響いた。

 もはや威厳も何もなかった。


 ◇


「ぐっ……くっ……ううっ……」


 バニーガールにされたハーゲン達は、屈辱の極みにあった。

 みじめである。みっともない。格好悪い。


 村人たちは、面と向かって軽蔑の言葉を吐くわけではないが、ハーゲン達に向けてくる視線は露骨に侮蔑を含んでいる。


 ハーゲンは叫びたかった。

 だったら、お前等が戦ってこいよ! と。


 だが、それは口が裂けても言えなかった。

 教団は武力を売りにしているのだ。

 力こそが、彼らの権力・権威の源泉である。

 戦うことだけは、他人任せにはできない。

 それは究極の自己否定だからだ。


 結局、「くそ! くそお! ちくしょう!」と屈辱のうめき声を漏らすことしかできなかった。


 妙な泥草ラジオが流れたのは、その頃だった。

 妙というか、ラジオ自体が中世という時代においては妙なものでしかないのだが、その日の内容は一段と妙なものであった。


「せんこくします」


 ラジオからは、シロック少年の声でこんな言葉が流れてきた。


「おとなのみなさん。きょうだんの、いうことを、まにうけて、でいそうをイジめるのは、やめましょう。カッコわるいです。

 でいそうさんたちに、あやまってください。それから、きょうだんにたいして、おまえたちはクズだ、とせんげんしてください。ふとうに、さべつして、ぎゃくたいするおまえたちはゴミだと、めんとむかって、いってください。

 そうしたら、ぼくたちのごはんをわけてあげます。ふくも、わけてあげます。いえも、わけてあげます。

 これは、さいしょでさいごのチャンスです。

 1しゅうかんごが、きげんです。そのあとは、うけつけません。もう、たにんのふりです。よくかんがえて、きめてください」


「な、なんだ、ありゃあ……」と大人たちがあぜんとしていると、今度はシェナの言葉で同じ内容が流れてきた。


 要するに、泥草に謝って教団と決別すれば仲間に入れてあげる、というものであった。

 無論、扱いは子供たちや泥草の下、というものであるが、文字通り死ぬほど苛酷な労働や、文字通り死ぬほど貧しい生活から解放されるのだ。

 そもそも、これまでが、いじめっ子に便乗する取り巻き連中のごとく、教団に便乗して泥草を虐待してきたのだ。それを謝罪する機会を与えられたという風に考えれば妥当であるし、無茶な要求ではない。


 大人たちは悩んだ。


「どうする……?」

「どうするって……」

「どうしよう……?」


 今度の人生を決める重大な決断である。

 いったいどうすべきか?


 つらい生活から決別したいのは事実である。

 キツい重労働ばかりの毎日。貧しい食事。冬の凍えるような寒さ。

 こんなのはもう嫌だ。


 だが、泥草の下につく? ガキどもの下につく?

 そんなのは冗談じゃない!

 自分たちは、あいつらより上なんだ! あいつらは永久に自分たちより下にいないといけないんだ!

 なんでそんな連中の下につかないといけないんだ!


 それに教団は怖い!

 今や、変な格好をしていて、威厳もクソもないが、それでも怖い!

 子供の頃から教団の恐ろしさを叩き込まれてきたのだ。

 逆らうなんてとんでもない!


 そして、大人たちは考える。


 保留にしよう、と。

 なんだかんだ言っても、子供たちは自分たちの身内なのだ。

 いくらなんでも、そんなにひどいことはしないし、最後には自分たちにいいようにしてくれるだろう。

 そう思っていた。


 結局大人たちは、子供・泥草側につくこともなく、といってはっきり教団側を選ぶこともなく、あいまいな態度のまま1週間後をむかえた。

 極々一部の変わり者の大人たちをのぞいて、ほとんど全ての大人達が保留を選んだのだった。


 ◇


 後日、すっかり泥草と教団の立場が逆転してしまった時、ヒグリス村の大人たちは、自分たちの選択を死ぬほど後悔することになる。


「な、なあ、エミル、いいだろう? 俺たちにもそっちに行かせてくれよ。俺たちはお前の親なんだ。な、いいだろ? な?」

「お、お願いです、泥草様! そちらに連れて行ってください! この通り謝りますから!」


 そう言って、子供たちや泥草に懇願するが、当の子供たちや泥草はそれをきっぱりと拒絶した。


「やだよ。何が親だよ。あんたたち、僕のことさんざん殴っただろ。誰が連れて行くものか」

「ふん! 人のことをクズだの何だのとイジメてきたくせに、今さら何を言うか。もうチャンスはないんだ。あきらめろ」


 言われた側は絶望を顔に浮かべる。


「うわあああ! 頼む! 頼むよ! こんなに貧しいのはもういやなんだ! こんなにみじめなのはもういやなんだ! 頼む! 頼むよ!」

「ひ、ひいいいい! お、お願いしますうううううう! 泥草さまあ! 我らにもどうかお恵みを!」


 そう叫ぶが、反応は無視である。


 そうして大人たちは後悔する。


「なんで……なんでおれ、教団なんかの言うことを信じまったんだ……どうして……どうして……」

「いや、いやよ、こんなの……なんで、なんであたしたち、あんな教団の言うことなんて……」


 怒りは教団に向かった。

 ハーゲンたちは狭いウサギ小屋のような檻に閉じ込められた(泥草たちも、この時だけはこっそり協力してやった)。


「ひいいいいい、だ、出してくれええええええ! こんなところ嫌だああああああ!」

「うるせえ、このハゲ野郎! てめえのせいで、俺たちまでこんな目に合ってんだぞ、ちくしょう!」

「ひぎゃああ! やめろ! 物を投げるな! ひいいいい! お願いだあああ! 出して! 出してくれよおお!」


 ハーゲンたちは残りの人生をウサギ小屋の中でバニーガール姿で村人たちに物をぶつけられながら過ごすのだった。

 結末に向けて、カップ焼きそばの湯切りをするような感覚で書いています。

 勢いをつけすぎると、ドバッと麺を流しにぶちまけ、一瞬で、しかもメチャクチャになって終わってしまう。

 といって慎重にやりすぎると、いつまで経っても湯切りが終わらない。

 気をつかわないと、湯切り口に麺がつまって、にっちもさっちもいかなくなってしまう。

 なんとも微妙なさじ加減で書いています。


 ヒグリス村編はこれで終わりです。

 次回から、本格的に結末に向かいます。たぶん。

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