表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/142

魔力至上主義世界編 - 9 決起集会

「さて、ネネアよ。聞いての通り、わしらは近々謀反(むほん)を起こす。教団に対してケンカを売る。やつらをつぶすまで戦う。うぬはどうだ? 戦うか?」

「いいわ」


 ネネアは謀反への参加を同意した。

 即答であった。


「良いのか? 失敗すれば」


 弾正(だんじょう)は刀を抜き、ネネアの首筋に当てる。


「そのほうの首が飛ぶぞ?」


 覚悟を試すかのように弾正が問いかける。

 目をぎろりとさせると、悪人面がますます恐ろしげになる。


 ネネアは一瞬息を飲んだ。

 神を名乗るこの弾正という男が恐ろしく思えたのだ。

 けれども、視界の端にアコリリスをとらえると、心臓の鼓動が落ち着いてくる。

 ふーっと大きく息を吐く。

 そうして「やるわよ」と言った。


「ほう、やるか」

「やるわよ。ここまでしてもらったのに、何もしないなんて嫌よ。あたしは恩知らずじゃないわ。それにアコだって参加するんでしょ?」

「うん」

「じゃ、やるわ。そういうことだから、神様、よろしくね。一緒に教団に一泡吹かせてやりましょう」

「よかろう。期待しておるぞ」


 翌日より、3人で人材集めに走った。

 泥草(でいそう)の子供が対象である。

 ある者には山のように食べ物を与えた。そうして、この人たちについていけば飢えることはない、という安心を与えた。

 ある者には力を見せつけてやった。そうして、この人たちなら頼りになる、という信頼を与えた。

 ある者は兄妹そろって泥草という珍しいケースだったが、妹のほうがケガを抱えていたので治してやった。教団の人間に棒で殴られて足を折られたらしい。一寸動子(いっすんどうし)で、体を構成する原子を整えてやると、すぐによくなった。兄妹は感激し、すぐに仲間になった。

 そうして少しずつ信頼を得ていった。


 2ヶ月が経った。

 泥草集団は200人にふくれあがった。

 みな、子供である。

 自らを宝石団(ほうせきだん)と名乗った。


 名前はアコリリスがつけた。

 彼女は弾正から「宝石のような輝きを持っている」とほめられたことを覚えており、それを今でも嬉しく思っていたからだ。

「わたしたちは泥草なんかじゃない。輝く宝石だ」

 そんな気持ちも込められている。


 もっとも名前は立派でも、氏素性のさだかでない怪しげな集団である。

 それでもこれだけの人が集まったのは、泥草たちに未来がないから、というのもあるだろう。

 みな、赤い目を持たない泥草である。教団に虐げられている者たちである。日頃、飢えと暴力にさらされている者たちである。このまま何もしないでいても、長くは生きられそうにはない。生きられたとしても、つらい毎日が待っているばかりである。

 だったら、いっそ……。

 彼らが宝石団に加わったのは、そんな理由もあるだろう。


 宝石団員は、みんな一寸動子を使える。

 威力・精度はネネアと同程度である。

 使えるが、アコリリスにはとうてい及ばない。そのレベルである。


 ちなみに、弾正は、泥草以外の者にも一寸動子を使わせてみたことがある。

 酒場の酔客や、弾正を襲ってきた追いはぎを返り討ちにした上で、やらせてみたのである。

 全員、使えなかった。

 一寸動子は泥草にしか使えぬ能力なのだろう。

 やはり、魔法と一寸動子は、トレードオフの関係なのかもしれない。


 今、その一寸動子を使える宝石団員の子供200人が、赤絨毯のひかれた岩山の城の広間にずらりと並んでいる。

 壇上には宝石団長のアコリリスが立つ。

 弾正たちは、いよいよ謀反を始めようとしている。

 その決起集会である。


 アコリリスは、白いレースのついた、不動服の中でもとびきり上質のものを身につけていた。

 ここ3か月は食事ときちんと食べているため、血色もよい。

 汚れてた体はきれいに洗われ、白い肌はつやつやとして色合いもよい。ゴワゴワだった金髪はていねいに()かされ、きれいになびいている。

 あどけなくも美しい童女(わらべめ)である。見ほれるような目を向ける団員も決して少なくない。


 そんな団員たちを前に、アコリリスは緊張の面持ちで、演説を始める。


「わ、わたしたちは、これから、謀反を起こします! 敵は教団です。強大な権力を持っています。人々を支配しています。でも……でも、わたしたちは負けません! なぜなら……」


 アコリリスは手に持った炭をさっとひと撫でする。

 見事にカッティングされた1000カラットはありそうな巨大なダイアモンドが生まれる。


 宝石団員たちは息をのむ。

 これほどの速度・精度で一寸動子を使いこなせる者など、団員達の中には誰もいないからだ。


「わたしたちにだって、こんなにすごい力があります! 泥草なんかじゃない! 魔法がなくても立派に生きていける! だから……だから、勝ちます! みなさん、一緒に戦いましょう! わたしたちを虐げ、バカにしてきた教団をやっつけましょう!」


 一瞬の間。

 そして、わっ、と歓声が上げる。


「おおー、やるぞー!」

「団長ーっ!」

「俺たちも戦います! アコリリス団長!」

「団長! 団長!」


 アコリリスは緊張と照れで顔を赤くしていたが、歓声が落ち着いた頃合いを見て、こう言った。


「では神様。最後に一言お願いします」

「うむ」


 ご神体のごとくアコリリスの後ろに座っていた弾正が、ぬっと立ち上がり、前に出る。

 全身真っ黒の甲冑姿である。不動服をアレンジして作った、日本の戦国風の甲冑である。黒々とした姿は、悪そうな顔も相まって悪魔のようであり、先ほどまで天使のような童女がいたぶん、いっそう恐ろしく見える。


「謀反の神、弾正である」


 そう言って、弾正はギロリと団員たちを見回す。

 彼の間に緊張が走る。


「さて、団員どもよ。わしは謀反が好きじゃ。ムカつく既得権益者どもをこっぱみじんにするのが大好きじゃ。みなのものはどうじゃ? ルートよ、そちはどうじゃ?」


 弾正は背の高い団員を名指しする。

 負傷した妹のケガを治してもらったことに感激し、宝石団員になった男である。


「は、はい!」

「そちは謀反は好きか?」

「……わ、わかりません!」

「なぜじゃ?」

「や、やったことがないからです!」

「さよう、それでよい。今はまだ謀反の楽しさを知らぬ。じゃが、ほどなくしてやみつきになるじゃろう。何しろ」

「何しろ?」

「あの教団の連中を、全員涙目にすることができるのじゃからな」


 弾正はニヤリと笑う。

 団員たちも、それにつられたのか、大神官や小神官が泣き叫ぶところを想像したのか、少しずつ顔に笑みを浮かべ始める。


「ルートよ、教団は好きか?」

「だっ、大嫌いです!」

「こっぱみじんにしたいか?」

「したいです!」

「ならば何をする?」

「む、謀反です!」

「謀反をやるか?」

「やります!」


 弾正は団員たち全員に向けて叫んだ。


「みなのものぉ! ルートはやると言っておるぞぉ! みなはどうじゃ? 謀反をやるか? その覚悟があるか?」


 ほんの一瞬の沈黙。

 そして団員たちは口々にこう答えたのだ。


「や、やります!」

「やりますとも!」

「今すぐやりましょう!」

「謀反! 謀反! 謀反!」


 弾正はアコリリスに目を向けた。

 アコリリスはうなずき、団員たちを見すえて言った。


「いいでしょう。今こそ謀反です! みな、持ち場についてください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ