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魔力至上主義世界編 - 102 さらばジラー。さらばイーハ。さらばグジン。地獄でも元気にやれよ! (1)

「ん……む……?」


 大神官ジラーは、ぼんやりとした意識のまま目を開けた。

 頭がぼんやりとしている。自分がどこにいるのかわからない。


「っ!」


 後頭部がズキズキと痛む。


「あっ!」


 突然、ジラーの脳裏に記憶がよみがえった。

 クーデターを起こそうとしたこと。

 背後に頭に強い衝撃を受け、意識を失ったこと。


 偶然、空から隕石が降ってきたのでなければ、誰かに頭を後ろから殴られたに違いない。


「そ、そうだ! 僕を殴ったやつは誰だ? 僕は大神官ジラー様だぞ! この僕を殴るなんて許さないぞ! いったい、どこの誰が……」


 そう口にしながらジラーは周囲を見回し、そこでようやく自分が今、おかしな場所にいることに気がついた。


 ジラーはさっきまで首都イリスの大聖堂の近くにいた。

 今もイリスにいる。ただ、場所が違う。ジラーは今、中央門広場にいた。


 中央門とはイリス最大の門であり、門から入ってすぐの所は、混雑を避けるためか、そこそこ大きな広場になっていた。

 イリスの主だった広場には、そのほとんどが泥草によって築かれたガラスの塔がそびえたっているのだが、この広場はまだ手つかずであった。


 その手つかずの広場に今、(おり)があった。

 鉄格子に、鉄板の貼られた床、という頑丈な作りであり、絶対にここから出してやらないぞ、という製作者の強い意志が感じられる。

 ジラーはそれがよくわかる。

 何しろ、この檻の製作者はジラー自身だからだ。


 ジラーは、気に入らないやつを処刑前にこの檻に入れ、広場に放置して(さら)し者にするということをよくやっていた。

 ジラー自身が気に入らないやつだけでなく、イーハが捕まえてきた『不信心者』を処刑する時も、よく晒し者にしていた。アコリリスの父もそうやって晒し者にされた。

 そうやって哀れな姿になった者を嘲笑しながら美食に舌鼓を打つのは、最高の贅沢であった。


 それはいい。そんなことはジラーは良くわかっている。


 問題は、ジラー自身が今まさに、この檻の中に入れられているということである。


「な、なんだこれは!」


 ジラーは驚きの声を上げる。

 同時に、すぐ側からこんな声が聞こえてきた。


「な、なあっ!?」

「え? え? なにこれ……なにこれぇ!?」


 見ると、高等神官イーハと軍率神官グジンが、ちょうどいま目を覚ましたのか、あたりをとまどったようにキョロキョロと見回している。


「イ、イーハ! グジン! お前達、これは一体どういうことだ!?」


 ジラーが2人に対して、八つ当たり気味に叫ぶ。


「だ、大神官様? い、いえ、私も一体何が何やら……」

「な、なんで!? なんでボクがこんなところに? え、え、どうして?」


 イーハもグジンも、わけがわからないといった様子である。


「ちっ……」


 らちが明かないと思ったジラーは、群衆の方に向き直る。

 目を覚ましてから初めて群衆をまともに見る。


 鉄格子の向こうに、イリスの市民が大勢いた。

 女性達の大半が、洗濯機騒動の際、すぐ隣に新設された泥草都市ダイアに引っ越してしまったため、今ジラーの目の前にいる市民たちのほとんどは男性である。


 その男たちの視線が、ジラー・イーハ・グジンをじっと見ていた。少年が、青年が、中年男が、老人が、一様に視線を3人に注いでいた。


 表情は様々だ。

 ある者はジラー達を見ながら、バカにしたようにニヤニヤと笑っていた。

 ある者は、可哀想な人を見るような、哀れむ目で見てきた。

 ある者は、仲間内で「あれが大神官様だってよ」「あれがかよ」などと言い合い、時折ジラー達を指差しては、ぷぷぷっと笑った。


 いずれも共通しているのは、ジラー達を見下し、バカにしているという点だ。

 大神官であるジラー達を!


 ジラーはカッとなった。


「な、なんだその顔は! お前達、何をやっているのかわかっているのか! 僕は栄光ある大神官ジラー様だぞ! さっそ僕をここから出せふぐおっ!」


 ジラーはすっ転んだ。

 立ち上がり、鉄格子の向こうにいる群衆に詰め寄ろうとしたところで、転んで顔面を床にぶつけたのだ。

 バランスを崩してしまったためである。体の動きがどこかおかしい。


「はっ!?」


 ジラーは体の異変に気がついた。

 両腕が背中で縛られているのだ。背中で固定され、動かすことができない。


 縛られているのは大神官ジラーだけではない。

 高等神官イーハと、軍率神官グジンもまた、両腕を背中で縛り付けられている。


「なっ! こ、この神に選ばれし私を縛るとは一体何事だ!」

「ひっ! な、なんで? なんでボク、縛られてるの!?」


 イーハとグジンはそれぞれ悲鳴を上げた。


 ジラーは「くっ……」とうめいた。


 両腕を縛る。

 これは罪人に対して行うやり方である。牢に閉じ込められた小神官パドレ(アコリリスに『私は泥草に負けました』と顔に落書きされた小神官)のように、罪人は両腕を何らかの形で縛られる。

 魔法を使えないようにするためである。

 魔法は腕を真っ直ぐに伸ばし、手のひらに力をこめないと発動しない。

 両腕を背中で縛られていては、腕を伸ばせず、魔法も使えないのだ。


 その罪人に対する処置が今、ジラーに対して施されている。


「な、何だよ、これ! なんで僕が縛られているんだよ! なんで僕が閉じ込められているんだよ! おい、誰か答えろ!」


 檻を囲む群衆に向かって、ジラーは怒りを込めて叫ぶ。

 以前であれば、大神官であるジラーが怒号すれば、大衆など雷に打たれたかのごとく震えあがって言う通りにしたものだった。


 が、今は違う。

 人々はニヤニヤ笑うばかりである。

 誰もジラーの言う通りになどしない。誰もジラーの言葉に恐れ入らない。


「おい、お前ら! 聞いているのか! それともまさか僕が誰だかわかっていないのか!? 聞いて驚け。僕は大神官ジラー様だぞ! 教団のトップであり、この大陸の支配者であり、最大権力者様なのだぞ。僕に逆らったら、処刑してやるぞ!」


 大神官ジラーの言葉に、高等神官イーハも乗っかる。


「わ、私だってそうだ! この敬虔なる神の使徒たる高等神官イーハをこんな目にあわせるなど、神罰が下るぞ、この不信心者どもめ! 即刻解放しろ!」


 軍率神官グジンもようやく茫然自失から覚め、こう叫ぶ。


「ボ、ボ、ボクだって軍率神官グジン様なんだ! 美しくて強いボクを慕う軍人は大勢いるんだ。ボクをこんな目にあわせたら、そいつらが黙っていないぞ! みんな殺されちゃうんだぞ!」


 群衆は一瞬沈黙した。

 そして、爆笑した。


「ぎゃはははは!」

「僕は大神官ジラー様なのだぞ、だってさ!」

「あははは! イーハのどこが敬虔なる神の使徒だよ。どう見ても不信心者じゃねえか!」

「お前を慕う軍人なんてもういねーよ、グジン! あひゃひゃひゃひゃ!」


 群衆の予想外の反応に、ジラー達は口を開けてあんぐりとした。

 教団の3大幹部たる3人がそろって怒号を上げたら、ちょっと前であれば、人々はパニックを起こしていただろう。まるで神の怒りをかったかのごとく、慌てふためいていただろう。町中がてんやわんやの大騒ぎになり、住民達はそろって顔を真っ青にして土下座していただろう。

 それくらい、ジラー達の権力は強く、その怒りは恐ろしいものだった。


 そして、ジラー達は自身のその権力に酔いしれていた。

 ジラーは「こんなにも愚民どもがひれ伏すのだから、僕はとても偉いんだなあ。僕は何をやっても許されるんだ。よおし、どんどん気にくわないやつをぶっ殺すぞ」と。

 イーハは「人々がこうも頭を下げるということは、やはり敬虔なる神のしもべたる私の言葉は正しいのだ。私こそが正義なのだ。これからもっともっと不信心者どもを処刑していかなければな」と。

 グジンは「みんながこんなにボクに平身低頭する。これもみんな、ボクが美しくて強いからだ。輝くような美と、きらめくような軍才の前に、恐れ入っているのだ。やっぱりボクは歴史に名を残すような偉人に違いない」と。


 それが今や、群衆は指をさしてジラー達を嘲笑し、侮蔑し、爆笑しているのである。


「な、なんだよ! なんなんだよ! 僕は大神官ジラー様だぞ! 偉いんだぞ! 早くここから出せよ!」


 ジラーの必死の叫び声も、大衆の笑い声を一層増す効果しかなかった。


「くそお、なんで……なんで……」

「まだわからないんですか?」


 一人の男の声がした。


「お、お前は!」

「ごきげんよう、ジラー様」


 ジラーの目の前に、頭から看板を生やした男が現れた。

 中神官ドミルである。


 ドミルはイリスを支配する7人の中神官の筆頭格である。

 大神官ジラーも高等神官イーハもイリスが本拠地ではあるが、ジラーは大陸の支配が、イーハは首都圏であるイリス周辺地域の支配が本業であり、イリスの運営はドミルら7人の中神官達に任されている。


 そのドミルが鉄格子の向こうに立っているのだ。

 後ろには、他の中神官6人も立ち並んでいる。

 いずれも、檻の中のジラー達を冷ややかに見下ろしている。


「な、なんだ、ドミル! これはどういうことだ!?」


 ドミルは、やれやれと言った顔で答えた。


「まだわかりませんか、ジラー様。それにイーハ様にグジン様。あなた達はもう終わりなんです」

 1話で終わらせようかと思いましたが、長くなってしまいそうなので続きます。

 大神官達の花道(?)ですし、多少長いのはご了承くださいませ。


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