8.新生ゲート
デデキントが手招きをして、彼の左の空席をポンポンと叩く。座れと言うことだ。
僕は誘われるままに座り、ブルバキの方を見る。
「まず、ここは生きている人間から見ると死後の世界、というのは知っている?」
「はい。ガロアから聞きました」
「死んだら一時的にここにいるけど、使者がやってきて、天国か地獄へ連れて行くの」
「やっぱり、そうだったんですか」
「知っているの? なら、その話はここから生き返った人が広めたと思うけど」
「本当に、生き返るということがあるんですか?」
「新生ゲートを通れば」
「しんせいゲート?」
「新しく生まれ変わるゲートと考えればいいわよ」
「ああ、新生ゲートですね。どういうゲートなんですか?」
「肉体が完全に残っている場合、つまり、死後に損傷や腐敗をしていない場合は、そのまま元に戻る。死んですぐ生き返るみたいにね。
でも、そうではない場合、つまり、戻れる完全な肉体がない場合は、全く別のものに生まれ変わるか、己の過去に戻る。過去に戻るのは、好きな時点からで、そこから人生をやり直せる。それを自分で選ぶことができる。
――それが、新生ゲートよ」
「本当ですか!?」
僕は、新生ゲートを通って死ぬ少し前に戻り、今度はホームの端を歩かないようにしようと考えた。そうすれば、あの酔っ払いと衝突しなくて済むからだ。
「是非、新生ゲートに行きたい――」
「セッキー。それが出来るなら苦労しないぞ」
アーベルが、僕たちの会話に割り込んできた。
「難しいのですか?」
「セッキーより、百年も二百年も前に死んで、未だに見つからない。
それが俺たちさ」
「もしかして、みなさんって……」
「ああ、そうさ。とうの昔に死んだ数学者さ。
セッキーが俺たちの名前を聞いて、ああ、あの人、って言わないところをみると、すっかり忘れ去られているみたいだな」
「すみません。歴史は苦手なので」
「アーベル! 話がそれるから、黙って!」
「へいへい……」
ブルバキの一喝で、アーベルはソファにもたれかかった。
「とにかく使者に連れて行かれたら、それで終わり。
この世界に来るのは年寄りばかりだから、抵抗もせずに連れて行かれるけれど、若者は結構抗っているの。
だって、まだまだやり足りないことがあるから」
「セッキー。年寄りでも、抵抗する奴はいるぜ」
「アーベル!」
「へい!」
「それで、みんなが一致団結して使者と戦って、新生ゲートを探しているというわけ」
僕は「生き返ってもう一度死んだ人に聞いてみては?」と言おうと思ったが、やめた。
だって、その人がもう一度死んだとしたら、果たして他人へ教えるだろうか? 自分だけ助かろうとしないか? 生き返ろうという欲望は、人を利己的にするはずだ。
いや、それ以前に、新生ゲートの場所を覚えているのだろうか?
僕は、組織の構成員のことを知りたくなった。
「この秘密結社には、全員でどのくらいいるのですか?」
ブルバキは、ちょっと考えてから答えた。
「あと、十人くらいかしらね」
「そんなに!?
みなさん、どちらへ行かれたのですか?」
「もちろん、戦いに」
「それだけ、使者がはびこっているのですか?」
「それもそうだけど、今、ちょっと困ったことが起きていて」
「何が起きているんですか?」
「操られている集団がいてね。
そいつらとも戦わないといけないの」
「誰にですか?」
「使者に」
「えっ? 天国や地獄へ連れて行く使者に操られているのですか!?」
「そう。両方の使者がこの集団の力を利用して、私たちを潰そうとしているの。今、そっちの対策も忙しいのよ」
「なるほど。自分たちは手を下さず、抵抗する秘密結社を弱体化させて、最後は天国や地獄へ連れて行くのですね」
「それでいつも戦っている感じ。もう、死後の世界戦争ね。だから、戦力となるセッキーが来てくれて助かる」
「操られている集団は、どうなるのでしょう?」
「利用するだけ利用して、最後はポイッとだと思うけれど、もしかしたら何か密約があるのかも」
「それは気になりますねぇ……」
と、その時、壁を抜けて誰かが入ってきた。
新生ゲートは、死後の世界から戻ることが出来る場所、というイメージです。
セッキーの考えるように、二度死んだ人に場所を聞けばいい?
一度その場所を知ってしまえば、何度でも戻れる?
確かにそういう疑問が湧きますが、そううまくはいかないことが後でわかります。