6.直感が全ての狙撃手
僕らが悪魔との戦いに勝利し、喜びながら戦いを振り返っていると、路地の向こうから誰かがやって来た。
一人は白シャツに見覚えがあるので、ガロアだろう。
その後ろに、デデキントたちと同じ軍服を着用してライフル銃を担いでいる金髪碧眼の若い男がいる。先ほどまで銃を撃っていたのは、彼かも知れない。
「エイダ。その様子だと、掃除が完了したみたいだね」
ガロアがエイダを抱擁する。恋人同士という感じではなく、単なる挨拶のようだ。
デデキントは、剣の切っ先で石畳を突く。
「今度の悪魔は、俺たちの裏をかいて、石畳の下に潜り込みやがった」
すると、ライフルを担いだ青年が、肩まで伸びた髪をたくし上げながら笑う。
「だから言ったろ? そんな端末に全面的に我が身を委ねると、痛い目に遭うと。
そいつは、地上にいる敵味方しか反応しないから、そのことに気づいた奴らを地下に潜らせることになった。逆効果だったんだよ」
「そうかしらねぇ……」
エイダは、端末を眺めながらため息をつく。
「僕のように、全てを直感に委ねないとね。
どんな困難な問題でも、直感が解決する」
「その直感って奴は、大胆な予想に適用して当たれば格好いいけど、外れたら笑うしかない」
デデキントのからかいに、青年はまたかという顔をする。
「僕の異能力は外れないよ。
……ところで、そこにいる彼は?」
僕は、紹介しようとするガロアを制して、自ら名乗る。また間違った名前をインプットされては困るからだ。
「関孝和です。セッキーと呼んでください」
「セッキーくんか。僕は、ジュール=アンリ・ポアンカレ。狙撃手だよ」
「スナイパーですか!? 格好いいですね!」
「成功率は、99.9」
さっき、外れない直感という異能力を自慢してたんじゃないかなぁと思いつつも、僕は感心する。
「凄いですね!」
「100じゃないところが凄いよね」
僕の代わりにガロアが笑った。
ポアンカレは、ちょっとむくれたが、「じゃあ、戻るか」と言ってスタスタと去って行く。僕らは、彼の後に従った。
しばらく同じような路地裏を歩いていると、行き止まりにぶち当たった。だが、ポアンカレが右手を突き出すと、行き止まりの壁が水面の波紋のように揺らめいた。
彼がその中に吸い込まれると、エイダとガロアが続いた。どうやら、ここは秘密の入り口らしく、体がすり抜けられるようだ。
僕も彼らの背中を見ながら後に続いたが、鼻と額と膝をしこたま壁にぶつけてしまった。
「そりゃそうだ。新入りだからね」
僕の横で笑うデデキントは、「お頭に話をつけてくる」と言い残して壁に吸い込まれた。
待たされること3分。3分は、僕がいつも食べているカップ麺の出来上がり時間で、時計がなくても体が覚えている。
そんな短時間でも、僕にとっては1時間も2時間も待たされたような気がした。待っている間、背後に悪魔が現れていないか、何度も振り返ったものだ。
「許可が下りた。さあ、入りたまえ」
路地の向こうに目をこらしていた僕の背後からデデキントの声が聞こえてきた。いきなりでちょっと驚いたが、一人寂しく待たされることから解放される喜びに、足取りも軽く壁を抜けた。
すると、壁の向こうは、壁面一杯に本が並んだ広い書斎だった。
中央に、向かい合わせになったソファが置かれ、右側奥からエイダとガロアが、左側奥からポアンカレと見知らぬ男女の合わせて三人が座っていた。デデキントは、ガロアの左横に着席する。
全員の視線を浴びた僕は、ちょっと気恥ずかしくなるも、観察を続ける。
奥の中央に重厚な作りの大きな机があり、羽根ペンとインク壺と書類の山が見えた。
すると、その書類の山の奥から、ヒョイッと黒猫が姿を現した。
直感で行動する人、リアルの世界でもいますよねぇ。
不思議と正しい結果を導くのですが、失敗すると結構派手に。
ここに登場するポアンカレもそうです。