57.偽装された捕り物
それはまさしく、青天の霹靂だった。アンジェロが、僕らが目の敵にしている使者のボス的存在が、憶良の元上官なのだから。
僕は後ろに後ずさりする。その時、僕の左横でガウスとアーベルがインビジブルを解除した。
憶良はさほど驚いた様子は見せずに、二人の顔を見る。
「そちらさんは、君の友人かね?」
「一緒に新生ゲートを通りたい仲間です」
彼は、フムフムと頷く。
「おい、セッキー。この爺さん、アンジェロの元部下ってことだよな? どういうことだ?」
アーベルが指をボキボキ鳴らしながら、憶良に近づいて見下ろす。
ガウスは「まあ待て」とアーベルを制して、憶良に近づいた。
「オクラさん。説明を願いたいところだが、今は時間がないので、まずはうちに来てもらいます。いいですね?」
「かまわんが」
アーベルが右の拳で左の手のひらをバンバンと叩く。
「どおりで使者の臭いがすると思ったぜ。俺たちを騙したら、ただじゃ済まんぞ!」
「騙しはせんよ。確かに昔は使者ではあったが、わしは奴らの強引なやり方に愛想を尽かしたから逃げ出したまでじゃ」
「強引とは?」
「みなが新生ゲートと呼ぶ門は、実はほとんど使われない。人生をやり直したい人間や志半ばに斃れた人間が、現世に戻りたいという希望を叶えられないのを見ていて忍びなくてのう」
ガウスはしきりに頷く。
「動機はわかりました。まずは急いでください」
「わしは姿を隠せんぞ」
「何か羽織る物は?」
なぜか、憶良は床に目を落としたまま動かなくなった。
「……仕方あるまい。使者の格好でもするかのう」
彼は再び床下に潜り、白いドレスに羽を生やした天使の格好をして現れた。いや、顔まで少年のように変わって登場した。
僕は仰天して、さらに後ずさりする。
「お、憶良さん! それが本当の姿なのですか!?」
「そうさ。老人に化けていたのさ」
声まで若々しく変わっている。怪人二十面相も真っ青と言ったところだ。
「そうでもしないとバレるだろう?」
「元の顔だと、アンジェロに見つかりませんか!?」
「何? 今、素顔を見せているって? ハハハッ、そこまで間抜けじゃないよ! これは、その辺にいる使者の顔さ。
さ、案内してくれ。
あっ、一応、君達三人を捕まえたという設定にさせてもらうから。アンジェロに遭遇した場合、説明しないといけないし。
それと――」
「まだ何か?」
「姿を見せずに外で待機している諸君は、見えないままにしていてくれ。
僕が一人で十数人も捕まえたなんて、かえって怪しまれるから」
これには脱帽だ。すっかり、僕らの行動は見破られている。
「使者は全員そうやって見破れるのですか?」
「いいや。かなりの力量がないと無理だね。ほとんどの使者は気づかないよ。
もちろん、アンジェロは例外だけど」
「憶良さん。実は名前も偽名だったりして?」
「そりゃそうさ。でも教えないよ。うっかりアンジェロの前で口にされたら困るしね。
そうだなぁ……、ミシェルでいいよ。アンジェロは憶良を捜しているんだろ?」
納得である。
こうして僕ら三人は、天国の使者ミシェルを先頭に、いかにも捕まってうなだれている格好で歩き始めた。
姿を隠した残りの仲間は、その後ろからかなりの距離を置いて、様子を窺っている風を装うことにした。
ところが、一行が時計台の近くまで来たとき、思わぬ展開が待ち受けていたのである。




