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異能力者は棺の中で眠らない  作者: s_stein
第3章 新生ゲートの真実

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54.共同戦線への道

 ルベーグの提案で、時計台の地下にある証拠物品をみんなで見に行くことになった。


 あんな狭い部屋に僕を入れて十四人は入れないので、文字が刻まれた板を一階に持ってくることになった。


 建物の中に入ると全員がインビジブルを解除した。懐かしいとまではいかないが、久しぶりに会う仲間の笑顔が、ランプの光で輝いて見えた。


 まだ不信感を抱いているらしいルベーグ、ド・モルガン、グラスマン、クライン、アイゼンシュタインは怖い顔をしているが、証拠を見たら僕を快く迎えてくれるであろう。


 案の定、僕が地下の階段を降りていくとルベーグたち五人が後ろを付いてきたが、恐れることはない。


 しかし、例の封印されていた部屋に近づくにつれ、もしかしたらあの板が盗まれてはいないかと不安になってきた。なぜだろう。一皮むけたはずが、昔の心配性が戻ってきたのか。


 でも、板の盗難は杞憂に終わった。そこには僕が嵌めた通りに板があったし、それを外してルベーグたちに見せると「おおおっ!」と歓声が上がった。


「セッキー、正直に言っていいか?」


 ルベーグが眉間に皺を寄せながら僕に顔を近づける。


「ど、どうぞ……」


「全然読めん」


 部屋中が笑いに包まれた。


 でも、文字が読めなくてもこうして互いに会話が出来るという不思議には、疑問を持たなかったようで助かる。


「東洋の文字は、ヒエログリフよりもたちが悪い。全く見当が付かないからな。

 新生ゲートを通ったら、絶対に東洋人には生まれ変わらないぞ」


 ルベーグはそう言ってまた笑った。



 僕が板を廊下に出すと、いいからいいからと、ルベーグ、クライン、アイゼンシュタインが三人で一階まで板を持って行ってくれた。


 その板を壁に立て掛け、ランプをかざしながら、みんなに向かって解説する。


 一通り聞き終えた彼らは、十回も新生ゲートを通った僕に羨望のまなざしを向ける。


 アーベルが太い腕を組んで口を開いた。


「セッキーの先祖――じゃないな、セッキー自身がそうやって何度も人生をやり直しているけど、何回かは全く同じ人生を歩んでいるみたいだな。

 つまり、新生ゲートには当たり外れがあると」


 デデキントが「当たりは、別人になって歩む人生かい?」と笑う。


 すると、ガロアが「自分の人生が修正できないのなら、僕には意味がないな」と口を挟んだ。


 ジェルマンが「セッキーは、その名もない挫折した数学者、無念に散った従軍記者、そして今のセッキーのどれをやり直したい?」と真顔で訊いた。


 僕は、迷わず答えた。


「絶対に、今の自分です」


「その情熱はどこから来る?」


「まだやりたいことが山のようにありますから」


「数学者も従軍記者も同じだ」


「いいえ、僕は彼らより若いですから」


 僕の言葉に、ジェルマンはニヤッと笑った。



 ここでガウスが「話も尽きないようだが、そろそろ――」と割り込んできた。


「さて、わかったことと言えば、新生ゲートは天国用と地獄用に2つあること。

 その場所はオクラと名乗る老人が知っていること」


 それを聞いてエイダが「それと、私たちが新生ゲートを探してそこを通ることは、使者にとっては違法行為みたいなものなので見逃せないということ」と補足した。


「「さあ、どうする?」」


 ガウスとエイダがハモった。


 ため息が漏れる中、ガロアが「決まってるよ」と声を上げた。


「誰が決めたかわからないそのルールに、みんなは納得しているのかい?

 ジョードだっけ? 天国のことを東洋ではそう言うんだね。そのジョードへ行く前に、現世に戻る組と戻らない組の(グループ)を作るって、誰がどんな規則で分けるんだい?」


 誰かが「出たよ、得意の群論だ」とつぶやいた。


「自分の人生は自分で決める。

 だから、僕は新生ゲートを通る」


 すると、アーベルが「おい、待てよ」と言う。


「一人が新生ゲートを通ったら、他はどうなるんだ?

 待つのか? どれくらい?

 グズグズしていると捕まらないか?

 おい、セッキー。その辺りを覚えているか?」


 僕は両手を振って否定する。


 ポアンカレが「そんなもの、直感で考えろ」と言ってアーベルの背中を叩く。


「直感?」


「ああ。全員で一斉に突破する。きっとうまくいく」


 親指を立てたポアンカレは、ウインクした。


「それはいいが、あいつらは?」


「あいつらって?」


「フィロソフィーの奴らだ。妨害しに来ないか?」


「妨害させなきゃいいだろ?」


「どうやって?」


「奴らだって、最終目的は新生ゲートだ」


「だから?」


「仲間に引き込む。そして――」


 彼は肩に抱えていた自慢のライフルを壁に向けて狙いを定めた。


「共同戦線を張ってアンジェロたちをぶっ潰す」


 アーベルだけではなく、他のみんなも目を丸くした。


「勝算はあるのか?」


「この自慢の直感を信じろ。

 奴らは必ず――乗ってくる。

 必ずな」


 自信たっぷりにそう言うポアンカレは、引き金を引く真似をして見せた。


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