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異能力者は棺の中で眠らない  作者: s_stein
第1章 死後の世界戦争
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5.背中から出てきて自在に変化する腕

 僕は、相手が後ずさりしたので、てっきり(ひる)んで逃げ出すと思った。


 ところがどっこい、無表情を貫いていた相手は踏みとどまり、右腕を大きく振りかぶって、白い歯を剥きながら力を入れる。


 これはまずい。取っ組み合って組み伏せるつもりだったが、作戦変更だ。と思ったら、前に出過ぎて、奴の射程範囲に入ってしまった。


 顔面に石のような拳をまともに食らった僕は、作用反作用の法則よろしく、突進した僕の力をそっくりそのまま返される。そこに拳の突きの分がプラスされて、大きく仰け反った。


 そこに、追い打ちをかける二発の正拳突き。


 僕はめまいを覚え、光を失いながら仰向けに倒れた。


(何だよ……これ)


 後頭部から倒れ込んだので、また火花が目の前で弾ける。


(これで覚醒? ちょーよえー……)


 力が抜けて火花を数えていると、胸ぐらをつかまれた。まだ消えない火花の向こうに、サングラスの顔が見える。


(何こいつ。中ボス?

 これで雑魚なんて冗談、ないよな……。

 マジ死ぬわぁ)


 胸ぐらをつかまれたまま、体がグイッと持ち上げられた。軽々と持ち上げられたという感じだ。


(腕一本で、なんて怪力だ。信じられない。。。

 そうだよな。こいつ、人間じゃない。悪魔じゃん……)


 妙に納得していると、またボコボコにされた。もういい加減、パンチングボールみたいに叩くのは止めて欲しいが、石畳の下へ引きずり込まれないだけ、まだましだ。


 でも、


 ――勝機はある。


 こんな絶望的状況でも、僕は一縷の望みも捨てなかった。


 ――胸が熱い。


 ――体の中で、何かの殻が割れていく感じがする。


 ――今度は、全身がはち切れそうなほど、力が漲る!


 その気力が僕の表情に出たからか、男は突然、拳を振り上げたまま躊躇した。



「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 衝動的に咆哮した僕は、両手の拳を握りしめる。ところが、その拳は振り上げられることはなかった。


 背中の左右の肩甲骨辺りから、何かが服をすり抜けて出てくる感覚。その下からも、まだ下からも、対になって何かが出てくる。そいつらは、僕の背後から風を切る音を立てて横を通り過ぎ、一気に伸びてきた。


 それは、深紫色の六本の腕。


 僕の胸ぐらから手を離した奴は、後ろへ跳ぶように下がった。だが、腕はそれ以上の速さで伸びて、そんな回避は無駄であることを相手に告げる。


 四本の腕が、悪魔の両腕と両足を、骨が折れんばかりにググググッとつかむ。


 残る二本の腕が、千枚通しのような形状に変化する。


 それらは何の躊躇もなく、相手の額と胸を刺して抉るように突き進み、貫通した。


 悪魔はブルブルッと震えたかと思うと、黒い煙となって消え失せた。



「こっちも頼む!」


 デデキントの苦しそうな声が背後から聞こえてきた。僕は、まだ背中から出た腕が伸びたままの状態で声の方へ体を向けた。


 見ると、エイダは黒い鎖でまとめて五、六人を締め上げているところだったが、デデキントは剣を持ったまま、サングラスの男に後ろから羽交い締めにされていた。こうなると、どんな物でも切れる剣も形無しだ。


 デデキントの正面から狙う男は六人。いずれも僕に背を向けていて、デデキントをつかもうと両手を前に出している。こいつらは、我々を刃物で殺すのではなく、地獄へ引きずり込もうとしているのだ。


「させるかあああああああああああああああっ!」


 僕が叫ぶと、深紫色の腕がまるで自分たちの意志でも持っているかのように、いずれも千枚通しのような形状になり、矢のように飛んで男たちの背中を突き刺した。


 六つの黒煙の塊が、同時に空中へ溶け込んでいく。


 僕の伸縮自在の腕は、まだ役目が終わっていないことを知っているようで、今度はデデキントを羽交い締めしている悪魔を側面から六カ所突き刺した。こいつも、ブルブルッと震えて煙となった。


「凄い凄い! ワサンボンくんの新しい異能力だ!」


「セッキーがどっかに行っちゃってますけど……」


「これは失礼、セキリュウくん」


「ガロアの聞き間違いから、いい加減――」


 僕の伸びる腕は、デデキントへ背後から飛びかかる男の額を突き刺した。


「――に離れてくださいよ、お願いですから!」


「わかった――」


 デデキントは、そう言いながら後ろを振り返り、さらに飛びかかってきた三人に剣を真横に振るう。銀閃が走ったかと思うと、三人の胴体は真ん中から泣き別れになり、次々と煙になった。


「――よ。セッキーくん」


「やっと正解です」


 僕とデデキントは、ハイタッチをして笑顔を交わした。



「これで終わりかしら?」


 エイダもデデキントも、辺りをぐるっと見渡す。僕は見落としがないか、屋根を見上げ、念のため木箱の裏にも回って確認した。いつの間にか、伸びる腕は背中の中に吸い込まれていた。


「オーケーみたいね」「ヤー」「こっちも大丈夫です」


 今度は、三人でハイタッチをした。


セッキーの技は、イメージは千手観音です。

もちろん、千本も手はありません。

実際の千手観音像もそんなにありませんね。

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