43.マテマティックの戦闘員
マテマティックの四人は、戦いに慣れている風に見える。軍服を着ているからというのもあるが、着せられている感のある者は誰一人いない。
みな体格がいいので、服の下には盛り上がる筋肉が隠れているかも知れない。戦いのプロだとしたら、かなりヤバいかも。
四人とも量の多少はあるが髭を蓄えていて、顔つきから30代前後に見える。
僕がどんどん前へ押し出されると、彼らは目つきが険しくなり、小声で何か言葉を交わした後、半身の構えを取った。
状況から明らかに僕だけが戦う風に見えているはずだ。だとしたら、多勢に無勢。なのに、なぜこれほど警戒するのだろう。
(そうか! 僕の顔が初めて見る顔だからだ!)
いつもの馴れ合いみたいな戦いでよく見かける顔じゃないのが混じっていると、僕だって「あいつ、強力な助っ人か?」と思う。
それだ。
と、合点がいったその時、穴の中でガタガタと音がした。
(まだ誰かいる!)
慌てた僕は両足に思いっきり力を入れて踏ん張り、さらに体重を後ろにかけて、背中を押すハンスたちに抵抗した。
なのに、ハンスたちはもっと力を入れてくる。連中との距離は10メートルもない。
(やめて欲しいのだが! おい! ハンス! 心を読め!)
すると、がたいのいい大男が穴から勢いよく飛び出してきた。
銀髪の角刈り、彫りが深くて四角い顔、緑眼、鷲鼻、それに分厚い唇。他の四人と違って髭はない。
それにしても、はち切れそうな軍服だ。でも、サイズが合っていないからではない。明らかに、盛り上がる筋肉によるものだろう。しかも、背丈が2メートルは超える。
分厚い壁のように立ち塞がれて呆気にとられていると、後ろで「わわわっ!」と声がして背中を押している手が離れた。しかも、バタバタと逃げるような足音がする。
後ろに体重をかけていた僕は、滑稽なほど大きな尻餅をついた。おそらく、目の前のマッチョな大男には、仰天してひっくり返ったように見えたことだろう。ハンスたちめ、この仕返しは必ずしてやる。
大男は、僕の方へ大股で近づいてきた。
「俺はアンリ・ルベーグだ。貴様、名を名乗れ」
ドスの効く声が空気まで震わす。
「関孝和」
その言葉にルベーグは一瞬たじろいだ。おっと、僕の異能力でも知っているのだろうか。
だが、違った。
「いや、あのセキ タカカズなら、こんな小僧ではない。
貴様、偽っているな?」
「いやいやいや。これは僕の本名だ」
「フン。同姓同名か」
それから、ルベーグは僕の後方を見て「おい、ハンス! 爆弾を仕掛けた奴は誰だ!」と怒鳴りつける。
振り返ってみると、ハンスたちが10メートルほど離れたところで、棒を構えながら「それは言えぬ」と言って震えている。僕に全てをなすりつけたらノベリストを脱退してやろうと思ったが、そこまであくどくはないようだ。
「どうせ、ペンネームがアーネストって奴だろうよ。このセキ タカカズは、そんな度胸はないはず。顔を見りゃわかる」
僕は心の中で「そりゃ、どうも」とつぶやいた。
ルベーグは腕組みを始めた。
「さて、小僧たちをどうするかな? いつもは見逃してやっているが、見せしめに縄で結わいて、地獄の使者に連れて行ってもらおうか」
僕は、この言葉にハンスたちがどう反応するかを見てみたら、フルフルと頭を横に振り、膝が笑うくらい震えていた。
「いや、それは困る」
僕はルベーグを見上げ、きっぱりと言って立ち上がった。




