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異能力者は棺の中で眠らない  作者: s_stein
第2章 羊たちの決戦

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39/62

39.マテマティックの襲撃

「では、その最高傑作と申す作品を朗読してみせよ」


 耳に飛び込んだアンジェロの言葉で、光の中から引きずり出された僕は、目をしばたたかせた。もちろん、先ほどまで見えていた光は跡形もなく消え、少し前の現実世界――と言っても死後の世界――に戻ってきたのだ。


 彼は、そんな作品などありはしないだろうという顔をしている。確かに、記憶が封印された主人公の話など書いていない。プロットすら頭にない。


 だが、最高傑作ならある。僕は、常に、最新作が最高傑作(マスターピース)なのだから。


 僕は一呼吸置いて、死ぬ直前まで書いていた物語を皆の前で披露した。



 それは、異世界ファンタジー。


 ありふれた話と笑われるかも知れない。醒めた目で見れば、そう、よくある話だ。


 テンプレと呼ばれるかも知れない。


 それでも、僕の空想は(ぼう)(ばく)とした荒野を駆け巡り、(びよう)(まん)たる(わた)(なか)を進む。


 (よう)()(げん)(かい)、摩訶不思議な出来事が絶えず起こり、勇者が聖剣の一刀両断で解決する。


 このストーリーを、聴衆は初めは不思議そうな顔をしていたが、時代設定が中世らしいとわかってから身を乗り出してきた。


 時代考証が所々違和感があるらしく、首を傾げる者もいたが、想像の世界であると割り切って自分の理解の範疇にある者たちは、しきりに頷く。


 ――ほら、僕の小説は、時代も国境も越えて理解されている。


 百年以上前に死んだはずのハンスも、アンジェロまでもが耳を傾けている。


 と、その時、僕の心の奥底から声が聞こえてきた。


「だが、その勇者には過去の記憶がない。まるで僕自身のように。それは、誰かが僕の記憶を封印しているからだ」


 なぜだろう。それを言わなければいけない気がしてきた。すると、アンジェロがイヤそうな顔をする。


 理由はわからないが、言わない方がいいという気持ちを抑え込んでまでも、心に浮かんだ言葉を強引に話の中に挟もうとした。


 と、その時、


 ドオオオオオーン!


 僕がこの部屋に入るときにすり抜けてきた壁の向こうで、爆発音のようなものが鳴り響き、部屋が地震に見舞われたかのように揺れた。


 仲間はほとんどが席を立ち、顔を見合わせる。


「落ち着け! いつもの行動に移れ!」


 アーネストが、動揺する仲間たちを鎮めながら、僕に向かって「連中と一緒に避難しろ」と指示した。いつもの行動とは避難することなのだろう。


 僕が音の方向に目をやり、一斉に避難する仲間の動きを見ているうちに、いつの間にかアンジェロが姿を消していた。だが、今は彼がどこへ行ったのかなどを推理している暇はない。


「何が起きたのですか!?」


 もう避難を開始したアーネストは、何も答えず背を向ける。ハンスだけは妙に落ち着いていて、ヨッコラショと席を立った。


「襲撃です」


 あまりに余裕なハンスに、僕は呆れながら「襲撃!?」と聞き返した。


「ええ」


「相手は?」


「まあ、マテマティックの輩でしょうね」


「マテマティックが? なぜ?」


 すると、ハンスはフーッとため息をついて眉をひそめる。


「アーネストから聞いていませんか? どこと交戦状態にあるかってことを」


「ああ……、言われてみれば」


「さあ、行きましょう」


「アンジェロはどこへ?」


「さあ。あのお方は神出鬼没ですから」


 そうして、ハンスは僕の左腕をつかんで、「ささっ、こちらへ」と部屋の奥へ案内する。


 一緒に向かった先は煉瓦塀だった。でも、ハンスが右手のひらを壁につけると、波紋のように壁自体が揺らぎだした。これは、この部屋に入ってきた時と全く同じだ。


 ハンスは、「要領は前と同じですから、一緒に来てください」と言いつつ波紋の中へ体を入れると、体が壁の中に吸い込まれた。僕は遅れないように彼の後ろを追い、壁の中へ身を投じた。


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