30.2つの争い
「この世界で起きている2つの争いを説明しないといけなくなるが、ある程度は聞いている――みたいだな」
心の中で『知っている』とつぶやいただけで、読まれてしまった。
「まず、フィロソフィーとの戦い。
彼らは、天国の使者からも地獄の使者からも逃れていたんだが、いつの間にか手を結んで、我々を潰そうとしている」
「なぜ手を結べたのですか?」
「どちらの使者にも妨害活動をしなかったから。単に逃げ回っていたおかげで、そうなったというのが正しいが」
「まあ、敵対関係になければ、お互いに利益があるなら手を結びますよね。
それで、我々を潰す目的は?」
「妨害活動をする我々の排除」
「でも、その目的はフィロソフィーの目的ではなく、使者の目的ですよね?」
「もちろん」
「単に使者から利用されているだけにしか思えないのですが。
フィロソフィーには、何の利益があるのですか?」
「彼らが新生ゲートへ行くことに対して、使者が手出しをしないという確約だ」
「ということは、彼らはすでに新生ゲートの場所を知っている!?」
「いや、まだ彼らは知らない。それは我々も同じ」
僕は、彼らがすでに知っているのなら、捕まえて締め上げて、白状させようかとも考えた。だが、知らないのでは仕方ない。
「ハハハッ! 締め上げるねぇ……。出来るものならやってごらん」
また心を読まれてしまった。困ったものだ。
まあ、たとえ知っていたとしても、僕たちをここまで弾き飛ばす異能力者の集団相手に、まず無理だろう。
「そして、もう一つの争いは、使者との争い。
昔は、地獄の使者も天国の使者も『断る』と言えば引き下がったのに、ある時をきっかけに強引に連れて行こうとするようになった」
「それは、何がきっかけなのですか?」
「実際に目撃したわけではないので推測も入るが、『断る』と言わずに、いきなり使者を攻撃した者がいて……」
「ああ、なんとなくわかります。恐怖に駆られたってやつですね」
「そういうことだ」
「きっかけって、もしかしてマテマティックの誰かですか?」
「全員ではないが、その一人だ」
「やっぱり……。なんか、アーベルならぶん殴りそう……」
「使者は聞く耳を持たなくなったから、我々も説得をやめた。こうなると、争いを続けるしかない」
「僕は最近この世界に来たので、争いのない平和な時代を知りませんが、だからといって争いを肯定しません。
今の争いは無益です。フィロソフィーの連中まで担ぎ出されて、混乱が大きくなっています。このままでは、我々は壊滅してしまいます」
「では、何か秘策でもあるのかね?」
僕の方へ鋭い目を向けるヒルベルトは、僕の心を読もうとしているみたいだ。
とにかく、無心になる。
「……ないのだな?」
「今はありませんが、いつかは考えてみせます。みなさんのためにも」
僕は、ガウスが消えた建物の辺りに目を向けた。
すると、そこに何やらうごめく白いものが見えた。
「ヒルベルトさん、あれ」
「来たな、噂をすれば」
彼は、すっくと立ち上がった。




