3.ステルス型の悪魔
悪魔と、エイダの必殺技をご覧に入れる回です。
主人公の関孝和は、セッキーというあだ名をつけられ、アイテムを手に入れますが、まだ異能力は覚醒しません。
「敵の一部がこっちに向かっているそうよ!」
「端末には?」
「映らない! 例のステルス型!」
「なら、気配を感じるしかないか……」
デデキントは歩道の中心に立ち、太刀を握りしめて中段の構えになって目を閉じる。
エイダはデデキントと背中合わせになり、左手に持った端末を胸に当て、右の手のひらを前に突き出して目を閉じる。
二人とも全神経を使って、敵の気配を感じ取るようだ。
僕は、木箱の横の壁まで忍び足で歩いていき、ソッともたれかかる。ちょっと、ひんやりする。ここなら、後ろから攻撃されることはないだろう。
だが、ここからは無闇に動くわけにも行かず、息を殺して立ち尽くす。
全く風がなくなった。
3メートル先にいる二人の呼吸音が聞こえてくるかのようだ。
ドキドキはしないのだが、脂汗が流れる。膝を曲げると、コキッという音が響きそうで怖い。動く気配を作ってしまうと、敵だと思われて斬られかねないし。
すると、僕の頭の上に、何かハラッと砂のような物が降ってきた。
思わず見上げると、建物の屋根の上から、サングラスをかけた男の顔がこちらを見下ろしている。
「上!」
僕の叫び声に、エイダが目をカッと開いて屋根の方を見上げ、素速く右手を敵に向けた。
「キャッチ エクセプション!」
そう叫んだ彼女の手のひらから、黒光りする太い鎖が飛び出した。
鎖は、一瞬で屋根の上まで伸びていき、頭に巻き付くとギュイーッと締め上げる。
敵は頭を両手で押さえ、顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がった。黒いスーツを着た、エージェント・スミスみたいな奴だ。
「ファイナリー!」
彼女が高らかに叫ぶと、敵の全身がボムッと音を立てて黒い煙の塊となり、霧散した。役目を終えた鎖は、たちまちのうちに彼女の手の中へ戻っていく。
デデキントは、まだ目を閉じたまま、背中合わせの相手に声をかける。
「悪いね、参謀に戦わせて。
しかも、必殺技『例外処理』を使わせてしまって」
「いいの。ブルバキに勝手に参謀にさせられたのだから。
私は今も、現役の戦士よ」
「ありがたい。
それよりも、敵さん、かなりいるね」
「ええ。私も、今それを感じたわ。
今度の悪魔は、本気みたいね」
彼らが心の中で読み取っている状況がわからない僕は、迫り来る無数のエージェント・スミス――正体は悪魔――を想像して、固唾を呑む。
と、その時、エイダが僕の方を横目でチラリと見た。
「ねえ、セキ タカトシ」
「あのー、タカアン○トシみたいに言わないでください。僕、芸人じゃないです」
エイダが吹き出した。つられて、僕も吹き出す。
「ごめんなさい。大道芸人と間違えて」
「いえ、それもだいぶ意味が違いますけど。彼らが、ちげーよって怒ります」
「面倒だから、セッキーでいい?」
「はぁ? タカの方がしっくりくるんですが……」
「セッキーは、異能力は使える?」
「(セッキー、確定かい!)異能力なんか無理ですよ。
厚い本とかがあれば、その本の角で攻撃できますが」
「あら、そう?
なら、これ――あげるわ」
悪戯っぽい笑みを浮かべたエイダは、手のひらに何か持っているかのような格好で、右手を僕の方へ差し出す。でも、何も見えない。
からかわれたと思ってムッとする僕は、次の瞬間、彼女の手の上に分厚くて古めかしい本が出現したことに打っ魂消た。
彼女が手首のスナップを利かせて放り投げたその本は、僕の手前で落ちそうになった。慌てて前に飛び出して、その本を何度も手の上で弾ませて受け取った。
見た目ほど重くない。でも、がっしりしている質感が肌から伝わる。
「さあ、連中が来るわよ」
エイダの声に、僕は身構える。そして、耳に全神経を集中させ、辺りを窺う。
と、その時、僕の両足首が、何者かによってガシッと捕まれた。
見るからに、マトリックスです。(笑)
おどろおどろしい異形者を登場させてもいいのですが、
「スーツを着た悪魔」の方が怖くありませんか?
全身黒タイツの人間に追いかけられて、スリッパで叩かれるよりも、
よっぽど怖いです。(笑)
悪魔はこの後、いろいろな姿で登場し、エイダたちを悩ませます。
まあ、彼らも100年以上戦っている(ということが後でわかる)ので、
慣れたものらしいですが。
なお、エイダの必殺技は、説明不要かも知れませんが、
try-catch-finally から来ています。