23.永劫回帰
「君は、連中から新生ゲートのことを聞いていると思うが、連中の言うことを本当に信じているのかね?」
信じているから、ここに来たのではないか。首肯するまでもない。
「その顔は信じているみたいだな」
本当にあの距離から僕の表情が読み取れるのかは疑問。おそらく、態度で判断しているのだろう。
「永劫回帰という言葉を知っているか? 永遠に円環運動を繰り返すことだ。
それこそが人生。
人間は、生まれ変わったとしても、全く同じ時間に同じ人生を歩む。結局、同じ時刻に同じ原因で死んで、またここに来る。
つまり、前世も来世もない。すべて、現世と同じなのだ」
僕は、また姉貴に罵られたり、ホームから転げ落ちる場面が頭に浮かんできた。
「考えてもみよ。そんな自分だけが都合のよいゲートを通って、人生を違う形でやり直せたとしたら、肉親や知人はおろか、周囲の見知らぬ人間にまで影響を与え、それが連鎖的に波及する。
場合によっては、世界中が全く違う歴史になるやも知れぬのだ」
確かに、そう思えてきた。
「過去に、死者が蘇って歴史が変わったという事件は起きていない。
そもそも新生ゲートなど存在しないからだ。私は、そう確信する。
仮にゲートが存在して、そこから生まれ変わったとしても、同じ人生を歩むだけだ。
これを無駄な努力と呼ばずして何と呼ぼう?
さあ、使者の導きに従え」
ニーチェの言わんとすることが理解できた。つまり、こうだ。
僕は生まれ変わったとしても、ドキュメンタリー映画のDVDを再生するように、全く同じことを――もちろん、意識せずにだろうが――繰り返す。
この世界の出来事も人生の出来事の一つなら、ガロアに出会うことも使者と戦うことも、ここでニーチェの言葉を聞くことも、全て繰り返す。
そして、生まれ変わり、死んで、また生まれ変わる。
エンドレスライフなのだ。
――本当にそうなのか?
僕は、インビジブルを解除して、ニーチェの前に姿を見せた。
「僕はあなたの意見を聞いて、それも一理あると思いました」
「ほう。聞き分けの良い新入りだ」
「でも、納得できないところがあります」
「ん? 言ってみよ」
「使者の導きに従え、とあなたは言いました」
「確かに」
「なら、なぜあなたは、使者の導きに従わないのですか?」
「…………」
「本当は、あなたも新生ゲートを通って生まれ変わりたいのではないですか?
もしかしたら、永劫回帰は間違っていて、実は違う人生を歩むのかも知れない、という一縷の望みがあるのではないですか?
でなければ、いつまでもここにいないでしょう」
「…………」
「ここにいるということは、天国にも地獄にも行かないと抗っているからです。
それが、何よりも、新生ゲートを探している証拠です」
「詭弁だ」
「詭弁ではありません。
あなたはなぜここにいるのか、使者とどういう取引をしたのか、答えてください」
「フン。マテマティックの諸君。諸君の人生もここで終わりを告げることになるであろう。
さあ、その運命を受け容れよ」
そう言いながら、ニーチェは右手を上げて指をパチンと鳴らした。




