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異能力者は棺の中で眠らない  作者: s_stein
第1章 死後の世界戦争

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20.発動した異能力

 僕は、ジェルマンに激しい怒りの感情をぶつけた。


 心の中で、もう一人の自分が『言葉じゃなくて体で表現しろ!』と叫ぶ。


 それに力を得て、短く振りかぶって右ストレートを繰り出す。


 だが、一方で、人を殴るなんていけないことだという気持ちが筋肉をこわばらせ腕を引き戻そうとする。


 制止する気持ちを何とか振り切って繰り出されたパンチは、見るからに威力が弱い。


 そんなヒョロヒョロなパンチを避けるまでもないと、ジェルマンは僕の右ストレートを喉の下辺りで受け止める。


 女性の顔を殴るのはまずいし、さりとて胸を狙うのはどうかと思った結果、拳の行き着いた先がそこだった。


「ストレートは、こうやって繰り出すんだよ!」


 彼女も、短く振りかぶってリーチの長い右ストレートを繰り出した。


 近くで腕がグンと伸びたように思った瞬間、バキッという音がして左の頬骨が折れそうになるほど強打された。


 ()()めいたが、なんとか踏みとどまる。


「おっ? これで倒れないとは、根性があるな」


 続けて、強烈なワンツーを両頬に食らった。それでも、倒れそうになる体を足が支える。


「おいおい。両手でガードしろよ。脳しんとうを起こすぞ」


 さらにワンツーを2回。顔面で受け止める。


「打たれ強いをアピールしているのか? そんなことをしていたら、仕舞いには顔が変形するぞ」


 能弁な彼女は、動きが止まった。


 次の瞬間、今までもろに受けたパンチで悔しさと怒りを蓄積していた僕は、それを爆発させた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 と、その時、背中の左右の肩甲骨辺りから、何かが服をすり抜けて出てきた。


 この感覚。


 ついに来た!


 深紫色の二本の腕が、僕の背後から風を切る音を立てて横を通り過ぎ、あっという間にジェルマンの両腕をつかんだ。


 彼女は、つかまれた腕の方には目もくれず、僕の頭の上を向く。なぜなら、僕はもう二本の腕を出現させて、頭上で大きく振りかぶっていたのだ。


 片方の拳が彼女の顎を下から突き上げ、続けてもう片方の拳が腹部を殴打する。 まさかの反撃に、ジェルマンは初めて戸惑いを見せた。


 と、その時、顎と腹を攻撃した二本の腕が、千枚通しの形に変形した。


 それらが、今度は彼女の喉と胸を同時に攻撃する。


 必死の形相になった彼女は、自由を奪われている両腕をぎこちなく動かして、千枚通しを二つともつかんだ。


 四本の腕と二本の腕が、力の勝負になった。


 千枚通しの先端が、ジリジリと彼女に迫る。


 押し返せない。向きも変えられない。


 すると、彼女がわざと後ろに下がった。結果的に腕を引っ張られたことになる。


 押しまくっていたので、突然引っ張られたことで僕は不格好に()()めいた。


 その動きが腕に伝わり、彼女も(あお)られて足がもつれた。


 僕は前のめりに倒れ、彼女は尻餅をつく。


(チャンスだ! 行けえええええっ!!)


 僕の心の叫びに反応した千枚通しの腕は、ジェルマンの手を振り切っていったん後ろに下がり、矢のように彼女めがけて伸びた。


 彼女は、体を回転させるようにして避ける。


 千枚通しは石畳に突き刺さった。


 彼女が僕の方に顔だけ向けた。


「勝負ありだな」


(ああ、そうだよなぁ……)


 標的を攻撃できずにまだ突き刺さったままの二本の腕を見て、僕はため息をつく。


 失敗だと言いたいのだろう。


「ええ、確かに……。これじゃあ、僕の負け――」


「いいや。見て見ろ、これ」


 ジェルマンは仰向けになった。


 すると、彼女の両腕を捕まえていたはずの二本の腕がいつの間にか千枚通しに変形して、彼女の両方の鎖骨辺りに突き刺さっているのだ。


「あっ、すみません!」


「決闘にすみませんもないだろう。一応、一本取られたよ」


 僕は慌てて腕を引っ込める。


 彼女は上半身を起こして、傷口に手を当てた。すると、傷口が緑の光に包まれ、ひとりでに治癒していった。


「一応、異能力を見せてもらったよ。ただし――」


 治った傷口を見ていた彼女が僕の方を向いた。


「荒削りだけれど」


 彼女は立ち上がって、両手で尻をポンポンと(はた)く。


「ガロア」


「はいぃ?」


 急に振られたガロアが、目を白黒する。


「確かに言う通りだよ。その子、素質がある」


「でしょ、でしょう!?」


「デデキント」


「今度は俺?」


 デデキントが自分の指で鼻を指す。


「『抜群』はお世辞が入っているぞ」


「いやあ、正直に言ったまでだけど」


「その子、調子に乗るから、お世辞は抜きにしな」


 ジェルマンはニヤッと笑った。僕は、反射的に頭をかいた。


(ジェルマンさんに認められた!)


 そう思っただけで、嬉しさがこみ上げてくる。


 だが、一息つきたい僕に休憩をさせてくれなかった人物がいる。


 待ってましたとばかり、エイダが「さあさあ、集まって、みんな」と全員に手招きしたのだ。


 僕らは円陣を組んだ。


ここまで全面的にストーリーを変えました。

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