14.敵の弱点
「幻術師?」
「マジシャンとも言う」
「マジシャンって、僕の生きていた世界では手品師です」
「そうなのかい? 普通は魔法だけれどね。言葉は国によって解釈がいろいろだから、別に驚かないけれど」
確かにそうだ。特に、外来語は、最初に使った人が本来の言葉と違う使い方をして広まることもある。ただ、マジシャンに関しては、時代が下って狭義の意味で手品を指すようになったと思うが。
手品と考えれば、キェルケゴールの術も怖くなくなってきた。また同じ物を見せられたら、自分を襲うのが仲間で、キェルケゴールはどこか他で見ているとわかるから、討ち取るチャンスもあるだろう。
まあ、本人も化けることはあるだろうが、とにかく、見えているものは全て嘘であると思えば何も恐れることなどない。
手品だって、どうせ種も仕掛けもあるのだ、と思えば驚きもしないし。
「幻術はわかったのですが、奴をどうやって斃すのですか?
銃で撃たれても、斬りつけられても、平気だったじゃないですか?」
ガロアは、無造作マッシュに指を突っ込み、ガシガシと掻き始める。
「そこなんだよねぇ……」
ここで、ポアンカレがまた肩の上でライフルをリズミカルに弾ませる。
「通常は、天国の使者か地獄の使者に引き渡す。動けないくらい叩きのめして、転がしておけば、連れて行かれるだろうと思ってやったことはあるのだが――」
肩をすくめたアーベルが言葉を継いだ。
「そう。ポアンカレがキェルケの野郎を蜂の巣にして地べたに転がしたのだが、使者が素通りしていく。おかしいだろう?」
デデキントがサーベルで空を指し、続いて地面を突く。
「ブルバキが言っていただろう? 使者に操られた集団って。だから、連れて行かない。
それで――」
エイダが、自分の胸をポンポンと叩く。
「体のどこかにある、この世界で自分の存在を維持している核みたいな部分を破壊するの」
おお、なんか空想科学っぽい話になってきたぞ。
僕は、ちょっとワクワクしてきて身を乗り出す。
「コアって心臓みたいな物ですか?」
「私たちの心臓は動いていないけれど、それみたいな物ね。でも、具体的に何かは、この世界で研究した学者がいないのでわからないの。そもそも私たちは数学者だし」
「となると、どこにあるかもわからない?」
と、その時、エイダの背後から、年配の男性を連想させる物静かな声がした。
「そうだよ。どこにあるかもわからない物を狙って永遠に無駄な攻撃を繰り返す。
無知は力なりを演じる愚かな者どもよ」
エイダたち五人が、一斉に振り返り、身構えた。
死後の世界で相手を斃す。倒すでもいいのですが、ここは斃すがいいかと。
でも、どうやって? それを彼らは漠然としかわかりません。
まあ、はっきりわかっていれば、敵をとっくに殲滅していますが。。




