1.歩きスマホは、やっぱり危険だった
この小説に登場する人物名は、実に偶然ですが、
実在した数学者、もしくは数学関係の名前です。
途中から、哲学者も登場します。
<<あくまで、偶然に同じ名前という設定であって、
その人たちの死後の世界がこうなっているというのではありません。>>
全部、イケメンやマッチョや美女などにしましたので、肖像画とは異なります。
必殺技は、彼らの業績から写像変換するのが難しいので(←なんのことやら……)
ザックリ利用しています。
皆様、どうぞ、応援のほどよろしくお願いいたします。
[第0章で登場する人物]
関孝和……………………………………主人公。高校三年生。夢は小説家。死後の世界では、セッキーと呼ばれている
エヴァリスト・ガロア…………………剣術家。超絶な剣捌き。「僕には時間がない」が口癖
チラ見せですが、次の章で登場するエイダ・ラブレスです。ジョンディー先生からいただいたイラストです。経緯は2018年8月8日の活動報告に書いてあります。
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※画像の権利はツギクル株式会社にあります。転載等はご遠慮ください。
僕はいつでも、今書いている小説が最高傑作だと確信している。
書き始めの最初から「うーん、いまいちかな」なんて思ったら破棄しているし、筆が乗って書いている自分が「この物語が面白くて仕方ない」という作品だけ書き進めているから。
そういう意味では、最高傑作というよりかは自己ベストなのかも知れない。
でも、最高傑作という方がモチベーションが上がるし、書き終えたら本当に最高傑作になっているかも知れないし。
あっ、そうしたら、その次に書くのは二番手以下か。モチベが下がるなぁ。
うん、やっぱり、いつでも最高傑作だと確信して大切に書いていこう。
でも、その自信作をいざ投稿サイトにアップしてみると、一桁のPage View。評価はおろか、レビュー、感想、コメントさえもつかない。
そこで、自他ともに認める文学少女の姉貴に恐る恐る感想を求めると、「読者目線で一文一文コテンパンにこき下ろすけれど、覚悟はいいか?」と睨みつけられるだけで、結局のところ一文字も読んでくれない。
なんだか、僕の作品なぞ、読まなくても評価は下せるとでも言いたげ。その自信はどこから来るのか。姉貴は、予言者かと思えてくる。
もし、Page Viewや評価、レビュー、感想、コメントなどの後ろ盾があれば「姉貴、これでもかい?」なんて言えるのだが、悔しいったらありゃしない。
こないだは、「もう高三の後半なのに、受験勉強そっちのけでそんな趣味にうつつを抜かしていることを(親に)言いつけてやる」と脅された。
この爆弾が投下されると、僕には為す術がない。
それで、とことんへこんだ後は、決まって更新を放置。
ブルーな気分になると、書いていた作品が一気に駄作に見えてくる。
また一つ、この世に駄作を公開したのか、と激しく後悔して打っ伏す。
……これで何度目だ。
いや、それでも、僕は立ち上がる。
いつまでも悲しみに打ちひしがれる自分の背中を蹴り、再びペンを執る。今は、スマホだけど。
小説を書きたい、できれば小説家になりたいという強い願望が、僕を突き動かすのだ。
へこんでいた時間は跳躍に向けたフル充電までの時間だ、と思えば良い。
そして今日も、予備校の帰り道で、スマホへ新作の短編を打ち込む。
携帯操作禁止の授業中に湧き出たアイデアや台詞を、ノートに書くと詮索好きの姉貴にバレるので、いったん頭に焼き付ける。そして、ある程度まで文章を組み立てる。
それから教室を出て、この5.5インチ画面の携帯端末に、湧き出る文章をひたすら打ち込む。
模試が近いけれど、もちろん現役合格を目指しているけれど、この習慣はどうしてもやめられないのだ。
今日は、自分の文章に涙が止まらない。胸が熱くなる。頬を濡らしながら夜空を見上げる。
もし、駄作ならこうはならないはず。
「うん、これは最高傑作だ!」と、ついニンマリ。
あっ、今、横を通って行った女子高生たちに笑われた気もするが、心の声がまた出てしまったのか。まあ、いつものことだから、気にしないが。
気分がノリノリなので、多少のことならへこまないだろうと、旧作の評価を確かめてみる。すると、見慣れた0の羅列に変化が……。思わず、足を止める。
おっ、評価が付いた。
ん? んんん!? 何度見ても……「1」。
4の見間違いかと目をこらすが、真ん中の横棒がない。
つまり、正真正銘の1。
(これって……最低評価だよな?)
かぶりを振る僕は、深いため息を一つついて前傾姿勢になり、重い足取りで歩き始める。
(でも、最高得点が2という人が1をつけたと思えばいい)
そう思うと、急に気が楽になった。前傾姿勢を正して歩幅を広げる。
パチンコ店の騒音。店の呼び込みの声。横断歩道のカッコーと連呼する音。
いつもの音が目印となり、スマホに釘付けの僕へ、駅に近づいていることを教えてくれる。
そうだ。「これを耳印と呼ぶ」と僕の小説の中で書いてみようか?
あっ、でも耳印って、牛馬の耳へ所有者を区別するために入れる切れ目じゃないか。言葉は、先に広まった物の勝ちだな。残念。
と、その時、発車メロディーと騒めきが右斜め前方から聞こえてきた。
「ん? もう駅?」
独り言をつぶやきながら、画面から視線を剥がして顔を上げる。
たくさんの乗客が吐き出されて飲み込まれていく駅の近くで、すっかりできあがった酔客が通行の邪魔をしている。
いつもの帰宅時間の変わらぬ光景。僕は、歩きスマホ状態をキープしながら人の波へ突入した。
ここからは、さすがに打ち込みは無理なので、閲覧のみとなる。
画面の細かい文字を追いながらも、ちゃんと画面の外は見えていて、体は人の波を縫う。この脳の並列処理は優れもので、活用しない手はない。
エスカレータで片側を空けて自分のステップを確保した後、上まで運ばれていくこの時間は、人にぶつかる心配のない至福の時。ここぞとばかり、画面に顔を近づけて記事に集中する。
上り切ったことに気づかず、ちょっと前のめりになってホームに立った。と、その時、「白線の内側――」という言葉が耳に飛び込んできた。
この手の注意喚起は、サービス提供側の保身のためのものじゃないかなと思う。事故が起きた時、「事前にちゃんと言っていたよ」と証拠を残すために一日何百回も呼びかけるものってこと。
言う方が機械的だから、聞く方も耳タコ。なので、後半の言葉が耳に入らない。ほぼ環境音だし。
今はホームのど真ん中。僕は乗客であふれるこの場所から空いているホーム後方へと移動する。
マイクを持って指さし確認をする駅員の脇を屈んで通り過ぎ、ホームの端に沿って小走りに急いだ。
近づいてきた電車のライトが眩しい。パアーンという警笛の空気振動が体の正面にぶつかる。でも、恐怖は感じない。
(足下さえ注意すればいいよな)
僕は、スマホへ視線を向けつつ、ホームの端の一部を視界に入れながら歩く。
と、その時、画面の上方向、つまり、進行方向にスーツの一部が見えた。
ハッと顔を上げると、赤ら顔の禿げ頭のおっさんが蹌踉めいて、僕の右肩に体当たりしてきた。
「――っ!」「うおっ! ゴメンよ!」
運悪く、体が右にねじれながら仰け反る形になった。
バランスを失った僕は、万有引力には勝てず、背中からレールの上へ落下。
途中で鉄の塊に体が跳ね飛ばされた後、視界は電源を抜かれたモニターのごとく真っ暗になった。
◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇
それから、どのくらい経ったのだろう。どうやら、漆黒の闇の中にいるらしい。
そう思えるということは、意識があるということ。
どうやら、自分が存在していることは疑いないようだ。「我感じる、故に我在り」と言ったところか。あっ、もちろん「我思う~」のもじりだけど。
すると、無性に小説の続きが書きたくなってきた。
何を呑気なことを言っている、と笑わないで欲しい。あの時の衝撃で、直前に思いついた主人公の大切な決め台詞を忘れかけたのだから。今すぐ書き留めないと。
(そうだ、スマホはどこへ行ったっけ?)
闇の中を目だけ動かしていると、遠くからパーンという銃声に似た音が聞こえてきた。それが何度も断続的に聞こえてくる。
(何だろう?)
重くなっている目をようやくの思いで開けると、眼前に暗灰色の石畳が見えてきた。どうも、道路の上で、体の右を下にして横たわっているようだ。
と、突然、青年の明るい声が降ってきた。
「おや? お目覚めだね」
目の焦点を手前から奥へ合わせると、黒い革靴らしいのが見える。おそらく、声の主が履いている物だろう。
僕はゆっくりと、革靴から黒ズボン、白いシャツの下半分へと舐めるように視線を動かした。
少し腰をかがめて僕を覗き込んでいるらしいその人物は、右手にサーベルのような剣を持っている。
僕は慌てて、一気に視線をその人物の顔へと向けた。
――何という美しい顔立ち。
蒼髪で無造作なマッシュの髪型。ぱっちりとした緑眼に、キリッとした鼻。白い歯をちょっと覗かせて微笑むのは、僕を安心させるためか。
容姿端麗、好男子、美男子、イケメン。どの表現がぴったり合うか、大いに悩む。
そんな彼の双眸に吸い込まれそうになっていると、遠くでパーンという銃声が聞こえてきた。美しい顔が、にわかに曇る。
「悪いけど、僕には時間がないんだ。
君は、そこの木箱の裏に隠れていたまえ。
また後で来るから」
彼が左手で指さす先に、大きな木箱がいくつか見えた。身を隠すには、ちょうどいい大きさだ。
ついでに僕は周囲を見渡した。
薄暮が迫る街の路地裏という感じ。周囲はレンガ造りで二階建ての建物が建ち並ぶ。
僕は上半身を起こし、走り去ろうとする彼の背中へ声をかけた。
「ここはどこですか?」
彼は立ち止まり、二度見をするような振り返り方をした。
「もしかして、新入りかい?」
「新入り? ……何のことやらさっぱり」
「そう言うなら、新入りだ。ここは、次の世界だよ」
「次の世界?」
僕は「もしかして、異世界?」と言葉を続けようとしたが、彼の言葉に遮られた。
「まだわからないという顔をしているね。なら、言い換えよう。
君は、前世で死に、ここへ来た。
つまり、ここは死後の世界さ」
(死後の世界……)
それを聞いて、僕は涙が出なかった。心も痛まなかった。左胸に手を当ててみたが、鼓動すらなかった。
(そっか……、心臓が動いていない……。本当に死んだんだ……)
この世界の自分を実感する僕に、彼が早口で尋ねる。
「君、名前は?」
「関。関孝和です」
「セキ タカカズ? どこかで聞いたような気がする」
「有名な数学者――関流和算の開祖の名前を、親がわざとつけたらしいのですが」
「フーン。なら、噂の彼じゃないな。
僕は、エヴァリスト・ガロア。よろしく。
じゃ、また会おう」
ガロアは、言い終わらないうちに再び背中を向けて、風のように走り去った。
今まで異世界物や近未来でも魔法を扱う小説が続いているので、異能力をテーマとした小説に取り組みました。しかも、死後の世界も含めて、初めての取り組みです。
実体験も織り込んでのプロローグですが、いかがでしたでしょうか?
あっ、決して線路には落ちていません。(笑)
新生ゲートも通っていません。(爆)
次の第一章から、バトルも絡めて、登場人物や、死後の世界で活動する秘密結社を徐々に紹介していきます。
どうぞ、お楽しみに。