魔法
朝、目を覚ました。身体の調子は良好。相変わらず人の姿のままだがそれ以外は問題はない。聖龍や勇者たちから受けた傷も完全に治った。昨日のナキアの回復魔法のおかげだ。
「あ。おはよう」
「おう。おはよう。ナキア
よく眠れたか?」
「ええ。おかげさまで。安心して寝ることができました」
ナキアの体調も大丈夫そうだ。目の下にクマもないし、顔色も悪くない。昨日しっかり食って寝たから大丈夫だと思うけど人は弱いから心配だ。
「よし。それじゃあ、さっそく人の住んでる街に移動を始めよう。
それから情報収集しながらエルフの里を順々に回っていこうか」
「連れて行ってくれるの!?
正直、里に帰させると思ってたんだけど…。それに私お金もないし、身体も貧相だし…」
手で体を包みながら言う。人がみたら儚げでそそるものなのかもしれないが、俺は人をそういう目でまだ見れない。しかし、この人化が長引けば精神が体に引っ張られると思うから時間の問題かもしれない。その前に元の姿にもどりたいものだ。
なんだってあの黒い龍の姿は最強なのだから。弱きものを守るためには中途半端な力じゃすべて守れない。
「いや、そういうのはいい。俺がほしいのはナキアの回復魔法だ。
俺は訳あって魔力を温存しておきたい。そのために回復、できれば遠距離からの魔法攻撃をしてもらいたいんだ」
「そ、そうですか。やっぱり魅力ないですよね?
でも回復魔法は問題ないですけど攻撃魔法なんて私使えませんよ?
そもそも魔導書がないと覚えられませんし」
何を言ってるんだ?魔法は自由な発想でできるから魔法なのに…。魔導書で覚えるのは魔術であって魔法じゃない。動力源が同じでも使う方法が違うのだ。水の流れる力を利用するものと蒸気の力を利用するといえばわかりやすいだろうか。
いい機会だから教えてやるか。
「魅力はどうでもいいんだけどな。しかし、魔導書は必要ない。俺が教えるのは特殊な魔法だと思ってくれ」
「特殊?あの黒い鎖ですか?」
「まあ似たものだが、あれはお前じゃ多分できないぞ」
「??」
大分困惑してるみたいだ。まあ魔法は歩きながらでいいだろう。とりあえず魔力操作から覚えてもらわないと話にならないからな。短い間とはいえ俺と一緒に行動するんだ。人化の秘術を使ってくる相手と対面したときにエルフの彼女は死んでしまう。
「あれは俺の固有魔法だ。俺が誰かを守るために開発した魔法なんだ。まあ、思ったようなものにはならなかったんだけどな。固有魔法っていうのは自分に一番あった力を魔力を使って実現させるものだ。
勇者なら人以外の敵と戦うときに身体能力が大きく上昇する『人類の力』っていうものがあるな。エルフの固有魔法はなんだったか…。
『森の力』か『神秘の力』だったかな?」
「…そんな魔法があるんですね。全く聞いたことありませんでした。やっぱりクロムさんは人ではないのですか?人族の魔法がエルフの魔法よりも進んでいるとも思いません」
まあ人もエルフも魔法の進歩度合いは一緒くらいだと思うんだけどな。魔力保有度が多いエルフの方が多いから規模の大きい魔法が使えるだけで、人間も束になれば同じことができる。
ナキアには俺の状況を伝えるか…。いやもう少しあとにしよう。今は人間じゃないということだけ分かってくれればいいと思う。
「そうだな。俺は人間じゃない。でもなんで人間の姿をしているのかはまだ知らないほうがいい」
「やっぱりですか。まあ驚きはしません。マンティコアを倒せる人間なんてほとんどいませんし、人じゃない可能性のほうがたかいですし」
「そういうことだ。そろそろ出発しよう。森を抜ける前にもう一回野営しないといけなくなる。食料も有限だからな。あ。それと俺は今は訳あって魔力を使うことができない。あまり戦闘はしたくないし、負傷することもあるだからそのときは頼むぞ」
「…はい!回復は任せてください!」
ナキアは神妙に頷き、これ以上踏み込まないようにしたようだ。緑髪で虐げられてきたナキアは人が踏み込んではいけない場所は分かるのかもしれない。付き合いやすくて助かる。それじゃあ、今日中に森を抜けますか。