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人になった代償

「誰か…助けて…」


 どこだ?一瞬でその子を助けることに思考を返還させる。目の前にあるのは広大に広がる大森林。こんな場所に人間がいるとは考えにくい。ならエルフや獣人といった亜人だと憶測する。なら地上よりも木の上にいる可能性が高いか?


 今も助けを求める声が聞こえる。遠くの方で木が揺れた気がした。


「…そこか?」


 循環魔力を両足に集中する。思いっきり足を曲げ…蹴る。弾丸のように加速される体。回転してさらに遠心力を加え加速する。同時に魔力を体中に循環させ、身体を保護する。足は先の衝撃でボロボロになっていた。骨は砕け、筋肉はズタボロになっている。


「助けてええ『ドゴオオオオオン』…へ?」


 地へ着いた瞬間にあたりを見回す。いたのは凶暴な魔物。マンティコアとよばれる魔物だった。獅子の体にしっぽはサソリのように背中の上に回され、油断なくクロムを威嚇している。

 助けを求めた人は12歳くらいのエルフの女の子だった。長い耳、整った顔立ちから一瞬から分かった。それらを一瞬でみたクロムはマンティコアを殺すべく戦闘態勢に入る。魔力を体中に回す。今は足がイカれているから立つこともできないがこいつ程度なら問題なく殺せるだろう。


「ロストチェーン」


 無数の漆黒の鎖が地面から出て、敵を拘束しようと一直線に向かっていく。突然地面から出てきた鎖をマンティコアはサソリのようなしっぽをしならせて打ち落とそうとする。しかしそれは叶わない。一回、二回と触れるごとにしっぽは力を無くしていく。ほどなくして鎖はマンティコアを完全に拘束する。そしてその場に膝まづいた。


 完全に無力化したマンティコアを見てエルフの少女は唖然としている。突然降ってきた少年に助けられた。しかもあんなに凶暴なマンティコアを一瞬で無力化してしまったことに。これから私はどうなってしまうのだろうか?という不安が見える。


「大丈夫か?エルフの少女」

「私をどうするつもりですか?」


 警戒心をあらわにするエルフ少女。当然だろう。亜人は人間に虐げられてきた種族の筆頭だ。奴隷として囚われたら最後。人間に死ぬまでこき使われる運命だろう。今は人間の姿だから警戒されるのも仕方が無いことだ。


「いや、助けを求める声が聞こえたから飛んできただけだ。

 嫌ならこれ以上君に干渉しない。それに今は足がこのありさまだ。しばらくは動けないから自分の里、親の元に帰っていい」


 自分の足を見せながらそういった。まだ人間の体に慣れてない。洞窟を走っていなかったら今頃激痛にもがき苦しんでいただろう。少し人間の体での戦闘も慣らしておかなけれないけないな。


「…帰れないんですよ。私は里を追い出された身なので。

 それで奴隷にされるくらいなら死んでほうがマシだと思ったけど…やっぱり私には死ぬことも怖くて無理でした」


 明らかに落ち込んでいるエルフ少女。何か深い事情があるみたいだな。

 聞くのはやめよう。俺がもし彼女の立場なら聞いてほしくないこともあるだろう。


「そうか…。なら俺と一緒にくるか?その耳さえ隠せば人間として生きていけるかもしれないぞ?

 それに亜人の国もある。そこまで送って行ってやってもいい」


 俺の今の目的はどうして人の姿になったのか知ることだ。聖龍と勇者に攻撃されたことなど恨んじゃいない。あれは俺が邪龍だから悪いのだから。


「本当ですか?でもその傷じゃ1週間は歩けませんよね?」

「いやあと数時間で動けるようになると思うぞ。少し無理したけどこれなら魔力を治癒に回せば問題ない」

「いや!それ全然大丈夫な怪我じゃないですって!ちょっと待っててください!」


 そういうと少女は木から飛び降りる。トコトコと俺のもとまで走ってきてバックから何かの塗り薬を取り出す。


「これ私が調合した薬なんです。多分折れてますよね?骨折はさすがに無理だけど切り傷とかには抜群に効くんです!」


 そういうと緑色をした塗り薬を傷口に塗り始める。少し冷たい。けどエルフ少女の目は真剣だった。それはかつての自分の戦場に立つ目と同じだったと思う。そこにはあるのは誰かを助けたい気持ち。


「っ」


 少し染みるな。しかし、誰かに治療されるなんて初めてだ。戦争中は一度も俺に対して回復魔法が使われることは無かった。滅多に負傷しないクロムであったが、人間を庇って攻撃を受けることは何度もあった。その度に自分の魔力で修復していた。


「キュア」


 洗練された声が聞こえた。何度も繰り返したのだろう。魔力の循環がとてもきれいだ。意識せずこれまでにさせるにはどれほどの思考錯誤をしたのだろうか?彼女の努力が垣間見えた。この塗り薬にもエルフ少女の魔力が籠っており、キュアの効力をあげているようだ。


 あっという間に擦り傷や外部の傷が治った。大した腕だと思う。


「助かった。もう歩ける」


 少し照れ臭い。誰かに治療されるのは。


「そんなことないですって!さっきも言いましたが骨折してるんですよ?歩けるわけ…へ?」

「な?」


 急速に魔力を回転させ、治療に専念させたお陰で、さっき受けた傷は完全に治癒された。それにキュアが骨折すら治そうと働いていたのでとても楽だった。回復魔法はこんなにすばらしいものだと生まれて初めて知った。それに人の親切な心はとても温かく感じた。


「どうなっているの?私に新しい力が?

 これなら里に帰れる?でも私には…」

「おーい。なにぶつぶつ言ってんだ?回復魔法ありがとうな。助かったわ」

「へ?いえどういたしまして…。って違う。先ほどは失礼しました。私こそ助けていただきありがとうございます!」

「まあそんな固く喋んなくても大丈夫だぞ。さて、これからどうしようか?」

 



いまのところ一日に一回出していこうと思っています

平日は18時、休日、祝日は12時に投稿する予定です。

休みをもらうときにはここに連絡して次投稿する日にちを書き込みます。


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