プロローグ
やめるかもしれませんが、よろしくお願いします…
ある時代に、聖龍と邪龍がいた。
聖龍はその名の通り、聖なる龍。人々を守りそして強くする龍である。もちろん龍としても優秀でその膨大な魔力から発せられる息吹は一息であらゆるものを打ち倒すだろう。
邪龍は…。黒い龍。禍々しいその姿に人々は恐れる。聖龍と対を成す者であるが敵対をしているわけではない。同じ敵を倒そうとしている。邪龍の能力は他から力を奪う能力である。それを使えば聖龍よりも戦闘力は上回る。
同じ敵とは、魔王のことである。魔王はすべてを破壊しつくさんと動き始めた。何を恨んでいるのか、なぜすべてを破壊しようとするのか、それはまるでわからない。ただ魔王は聖龍と邪龍を合わさってでも勝てない相手である。なぜなら魔王の能力に完全防壁があるせいだ。魔王の完全防壁はあらゆる攻撃を無効化する。
完全防壁にも欠点があり、人間の勇者の攻撃だけは通用する。
しかし、人間だけの力では到底魔王にはたどりつけない。
そこで邪龍と聖龍は人間と協定を結ぶことにした。そこに亜人も加わり戦況は一転。魔王側が劣勢に変わっていきました。
聖龍はその力を振るった。人々に活力を与える、ステータスが急上昇させる。
「聖ナル力!人間の底力をみせてやるのだ!
聖ナル息吹」
聖龍の目の前にいた魔物が塵と化す。さらにそこに超強化された人間たちが残りの魔物を倒すべく突撃していく。人間たちの士気も最高潮である。
「聖龍様に続け!」「聖龍さま感謝します!」「我らに聖龍の加護あり!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
一方、邪龍が力を振るえば…
「…消えろ」
漆黒のブレスが一体を灰と化す。人間たちは何もせずそれをみているだけであった。
「なぜわれらが邪龍と一緒にたたかわなければならないのだ」「邪龍は俺らの力を使って戦っているらしいぜ」「ああ。そのせいで仲間が何人も死んだと聞いた」
「………………」
邪龍は何も発さない。邪龍は最前線に立ち人間を魔物から守るように立つ。その行動に迷いなどなく、恨みもなく、ただこの世界を救いたいという思いだけでこの戦場の最前線に立っているようだった。
「なら俺たちは何もしなくていいだろ。俺らの力を使っているんだから」「それで死んでも家族が悲しむからな」「邪龍に弱体化させられて死ぬとか、死んでも死にきれないからな」「俺、聖龍の元で戦いたかったぜ」
そんな邪龍の覚悟は穢れきった人間には一切伝わらない。彼らは亜人と呼ばれる者たちを自分たちよりも劣るものと見下し、虐げてきたものたちだからだ。しかし邪龍からしてみれば人間たちが何をしていようとそれが自分の守るべき対象に変わりなかった。
こうして聖なる龍の信仰とよべるべきものが生まれ、邪なる龍の畏怖とよべるべきものは同じように溜まっていった。
そして…
「ようやく追い詰めたぞ。魔王」
聖龍がいう。彼の頭の上には金色の髪を持った青年、白銀の鎧を身に纏い、その両手には黄金に輝く聖剣を手にしている。白銀の鎧にも黄金の聖剣にも聖龍の膨大な魔力が込められている。これにより勇者は聖龍のセイクリッドフォースの能力を常時受け付けることができるようになっている。
邪龍の能力を付与しようとしたところ「邪龍の力なんぞいらん!そんな汚らわしい魔力を使わずとも聖龍様と共にかつことができるわ!」といわれてしまい、邪龍は何も言わず引き下がった。
「漆黒の鎖」
ロストチェーンは相手の能力を奪うのではなく無くす能力。この鎖に囚われればステータスが大幅に下がってしまう。邪龍がよく好む技であった。
漆黒の鎖が地面から這い出て、魔王を捉えようと高速で追尾する。魔王は魔力を弾丸に変換させそれを打ち落とす。その隙に聖龍が勇者を更に超強化し、勇者のステータスが急上昇する。
肉薄する禍々しい姿をした魔王と煌びやかに輝く勇者。それはまさしくこれから何百年も語り継がれるだろうと思われる瞬間だった。勇者が二匹の龍を従え、魔王を打ち倒す瞬間が…。
魔王と勇者の戦いはより過酷なものを極めていく。二匹の龍も彼のサポートをするべく上空からブレスを光の壁を、あるいはその身を呈して守ることもあった。
「これでトドメだあああああああ!」
勇者が大声を出しながら魔王を一刀両断する。聖剣からは絶え間なく聖龍の魔力があふれ出し、どんなものでも切り裂くことができるだろう。魔王は邪龍の鎖に囚われ身動きが取れない状態でとどめをさされた。こうしてこの世界に平和が訪れたと思った。
「セイクリッドブレス」
突然、聖龍が白銀に輝く息吹を邪龍にむけて放出する。突然の出来事に邪龍は回避することができない。
続けざまに勇者の剣が邪龍の胴体を袈裟懸けにする。しかし勇者が自分に向かって飛び込んでくるのが見えたので切り口は浅い。
「!?何を!」
「危険なんだよ。お前」
聖龍が言った。その目はごみを見るかのような目つきだった。邪龍は今起きていることが理解できない。なぜなら自分はいままで人間たちを救ってきた。一緒に戦ってきた仲間だからだ。
「この魔王を倒したら次の魔王はお前かもしれない。その禍々しい鱗、ブレス、鎖、技、能力。お前のそれは決して善のものではない」
「…それでも俺はお前たちを守ってきた!」
「だまれ!この邪龍!お前のせいで何人の人間が死んだと思っている!
お前に力を与えたから死んだ。限界以上に力を吸って死んだ人もいる!この戦争が終わってからお前に居場所があると思っているのか?」
勇者がいった。その目は魔王を同じもの見る目だった。こいつは悪だと決めつけるような目。勇者はきつく拳を握り、悔しそうに歯を食いしばっている。
しかし、邪龍にはそんなことをした覚えがない。彼はこの戦争中人間から能力を奪ってはいないからだ。あの能力は自分よりも強大な敵と戦うとき、聖龍の能力を一緒に使うのが一番効率がいいのだ。だから人間たちにはそんな能力を使っていないし、仮に使うとしてもその場の指揮官や聖龍、勇者と相談してから使うつもりであった。
「俺はその能力は使ってはいない」
「いや、お前がいなければこの魔王ももう少し早く倒せたはずだ。俺からも力を奪っていたのだろう?」
こいつは何を言っているのだろう…。
「もういい。こいつは自分の能力もちゃんと扱えないやつなんだ。何言っても無駄だ。
こいつは魔王に助力しようとした。だから今からこいつを殺す」
「ちょっと待て!俺はそんなこと…」
「新たな魔王だ!勇者アスタが滅ぼしてやる!」
堪らず逃げ出した。