一話 転生
「──って感じでシリアスに死んだはずだったんですけどねー」
僕はつい先程、強盗に撃たれて死んだ。意識は薄れ、激痛に喘いでいたというのに。今ではその事が夢か幻だったのではないか、というくらい痛みも感じない。
しかし、目の前のどこまでも続く真っ白な景色を見る限りだと……。
真っ先に浮かんできたのが、僕は死んだという可能性。
何せ目の前に広がる光景は神秘的で、ここが天国って言われたら信じてしまいそうなくらい幻想的だった。
そして僕は今、雲の上にいます。
いえいえ、筋〇雲ではないです。
真っ白な弾力のある羊毛の塊のような、とにかく、白い塊の上にいます。見渡しても、その景色が延々と続くだけ。
さて、一体ここはどこでしょう?
僕が現状把握していると、どこからとも無く透き通った女性の美声が僕のいる空間に響き渡った。
──渡雪斗様。この度は、貴方のような善良な御方が亡くなってしまったのが、とても残念です。私共としても、世界は善で溢れていてほしいというのに……。運命はままならないものですね。
突然、僕の名前が呼ばれ困惑する。
「あ、あのぅ。どこにいらっしゃるんですか?」
姿も見えないのに、声が通じているのがとても不思議。念話? というヤツなのだろうか?
──申し訳ございません。貴方にはこちらの姿は見えないのです。ですが、これから私がする説明をよくお聞きください。これから貴方が転生する事についてですので。
ナ、ナンダッテー!? 転生……ですと?
僕は昔から小説やライトノベルが好きで、その中でも異世界モノが大好きだった。その類の小説を読みながら、自身がいる世界とは異なる世界に憧れ、想像するのが好きだった。
ま、まさか! この声の主は、異世界あるあるの女神様!?
「あ、あなたは誰なんですか!? 僕はどんな世界で転生するのでしょうか!?」
若干、鼻息荒く興奮を抑えられずに問いただす。
なんとなく、女神(仮)が引いているのを雰囲気で感じた。
──は、はい。私は女神ミルス。貴方がこれから転生する世界の神々の統括者という地位にいる者です。そして、貴方がこれから転生する世界の名は『ミルフィールド』。数多の魔物が闊歩し、魔術等の様々なファンタジー要素が盛り沢山な世界です。
ミルフィールド? 美味しそうな名前だな。とはいえ、魔法! 魔物! なんて素晴らしくて、楽しそうな世界だ。転生した暁には是非とも魔法とやらも確認しなくては!
──どうやら、口頭だけですでに転生先が気に入ってもらえたようですね。話を続けさせていただきますが、渡雪斗様は生前の善行により、転生した際に何かしらの祝福があるので、とても素晴らしい状態で転生できるということになります。
しかも、女神様からの何かしらの贈り物をして貰えるという言質まで頂いたよ! ヤッタネ!
──では、転生するにあたっての生前の記憶消去を行います。
……ふぇ? 記憶消去?
「あのぉー? 知識チートとかは?」
──ちーと? が何なのかは分かりませんが、貴方の元いた世界でも前世の記憶を持っていた人なんていないでしょう? 時折、例外としているにはいるみたいですが、とにかく転生する際は記憶消去が決まりです。では、記憶消去と転生手続きを始めます。貴方様が良い人生を送れることを祈っております。
「えっ? もうですか!? ちょ、まっ──」
抗議の言葉を最後まで言えずに、僕の目の前は真っ白になった。