1.はじめての夏休み
可愛い甥っ子のために書いた作品です。
そのため、あえて多くをヒラカナにしています。
ゆうたは、自分がきらいです。
だって、よわむしゆうただから。
ゆうたは、自分の名前がきらいです。
だって、ゆうたのゆうはやさしいって意味だから。
やさしいなんて、女の子みたいです。それに、字がむずかしくて、ゆうたは自分の名前が書けません。
ママは言います。
「ゆうたのゆうは、やさしいってことよ。すてきな名前でしょう」
パパは言います。
「ゆうたのゆうは、パパの名前からつけたんだぞ」
ゆうたは知っているのです。パパのゆうは勇気のゆうだってことを。
(ぼくも勇気のゆうだったらよかったのに。)
でも、ゆうたはなにも言いませんでした。
暑い夏がやってきました。小学校ではじめての夏やすみ。
ゆうたとママは、今年もパパのいなかに行きます。でもパパはいつものとおりお仕事があるので、いっしょに行けません。
「週末になったらパパも行くからな」
お留守番のパパは、ちょっとさみしそう。
むりしなくっていいよ、パパ。たった二日で行って帰るのはたいへんなんだもの。
ゆうたは、パパがいなかにきたら肩をいっぱいたたいてあげようと思いました。
パパのいなかは、新幹線と電車とバスに乗っていきます。
パパのいなかは、海と山とのあいだです。
山があって、家があって、砂浜があって、海があります。
いなかのおじいちゃんはパパのパパ、おばあちゃんはパパのママ。
ママのパパもおじいちゃん、ママのママもおばあちゃん。どうしておなじ呼び方なのか、ゆうたにはまだよくわかりません。
だからゆうたは、パパのパパは海のおじいちゃん、パパのママは海のおばあちゃん。ママのパパは町のおじいちゃん、ママのママは町のおばあちゃんと呼んでいます。
パパのいなかで、ゆうたはひとりで遊びます。
ゆうたとおなじくらいの子は、近所にはいないみたいです。
ママは忙しそうにしています。おじいちゃんは海にさかなを採りに行きます。おばあちゃんは畑でやさいを作っています。
そして、ひとりで海にも山にも行ってはいけません。ママが毎日そう言います。
でもママ、しゅくだいはつまらないし、絵本はみんな読んじゃったよ。
ともだちと遊べないし、夏やすみってつまらない。
部屋のなかから見る縁側は、すべすべして涼しそうでした。
縁側から見る庭は、絵本のジャングルみたいでした。
ゆうたはそっとあたりをみまわして、縁側から庭におりました。
庭の池では、おたまじゃくしがだんごになっておよいでいます。
はっぱのうらに、セミのぬけがらがあちこちについています。
りっぱなチョウが、黒と緑色にかがやきながら風にのってとんでいきます。
いなかについてから一度もかつやくしていない麦わら帽子を片手に、ゆうたはチョウを追いかけました。
おおきなチョウはゆっくりとはばたきながら、風にのってゆうたの手の届かないところをとんでいきます。
ひらひらきらきら光りながら、日向と日陰の間を飛んでいきます。
ゆうたもチョウのあとを追って、どんどん、どんどん歩いていきました。
小道に出て、丸木橋を渡って、林をとおって。
どこまでも、どこまでも。
しげみを抜けて。
「わあっ」
ゆうたは立ち止まりました。
でも間に合いません。
「わあっ」
どしんとぶつかって、ゆうたはしりもちをつきました。
だけどいま、だれが「わあ」っていったのでしょう?
ゆうたとぶつかったのは、ゆうたと同じくらいの男の子でした。
男の子は、ゆうたより黒く日焼けして、ゆうたとおなじく白いシャツを着て、ゆうたの持っている帽子よりくすんだ色の麦わら帽子を手にしていました。
男の子も大きなチョウを追いかけていましたが、どうやらふたりともみうしなってしまったようです。
かわりに、ともだちをみつけました。
男の子の名前は、ゆうきといいました。ゆうたのパパとおなじ、勇気のゆうです。
ゆうたはちょっとだけ、うらやましく思いました。
しげみを抜けて、ゆうたはゆうきと遊びにいきます。
ゆうきはいろんな場所に連れていってくれました。木のうろ、山かげ、せせらぎ、野原。
セミをつかまえました。バッタをつかまえました。トンボをおいかけました。
カニをつかまえました。さかなをすくいました。ザリガニを釣りました。
どれもはじめての経験です。もちろん、ママにないしょで遊びに行くのも。
でもだいじょうぶ。だってひとりじゃないのですから。
ゆうきといっしょなのですから。
まいにち外に遊びにいくゆうたは、だんだんゆうきみたいに日焼けしていきました。
ゆうたは思いました。
夏やすみって、たのしいな。
そんな甥っ子ももう小学二年生。
どこかザンネンなところが、流石我が甥であるw




