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天才と紳士な二人

連続投稿中。次は一時間後です。



 紳士なエーゲルは、私に向かいの席に座ってもよいか聞いてきた。

 断る理由はないため、快諾する。


「口を出してすまないね。何やら困りごとがあるように見えたんで、老婆心ながら聞いてみようと思ったんだ」


 ニコニコと笑う彼に、悪意は感じられない。

 親切すぎる宿の男の対処をどうしようかと悩んでいたところだ。彼にどうにかしてもらおう。


「宿がいっぱいだから、ここをお暇しようとしていたところなの。なのに彼が引き留めてきてね。ここには泊まれないのだから、他をあたるわ」

「いえ、エーゲル様。このお嬢様は野宿をしようとお考えなのです。平時でも不謹慎な輩が多いというのに、武闘大会が迫っている今、野宿など自殺行為にしか思えません。なのでこうしてお止めしているところなのです」

「どう言おうと、ここはいっぱいで泊まれないのでしょう? ならここにいても意味ないわ。心配してくれるのはありがたいけれど、空室を探しに行かなければ本当に野宿になるもの」


 もちろん、この後に他の宿を探す気はない。ここを出たら即、野宿できる場所を探すつもりだ。

 同じ轍を踏まないように、野宿する気はないことを伝えたまで。


 男は胡乱な目で見てくる。

 “そんなこと言って、どうせ野宿する気だろう”その目はそう語っていた。チッ、勘のいい奴め。


「はっはっは、どんなことで言い争っているのかと思えば。とても優しい喧嘩だね。どれ、ならば私がひとつ、解決策をやろう」


 エーゲルの言葉に、パリッと服の男が期待のまなざしを向ける。


「実は三つほど部屋を取っていてね。そのうちの一つに、知り合いの子どもを泊めているのだが。彼女はまだ幼い。一人で泊めるなど心配だったのだ。けれど、多感なお年頃でね。私も、傍に付けている男も、一緒は嫌だと言われてしまったのだよ。……お嬢さん、君この国の人ではないだろう? よければ、彼女と一緒に泊まってやってくれないかい? そして、君の国のことを教えてやってほしいんだ。もちろん、宿代はいらないよ。今日一日だけでいい。……ダメだろうか?」

「エーゲル様! 何とお優しい!! さあ、お嬢様。ぜひご一緒させてもらいましょう!」


 下手に出てくるエーゲルと、グイグイくる男。

 2人のダブルパンチは、押しに弱い私には強力な攻撃だった。けれど、ここでうなづいては天才の沽券にかかわる。負け惜しみのようにつぶやいた。


「私が良いと言っても、その子がダメだと言ったら無理じゃない……」

「はっはっは、それもそうだね。では今から彼女に伺いに行ってみよう」

「お部屋までエスコートさせていただきます」


 立ち上がるエーゲルの椅子を男が引いて補助する。

 そのスマートな仕事ぶりはカッコいいのだが。


「さあ、お嬢様。行きましょう」


 私の後ろに立ち、エスコートする気満々の彼に、ため息を禁じえなかった。


 二人の紳士に促されて着いた先は、宿の最上階。

 元の世界の常識ならば、上に行けば行くほど高いのだが。


 ……おそらくここでもその常識は当てはまるのだろう。この階には部屋数が四つしかなかった。

 とても広い宿に、たった四つ。一つの部屋の広さは推してはかるべし。


「ああ、そう緊張しなくてもいい。彼女の部屋は私と、側仕えの部屋との間だ。安全性は保障するよ」


 そして、たった四つしかない最上階の三つを借りているこの紳士は、とてつもない金持ちなのだろう。

 違う意味で緊張してきたんだが。


「エーゲル様、おかえりなさいませ」

「ああ、オルザ。戻った。……この子も彼女と同じ部屋に泊めようと思う。いいね?」

「えっ! いえ、しかし……」


 部屋の一つが開き、オルザと呼ばれた男が出てきた。

 彼はエーゲルの言葉を聞き、眉を顰める。


 私は良し来た、とばかりにうなづいた。


「素性の知れぬ者とお嬢様を一緒にしたくない気持ちはよくわかるわ。……彼のためにも、私は去るわね」


 くるりと向きを変え、来た道を戻ろうとする。しかし、逃がさんとばかりにパリッと服の男が私を押さえた。


「ダメです」


 にこやかなのに押しが強すぎる。思わず舌打ちも出てしまうものだ。そこへ場違いな声が響いた。


「……オルザ、エーゲル? どうしたの?」


 鈴を鳴らしたかのような声とは、まさにこのことを言うのだろう。

 誘われるように振り返る。


 桃色の髪。あどけない表情。ヒラヒラの服。その子はその声に負けないほどに、可愛らしかった。


 ――のだが。


「あら、何そのみすぼらしい子は」


 絶対に、仲良くなれないことが決まった。



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