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天才の絶望



 草木の生い茂る森の中。


 私は今、狂喜乱舞していた。なぜなら、私が天才であることが、本当に証明されたのだから。



「鑑定。あぁ、知らないわ! こんな素材見たこともない‼ あっちも、こっちも! 私の見たことのないものばかり!!」


 私は天才なので、全ての素材の名前、産地、落とす魔物を暗記していた。

 全世界を旅して記し、採取したのだから間違いない。だから、見たことのないこの素材は、この場所は。


「素晴らしいわ! これが異世界ね!!」


 目に映るすべてが未知なるものであふれている。こんな心躍ることは他にはない。

 幸い、今のところステータスに異常は見られない。空気中の物質に、人体に害となるものはないようだ。


「出来るだけ多く持ち帰って、栽培しなくちゃ! これと……あら! あれもいいわね!!」


 周りが安全なのを良いことに、いそいそと素材を採取する。そこでふと、思い至った。


「あら、素材袋がないわ……」


 時間停止と、重量数量無視の万能素材袋。出かける時には必ず身に着けていたはずのそれがない。


「ああ、そうだわ。そうよ、私……」


 アトリエに全て置いてきてしまったのだ。袋も、杖も、エフィーも。

 そして思い出す。命を狙われていたことと……。


「まずいわ。これじゃ帰れないじゃない」


 自分の世界と、アトリエに戻る手段がないことを。


 *****


「最悪の事態になったわね……」


 異界渡りの宝珠は1個。そしてそれは使い切り。手元にはない。


「……せめて扉と鍵があれば」


 どんな場所でも、どれほど離れていても、アトリエに帰れる道具。これがあるからこそ、世界中を旅できたという、私にとって必須アイテム。だけど。


「袋の中なのよね」


 いつも身に着けていた、万能素材袋。あの中にしまってある。


「これ、つんだかもしれないわ」


 そこで初めて、私は恐怖を感じた。


 宝の山に見えていた動植物たちが、一気に畏怖の対象になる。さきほどまで輝いていたそれらは、今は暗く濁って感じた。

 気にしていなかった生き物の気配も、現状を把握してからは怖い。

 ビクリと体が震える。空気さえも吸うのが恐ろしい。


 ――見知らぬ世界。常識も理も神も違う。いままで築き上げてきたコネや知識も通じない。周りを囲むは未知の物質。


 どうすればいいのだろう。


 もちろん、これまでも見知らぬ土地で、絶体絶命の危機に陥ったことはあった。

 だが、少なくとも私には錬金できる環境がそろっていた。こんな、杖も、アトリエも、釜もない状況に身を置いたことなどないのだ。


 どうしよう。どうすればいいのだろうか。

 ぐるぐると思考がまとまらない。


 そして悪いことは重なるもので、今になって急に眠気も襲ってきた。

 最悪だ。こんなところで眠ったら死んでしまうことぐらい、天才の私じゃなくったってわかる。


 死ぬのか。このまま。

 天才であることを証明できる機会だったのに。世に公表することなく、このまま見知らぬ世界で死に絶えるのか。


 ――誰にも知られずに、認知されずに、消えゆくのか。


「……そんなのやだよぉ」


 生きたい。認められるまでは。


「死にたくないよぉ!!」




「――奇遇だネ。ボクも死にたくないヨ」


 振り向けば、男が立っていた。

 人がいたのか。殺気がなかったからか、気づかなかった。


「とりあえず、さっき言っていた“異世界”ってのを説明してもらおうかナ?」


 その男は、私を殺そうとしていたあの刺客だった。





主人公「鑑定。あぁ、知らないわ! こんな素材見たこともない‼ あっちも、こっちも! 私の見たことのないものばかり!!」

刺客「 木|д゜)ジー」

主人公「素晴らしいわ! これが異世界ね!!」

刺客「 木|д゜)イセカイ…」


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