メモリーズオブ光治(6)
そうして、その日は帰った。
次の日、また学校をサボり(というより、行く日のが少ない。)、公園に向かった。珍しく不良はいなかった…が、咲がブランコに乗っていた。
光治はぶっきらぼうにあいさつといえないあいさつをかける。
『お前、学校は?』(光治)
『私、病気なんだ。だから、学校にも行ってない。』(咲)
『そうか。』(光治)
『それよりさ、名乗ったんだから、名前で呼んでくれない。』(咲)
『なんでだよ。彼氏彼女の関係じゃあるまいし。お前はお前だ。』(光治)
『ちぇっ。』(咲)
そして、話してみると咲はなんとも妙な人種だった。肉や魚はくっていると言っているのに、命を殺すな、傷つけるな、というし、喧嘩を売られても買うなというし、世界の事を分かっていない、純心な少女に思えた。矛盾だらけだし、わからないことだらけだが、そんな彼女を光治は好きになった。
『光治君、私はね、優しさは人を変えることができる、と思う。悪い方向じゃなく、いい方向に。』(咲)
『無理だな。』(光治)
『どうして?』(咲)
『自分を変えることができるのは自分だけだ。他人に何を言われようが、されようが、変えるのは自分自身だ。』(光治)
『ん〜、例えば、私が町のゴミを拾う習慣があったとする。』(咲)
『何だ、そりゃ。』(光治)
『いいから、聞いて。』(咲)
『それをみてたら、光治君もゴミを拾う習慣ができた。これはどう思う?』(咲)
『どうもこうも、ただ、お前がゴミを拾うのをみて、つられて”俺”が拾おうと思っただけだろ? 』(光治)
『でも私がゴミを拾わなかったら、光治君はそんなことしなかった、でしょ?』(咲)
『ん…む……まあ。』(光治)
『つまり、そういうこと。どっちも正しいってことだよ。』(咲)
―そういうことなのか?―光治は疑問に思う。
『咲、お前さ、』(光治)
『あっ。』(咲)
光治は照れる。咲も照れる。
『うるさいっ。いいから話を聞けっ。』(光治)
『うん。』(咲)
『優しさを配ってるって言ったよな。』(光治)
『うん、それが?』(咲)
『悲しくならねぇか?ギブアンドテイクならともかく、ギブだけなんてよ。』(光治)
咲は偉そうに言う。
『ふ、ふ、ふ、あまいな、光治君。優しさは見返りを求めちゃいけないのだよ。』(咲)