メモリーズオブ光治(5)
『何の話だ?』(光治)
『私、この前見たもの。君が、この前、不良達がネコをいじめているのを助ける所を。…そのネコは結局、死んじゃったけど、君は立ち尽くして涙をながしていた。そして、地面に埋めて埋葬した。そんなことは普通の人はしない。涙も流さない。君は本来は優しい人だよ。』
―なっ!!あれをみられていたのか!―
光治は生まれて初めて顔を赤くした。
『あっ、あれは…俺ん家のペットだからだよ。』(光治)
『あははっ、そう。』
―やっぱり、みかけどうりの人じゃなかった。―
女の子は先程までの様子は全くなくなっていた。
―何で笑ってんだよ。―
光治は話を反らすように別の、しかし不思議に思っていたことを口に出す。
『なんで俺の名前、知ってんだ?』(光治)
女の子は即答する。
『だって、君は、”赤色の悪魔”の異名で有名じゃん。』
『あっ。』(光治)
当たり前といえば当たり前である。ここいらで光治を知らない奴はいない。ちなみに”赤色の悪魔”は相手を容赦なく倒す光治はかえり血で全身濡れることと、殴っている時の凶暴な顔付きからつけられた異名である。
…光治は参っていた。
先程からの話の後、最初の話にもどしたが、どうも噛み合わない。会った当初のような怒気はすっかりなくなっていた。
『だから、こいつをやらねぇと俺は、…』(光治)
『この人を殴るんだったら、私を…』
会ってから、かれこれ40分が経過していた。
―バツがわりぃ―
光治はめまいでもしたかのように額に手をあてる。
このままじゃ話が通じん、と思って交換条件を突き付ける。
『じゃあ、こいつは殴らない。』(光治)
―わかってくれたんだ。―女の子はこれでもないくらい嬉しそうな顔をする。
『代わりに蹴るっつーのはどーだ?』(光治)
女の子の顔はさっきより哀しみの色になる。
哀しさ半分、笑い半分で、
『そんなの変わんないよっ。』
と言う。
そして30分後、光治が根負けした。
『わかったよ。今日は運がわりぃ。』(光治)
『運がいいの間違いだと思うけど。』
『はいはい。』(光治)
そう言って帰り道を歩く。女の子はついてくる。
―俺を言葉で負かすなんて…な。―
光治は負けはしたが、気分は悪くなかった。むしろ、良かった。
『お前、名は?』(光治)
『咲。(さき)』(咲)
『そうか。』(光治)