9.ボロミアと魔法使い
私は、指輪物語を読んだことありませんが、ネタとして出します。
ビルの階段をバイクが駆ける。
バイクの加速に比例し、お尻ペンペンの100倍の衝撃が尻を責め立てる。
「突き破るぞォォォォ」
「突き破らないでぇぇぇ」
平太の叫び声は虚しく、ビル入り口のガラス扉と共に砕けて消えた。
ガラスの雨が降る中にバイクは着地する。
昴は剛力よりも高く放物線を描き、剛力のバイクの隣にキッチリ止めた。人間技では無い。
平太はグルグルと目を回しながら、周囲を見回す。
壁に沿うように湾曲した階段が螺旋状に二本並ぶ、青色のオシャレな部屋だった。正面にある通路は暗く先が見えない。
「入りました!! 春子さんお願いします!!」
「ハイハイ。ちょっと待ってねぇ」
剛力が、がらんどうの部屋の中で叫ぶと、
奥の通路からジャラジャラと金属がぶつかる音と共に女性の声がした。
姿を現したのは美しい女性だった。
腰まであるブロンドを緩やかにウェーブさせた髪の毛。大きくクリクリした目と、優しい微笑。お姫様が着ていそうな緑と白のドレスに、それを押し上げる豊満なバスト。
なんて綺麗な人なんだろう。
平太は思わず......恐怖に震えた。
何を言っているのかわからないかも知れない。女性の身長は190cm以上はあり、その両手には、平太の身長くらい有りそうなチェーンガン二丁を片手で一つずつで持っており、両肩に物凄い量の弾薬が鈍く煌めいていた。
狂気だとか、正気だとか、そんな価値観全てを吹き飛ばす。圧倒的な混沌がそこにはあった。
「ちょっと待ってねぇ。すぐ片付けるから」
すれ違いざまに聞いた声は天使そのものだが、何をどう片付けるつもりなんだろう。
今日一番の恐怖が平太を襲った。
「おい。平太。奥へ行くぞ」
「え? 行っても良いんですか?」
バイクを降りて、部屋の奥へと進む二人に平太が聞き返すと、二人は振り向きもせずに返した。
「居たって邪魔なだけよ。あの人には誰も敵わないわ」
「そうだぜ。春子さんは凄い人だからな」
二人の言葉の説得力と、後ろから聞こえ出した炸裂音に納得して平太は二人の後を追った。
部屋の奥へと続く通路の先にはエレベーターがあった。剛力と昴は既に乗り込んでおり、平太が入るのを待って扉が閉まり、エレベーターは下に降りていく。
「上に行かないんですか?」
「秘密基地だからな。地下に行くんだよ」
「上にあったら、すぐに壊されちゃうでしょ」
言われてみると確かに。平太は納得した。
「そんな事より、着いたぞ」
チン。小さい音と共に扉が開く。
その先には広い空間があった。
見渡す限りに ディスプレイが並んでおり、それら一個一個の正面に人々が座って、画面と睨めっこしていた。
中央には立体的なポリゴンが映されており、どこか秘密基地チックだ。
「かっこいい」
「ウヘヘヘへ。そうだろ。そうだろ。そんな事を言って貰えるとは感激だなぁ」
平太が小学生並みの感想を呟くと、右隅の椅子に座っていた男が笑いながら立ち上がる。なんだコイツ。平太は侮蔑の目を向けるが一切気にしてないようだ。
男はとても小さかった。身長は平太の肘の高さくらいしかない。
特徴的なのは、大きく厚いビンの底の様なメガネと天然パーマ。更に、長い白衣をズリズリと引きずっているもんだから、白衣の裾は真っ黒だった。
男はツカツカと歩み寄ると平太の手を強引に掴んで上下に振った。
「僕は暮凪真一。職業は博士だよ。よろしくね」
「博士? 何のですか?」
「物理学さ! 興味あるかい!!」
地雷を踏んだか? 暮凪は元気な声を平太に掛けた。そんな平太を見かねたのか、剛力が声を掛ける。
「やめとけって、話が長過ぎて足に根が生えるぜ」
暮凪は剛力をチラリと見ると、舌打ちする。
「居たのかい剛力楽。さっさとどっかへ行きたまえ。
そして......お帰り〜! マイスウィートハニ〜!!」
暮凪はドン引きする程、気持ち悪いテンションの切替えをして昴に向き直る。昴は完全にどこ吹く風で、髪の毛を弄っている。
「気持ち悪い声出してんじゃねぇよ。クソ凪」
剛力は昴と暮凪の間に割って入った。
「うっせー! クソゴリラ!! ウホウホ言ってちゃワカンねぇよ!!」
暮凪は背丈を一生懸命大きく見せようと必死にジャンプする。
「クソ凪だと俺もクソになっちゃうんだけど.......」
エスカレートする男二人の会話を尻目に平太は一人ごちた。
平太がささくれの妙に千切れない奴と格闘して少し時間が経った頃。
「今日はこの位にして置いてやる」
そう切り上げたのは剛力だった。
「仕方がない。やることがあるからな」
暮凪もそれに賛成した。
剛力が大人な終わり方をしたような気もするが、剛力は途中からバーカとしか言って無かった。明らかに語彙が少なすぎる。1分も言い争って無いのに。
暮凪はふわりと白衣をはためかせ、平太達に背を向ける。
「さあ、3人とも来たまえ。所長がお待ちだ」