5.旅の仲間
「勧誘だよ。一緒に来て貰うぜ」
「はあ?」
平太は思わず気の抜けた返事をする。この鳥頭は何を言っているんだろうじゃ?
平太は喉元まで出かかった言葉を飲み込むと聞き返した。
「あの大丈夫ですか? ここに来るより先に病院へ行った方が良いんじゃぁ無いですか?第一僕は罪人らしいですよ。他の人を誘ったらどうですか?」
「初対面の印象が悪いのはわかってたけど、そこまで言われるとは思わなかったぜ」
赤髪の男は、そう言って首をガックリうなだれた。
隣に立つ少女は、その様子を尻目に黒髪を弄りながらどうでも良さそうに続けた。
「確かにこいつはグズでバカでアホでマヌケだけど、助けに来た相手に対してその態度は無いんじゃないの? 冤罪事件の犯人さん? 」
知っている? ということは解放してくれるということだろうか? 元々無実の罪で捕まっているのだ。出して貰えるのは当然だ。
しかし、外にはロボトミー手術を受けたような人々が沢山居る。もしかしたら自分も同じようにされてしまうかも知れない。
「......僕を勧誘して何をするんですか?」
平太はおっかなびっくり問う。
少女はその問いに少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべて言った。
「そうだったわ。忘れてたわね。勧誘とは言ってるけどあなたに依頼をしたいの」
「依頼?」
「ええ。報酬は5日で20万円よ」
「やります!! いや、やらせて下さい!!」
お金は大事だ。金の有無は全てに置いて優先される。こんなチャンスを断ったら、十年は後悔するだろう。元気に返事した平太に対して少女は楽しそうに微笑んだ。
商談成立のようだ。平太も笑みが隠しきれず、格子を強く握った。その時、ふと出れないことを思い出し、少女に対して檻を指差しながら呟いた。
「だけど、鍵が無いと開かないんですけど」
その瞬間、少女の表情は能面のようになり、ゴキブリを見るような目を平太に向ける。何だか心が痛かった。
少女は隣にいる赤髪の男を小突いた。
「オイ。ゴリラ」
「え!? 何で俺が? 鍵を探せば済む話じゃないのか?」
男はうなだれ過ぎて、90度まで下がった顔を上げずに抗議の声を上げた。
少女は顎をしゃくってみせる
「やれ。命令」
「......イエス マム」
男の序列は相当下らしい。
下がり過ぎた鳥頭は地面に刺さっていた。
男はふてくされたように起き上がると、腰に差した棒のような物を取り出した。
平太はそれを見て驚いた。
「な、なんですか? それ」
「見りゃわかるだろ。ショットガンだよ。ちょっと下がってろ」
「跳弾とかあるんじゃ?」
「ハットン弾(米軍が扉の錠を壊すのに使用する特殊弾)を使うから大丈夫だよ。
良いからさっさと下がれ」
男に言われた通り、平太は奥に下がる。とりあえず、頭を抱えていると、
大きな音がして、ショットガンは発射された。
キーンと裂けかけた鼓膜に大きな音が響く。どうやら耳を塞いでいなければいけなかったらしい。
男は続けてタックルし、扉をこじ開けた。
「スゲェ 映画みたいだ」
平太は酷い耳鳴りに悩まされつつ立ち上がった。男は何か言いながら平太に手を差し出してくる。
耳鳴りが酷過ぎて何を言っているのかわからないが。
平太が首をかしげると、男はうなだれた。
格好の割にメンタル弱すぎるだろコイツ。
段々と耳の調子が戻ってくる。
すると、見計らったかのように少女が手を差し出した。
「私の名前は春川昴よ。昴さまと呼んで」
「何でさま付けなんですか?」
凄い性格しているな。平太は感心した。
「何で。俺は無視されるのに......。どうせ俺なんてオランウータンみたいな男ですよ」
「早く挨拶しなさいゴリラ」
その一言にパッと男は平太に向き直った。
「紹介に預かりました。剛力楽です」
「そのまんま、ゴリラじゃないか」
平太が驚きで声を漏らした。剛力楽略してゴリラ。ゴリラと呼ばれる為の名前と言えるだろう。
ゴリラというあだ名は見た目ではなかったようだ。
「そんなことに驚いているようじゃダメね。外へ出るわよ」
「おうよ。車を入り口にまわすぜ」
そう言ってゴリ......剛力さんは外へ走って行った。ノリが軽すぎるから弄られるんじゃないかな。
平太は剛力という可哀想な動物を見送った。