4.終わり始まり
なんだか視線を感じる。
平太はそんな感覚を受けて目を覚ました。
頭まで被った薄い毛布を捲ると、格子の外に影が見えた。
一人二人では無い。数十人いそうだ。
「おいおい、見世物じゃないぞ」
平太は溜め息を吐く。
人殺しの罪を着せられ、見世物にされる。
いい加減に自殺しようか? とも考え頭を抱えた。
「僕になんの恨みがあるっていうんだ」
「恨みは無い。感謝している」
格子の外から誰かが呟いた。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
それに呼応するように一人また一人と同じことを繰り返した。
「また、申し訳ない。君には此処にいてもらう。君の為にもなることだから」
「申し訳ない」
「申し訳ない」
「申し訳ない」
「申し訳ない」
「申し訳ない」
平太は全身に鳥肌が立った。
コイツら一体何なんだ?
明らかに様子がおかしい。
「これからコイツらが君を見守る。だから、安心してくれ」
「安心して」
「安心して」
「安心して」
「安心して」
「安心して」
平太は震えながらベッドに潜り込んだ。
きっと何か悪い夢に違いない。
平太はもう一眠りすることにした。
五日後
平太は牢屋の中で捉えられていた。しかし、とても気分は晴れやかだった。何故なら......。
「なんでやねん」
「アッハッハ」
平太はテレビに映し出されている漫才を見ながら、ポテトチップスの袋を片手に、ソファの上でゴロゴロしていた。
今、平太が居る格子の内側には、80インチのテレビ、ソファ、カーペット、山盛りのお菓子等が置かれていた。
平太は非常に快適な生活を送っていた。
正直、平太自身の家の何倍もの快適さがココにはあった。
一点を除いて......だが。
格子の外。
沢山の人々がジッと平太を見つめていた。
彼らは、格子の前から離れることは無かった。全員眠りもせず、ひたすらに平太を見つめ続けていたのだった。
どこから入って来たのか。なぜいるのか?
全くわからないが、彼らはずっとそこにいた。
監視のつもりなんだろう。
平太が動く度に視線が平太を追いかけていた。
始めの三日は怖くて近寄れ無かった。
しかし、テレビやソファ等を持って来て貰えたので、そのうち別に良いかなとも思い始めていた。
ただ、テレビだけはDVDしか見させて貰えかったが。
「新しいポテトチップス欲しいか?」
男が部屋の外から野太い声を出した。平太を怒鳴った警察官だった。始めは騒いでいたのだが、いつの間にか外に立つ人々の一員になっていた。
「え? あぁ。ください」
「ちょっと待て」
「ちょっと待て」
「ちょっ 」
バチン。そんな音がしてテレビが消える。
「え!? 何!? 停電?」
平太はとっさに起き上がった。
続いてバタバタと外に立つ人々が糸の切れた人形のように倒れていく。
一体何が起こっているんだ。
平太は格子に近づいた。
「オイオイ、此処にもこんなに居るのかよ」
「仕方無いじゃない。世界のピンチって奴よ」
人々を踏み越え、誰かが近づいてきた。
一人は赤い髪を逆立てたヤンキー風の男だった。
30代くらいだろうか? 筋肉を強調するようにピチピチなシャツと黒いズボン。いわゆる、ガチムチという奴だろうか? 目鼻立ちのクッキリとした外人のようなイケメンだった。
もう一人は黒髪を背中まで伸ばした女だった。平太と同じくらいだろう。お嬢様学校の学生服のようなヒラヒラとした白黒の上着とロングスカート。雪のように白く切れ長の目は冷たさを感じた。
日本的な美人だった
二人は平太の格子の前に並んで立つと、平太を品定めするように見た。
「な、なんですか?」
「勧誘だよ。一緒に来て貰うぜ」
そう言って男は不敵に笑った。