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35.戦争

35


 夕暮れが近づく頃、崩れかけた廃墟の上、速水が呼び出した兵士の一人が、昴の前にひざまづいた。


「総員戦闘準備が出来ました。いつでも攻撃出来ます」


 昴が満足したように二度頷くと、男は平伏して一段下へ降りて行った。


 男が降りていった先には、チヌーク3台(前後に2基プロペラを搭載する輸送用ヘリコプター)、アパッチ(攻撃用ヘリコプター)5台、自走多連装ロケット砲(トラック後部にミサイル発射砲を備えた移動砲台)5台が見えた。


 チヌークの横には怯えた表情のプレイヤー達が並び、アパッチと自走多連装ロケット砲の横には、速水が呼び出した部隊数名が帽子の角度一つ曲がる事なく、整列していた。


 平太が彼らから視線を逸らし、遠くの空を見た。遠くで一箇所、赤く燃える場所が見える。カオルはこちらに気付いた様子なく、無造作に暴れまわっていた。まさに災害とも言えるレベルであろう。


 昴はカオルに目もくれず、厳かに立ち上がった。足元で剛力楽と呼ばれていた何かが、敷物として敷かれているが、私は何も知らない。平太は既に考えることを放棄していた。


 昴は勿体ぶったように、首をコキリと二度鳴らすと、美しい声で呟いた。


「総員それでは、『一寸の針作戦』始動。奴に地獄を見せてやれ」


「「「イエス、マム」」」


 その声に反応した男達は、それぞれの乗り物に乗り込んでいく。直ぐに耳をつんざくようなエンジン音がとどろき、ダウンフォースによる強い風が吹き荒れた。


「剛力さん。起きてください。行きますよ」


 平太は敷物にされていた剛力の肩を叩き、揺すって起こす。剛力の目は完全に死んでいた。


「いく。遠いところ。いく。いきたい。ここはいやだ。鬼がいる」


 ああ。あはれなり。平太は剛力の状態に涙を流した。


「良かったですね。剛力さん。あなたがこれから行く先は昴さんから離れたところですよ」


 剛力はその言葉に正気を取り戻したように嬉しそうな顔をする。


「ほんとうかい? 昴さまもう怒ってない? 酷いことされない?」


 平太は剛力の純真無垢な瞳を見て思わず、目を背けた。


「あれ? 何で目を逸らすの? 作戦通りやるんだよね?」


 平太は視線を交えず、言葉で返した。


「剛力さんはこれから多連装ロケット砲に乗って戴きます」


「自走多連装ロケット砲? 何で?ヘリコプターあるじゃん。それを使えば、早く遠くへ行けるでしょ?」


 平太は涙が止まらなかった。


「剛力さんはですね。これからミサイルに縛られてですね......」


「なんでだよぉぉぉぉぉ」


 咆哮をあげる剛力の肩を平太は優しく叩いた。


「あなたが、昴さんをダシに使うからそんなことになるんですよ」


「良かれと思ってぇぇぇ」


 二人の横を覇気を纏った昴が通る。平太は思わず身震いした。


「おいそこでコントしてる奴ら早く持ち場に付け。さも無いと.....すり潰すぞ」


 剛力は電撃が走ったかのように反応すると、多連装ロケットへ頭を突っ込んだ。


 逃げ出さなければ。 平太は昴と目を合わせないよう、忍び足で移動しようとした。


「平太、待ちなさい」


 昴にガッチリと肩を掴まれた。

 平太がガタガタする顎を抑えながら振り向くと、明後日の方向に顎をしゃくってみせた


 昴に指示された先を見ると、速水が呆然と行き交う兵士を眺めていた。放心状態といっても過言ではないだろう。平太は昴に問い返した。


「な、何ですか?」


「......前にも言ったけど、速水のこと頼んだわよ。今回の作戦では、魔法が必要になるかもしれないから、速水も一緒に行くけど。あの子はまだ弱いから。あなたが守ってあげて」


 平太はその言葉に、必要あるか?と考えたが、カクリと頷いた。昴は平太の態度に満足したように微笑んだ。




「チヌーク3号機も出撃するぞ!! FUBAR!!」


「「「FUBAR!!」」」


 速水と平太がチヌークに搭乗すると同時に、涙を流した冒険者達が怒鳴った。フーバーとは何だろうか?


 ゴチャゴチャしているな。それがチヌークに乗った平太の感想だった。機内は薄暗く、10席程の椅子が向かい合わせに並んでいた。頭上にはネットがあり、プレイヤー達はそれぞれ、武器を置いていた。


 平太は速水の横に座ることにした。


 離陸して数分、速水に目を移すと、手元の青いディスプレイを展開し、ゲームをしているように見えた。


 何だろうか? 平太が覗き込もうとすると、速水はこちらに一瞥することなく、ディスプレイを二分割して差し出した。


 平太が受け取ると、そこにはカオルが写っていた。不思議な点としては、ヘリコプターのコックピットから見たような俯瞰視点の映像だったことだろうか? 平太が疑問に思っていると速水が怒鳴った。


「手伝って!! 呼び出した兵士は視点を借りて操縦できるの!! このままじゃ全滅よ。時間を稼ぎつつ誘導して!!」


 画面に映る日が暮れかけた街は、瓦礫の山と炎に包まれていた。


 災厄の塊であるカオルは、コックピットから全身が覗けない程の巨大な四肢で、ハエをはたくようにアパッチを払っていた。気付けば2台だけしか残っておらず、足元には無残なスクラップが落ちていた。


「時間を稼いでって言ったって、ってうわぁ!!」


 カオルは、今まさに平太が操るアパッチを叩き落とそうと、手を振り上げていた。平太は振り下ろされる巨大な手を間一髪で回避すると、ボタンを適当に押した。


 バラバラという音とともにM230ガトリングガンが回転し、カオルの胸部を貫かんとする。しかし、弾丸は黄色の花火を咲かすだけに留まり、カオルにダメージを与える手立てとなっていないようだった。


「わかっただろ。戦士でないなら消え去るがいい」


 操作画面を震わせる程の低い低音を響かせ、カオルは反転した。速水は腰を浮かせて大声をあげる。


「ダメよ。カオルがポイントAと反対側へ移動している。何とかしないと!!」


「何とかって.......。コレ俺の音声って届くんですか?」


 平太の言葉に速水は一瞬ポカンとした表情をした。何言ってんだコイツ。そう言われたような気がした。


「ええ。届くわよ。マイクのマークを押してみて」


 平太はマイクのマークを押すと、大声を出した。


「おい鈍重。勝負の続きをしよう。お前には負けないがな」


 平太の言葉にカオルの動きが止まった。そしてゆっくりと振り向く。平太はカオルの表情を見て後悔した。おぞましいまでの満面の笑みだった。


「そこにいたかぁぁぁぁ」


 カオルは巨大な体を翻し、走り出した。瓦礫を踏み越え、大地を揺らし、全てを砕きながら加速していった。


 平太は反転するとアパッチを最大速度で走らせる。速水は平太の行動に目を丸くしていた。


「煽ってどうするの!?」


「考えが浮かばなかったんですよ!! 助けてください!!」


「仕方ないわねー。全弾発射!!」


 速水の言葉と同時にすれ違うアパッチから、ヘルファイアミサイルが幾筋もの白い尾を引きながらカオルに向かって発射される。


 ソレらはカオルを捉えると同時に、巨大な爆発を起こした。後方を見るミラーが眩く輝き、平太が操るアパッチは爆風に揺られて加速する。


「やったか!?」


 平太が思わず口にする。ミラーを確認すると、爆炎の中に揺らぐ影が見えた。ソレは炎を切り裂きながら、傷一つ付いていない巨大な姿を現わす。


「効かんぞおおおお」


「化け物かよ」


 平太が操縦桿を更に倒すと、アパッチは前傾姿勢となり加速した。室内はガタガタと揺れる。


「くらえええええ」


 カオルは半ば崩れかかっている建物を掴むと、平太に向かって投擲してきた。瓦礫は雨となって空から降り注ぐ。平太は蛇行しながら川を目指して加速しようと試みた。


 ゴン。鈍い音がして後方が爆発した。どうやらローターをやられたらしい。


「ブラックホークダウン。ブラックホークダウン」


 姿勢を制御出来なくなったアパッチはきりもみしながら落ちていく。視界がグルグルと回転し、方向が全く掴めない。平太は必死に川へ向かって飛ぼうと試みた。


 回転すること数分。神はいたようで、アパッチは川の中州まで飛ぶことができた。

 平太が安堵の息を吐いたのも束の間、回転翼が水面に当たり、アパッチはボールのように跳ねた。

 視界が回転し、川の向こう側まで飛んでいくと、ひしゃげた音ともに河川敷に着地したようだった。


「見つけたぞぉぉ」


 映像の向こう、川を挟んだ奥に巨大な男が姿を現す。カオルはアパッチに近づこうと川へ足を踏み入れた


 瞬間、カオルの足は爆発した。

ブラックホークダウン。ブラックホークダウン。

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