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34.茶番

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 それは壮観な光景だった。広い地下空間へ移動した後、速水がラッパを吹くとGI人形のような真緑の兵士が出てきた。『ふしぎなポケット』よろしくラッパを鳴らすと兵士が一人二人増えていく。時々、武器や戦車、ヘリコプター等も出て来た。


 問題なのは。速水が休む事なく『自衛隊のテーマ』を吹き続けていて、その目が死んでいる事だろうか?


「これで2日目。そりゃ疲れないとはいえ、誰とも会話せずに同じ事を繰り返していると、頭おかしくなるわなぁ」


 剛力は速水に向けて、かわいそうな物を見るような目をしながら、同情の念を口にしていた。その言葉に平太は続く。


「それより『自衛隊のテーマ』は不吉ですね。ゴジラだと演奏されたタイミングの攻撃は失敗してるじゃないですか。自分たちも同じようにならないですかね?」


 その言葉を離れたところで聞いていた昴は楽しそうに腹を抱えて笑った。腰を降ろした椅子の反対側に落ちかねないほどに。ひとしきり笑うと平太と剛力は二人の間を遮るように入ってきた。


「そうね。ゴジラの自衛隊は確かに失敗してるかもしれない。だけど、私達は負けないわ。例え勝つ確率が、万に、億に、京に、垓に一つだとしてもね。何故か? 勝つ為の努力を怠らないからよ。例えば、そう協力者を呼んだわ。心底嫌だったけどね」


「協力者?」


 平太が振り向くと冒険者や兵士、ロボットに人狼といった様々な種類のキャラクターが百鬼夜行を作っていた。


「彼らはプレイヤーよ。イベントだと言って協力を頼んだの。ちょっとお願いしたら二つ返事だったわ」


 昴がまたニコニコと綺麗な笑みを浮かべた。この笑みに騙されたのだろう。気品溢れる笑みの奥に真っ黒に染まった蛇が見えた気がした。


「なんか文句ある?」


 表情に出ていたのか、昴の読心術か? 昴はムッとした表情を浮かべた。触らぬ神に祟りなし。平太は話題を変える事にした。


「成功するでしょうか?」


 剛力は笑い、昴は顔をしかめた。


「成功するさ」


「勝つのは当たり前よ。ただ、その前に」


 昴が勿体ぶったように言葉を切り、一呼吸を置いた。どうしたのだろうか?


「剛力、演説しなさい。得意でしょ?」


 今度こそ剛力はしかめ面をした。本当に嫌そうな表情だった。


「なんで俺が。そこは姉御の仕事でしょう?」


「私では纏められないわ。私がそういうの苦手なの知ってるでしょ?」


 面の皮が広辞苑並みに分厚い昴にも苦手な物があるのか。平太はパッとこちらを向いたレーザービームのような視線に囚われないよう遠くを見た。


 動かした視線の先。地下空間の上部には地上の様子がモニターに映されていた。


 映像の中で瓦礫と炎が広がっていた。この2日で『アクアガーデン』は壊滅的な状態となった。カオルが歩くだけで建物は崩れ、口と背中から出てきた熱射光線がレンガ製の建物を燃やしていた。全てを焼き尽くすのに7日は要らず2日で充分だったようだ。


 カオルは外周を何度も廻っているようで中央の噴水と時計塔だけは辛くも無事(?)なようだった。


「しゃーねーな。速水の演奏も終わる。一発やってみっか」


 剛力は赤い髪を櫛で整える。その時ラッパの音が止まり、静寂が訪れた。見ると、整列した兵士たちがキレイに整列していた。準備が終わったのだろう。プレイヤー達もバラバラとしているものの準備は出来ていそうだ。


 静かな空間で剛力は高台に登り、大声をあげた。


「諸君。集まってくれた事にまず感謝をしたい。ありがとう」


 剛力の言葉に怒号が飛んだ。プレイヤー達の集まりからザワザワと騒ぎが広がる。


「うるせー!! 昴さまを出せー」


「お呼びじゃねぇんだよぉぉ」


 剛力の目が点になる。そりゃそうだ。女の子に誘われて、遊びに来たらゴリラがウホウホ言うだけとなったら、誰だって苦情を言う。怨嗟の声が満ちた空間で剛力は真一文字に結んだ口を開いた。


「.....このイベント。一番の功労者には莫大な報酬が与えられるだろう。今回は事象も事象だ貰える報酬は倍ほどもあるだろう。だが、それだけで良いのか? 」


 剛力の言葉に再度、静寂が訪れる。空気も変化に思わず平太も生唾を飲み込んだ。


「君達を誘った女性.....。名前を春川昴という。22歳独身。彼氏は居ない。スリーサイズは上から82 65 80。物覚えが良く創作物からスポーツ、どんな話にも付いていく。気立てが良く美しい。そして何よりこの写真を見ろ!!」


 剛力が出した写真が拡大されて表示される。そこには.....。


「おお、天使だ」


「違う我らが王だ。長きに渡り空いていた、王座に座る者が帰ってきたのだ」


 プレイヤー達は次々と膝から折れ、滂沱の涙を流しながら慟哭していた。ちなみに写っていたのは現実で撮影された昴の写真だった。


 寝ている昴に剛力が悪戯をしている姿だったが、プレイヤー達は昴しか見ていないだろう。全プレイヤーが一様に逝っちゃってる顔をしていた。


「一番の功労者には昴のメールアドレスを渡す。各自の奮闘に期待する。以上だ!!」


「昴!! 昴!! 昴!!」


 剛力は言い終わると同時に高台を降りる。満場の昴コールを背に。あとは、平太の隣で邪悪の化身となった化物を何とかしてくれる事を祈るばかりだった。

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