32.投了
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「......アレって何ですかね? 幻覚の一種にしては存在感が......」
平太は頭をほぼ真上に向けながら剛力に語りかけた。首が痛くて仕方ない。
「あれじゃね?蜃気楼的なアレじゃね。心の余裕が無さすぎて幻想を見てんだよ。きっと。とりあえず一週間くらい休みを取って旅行に行こうぜ。草津温泉あたりが。あばばば」
剛力が壊れたのを見てか昴は笑い出した。
「バカじゃないの? ああいうのは近くに敵の幹部が居て巨大化するのよ。早く私たちも巨大ロボットに乗り込みましょう?」
「いや、凄く言いづらいんですけど、昴さんの方が100倍くらいヤバイです」
虚ろな目で乾いた笑いをあげている昴を見ると発狂しているようにしか見えなかった。
「どうした。来ないのか?」
地響きのような声がすると平太達に大きな影が掛かった。
「こちらから行くぞ」
見上げると巨大なヒトデが降ってきた。どう見ても大型バスを3、4台握りつぶせそうなソレは圧倒的な重量を持って振り下ろされた。
「ねぇ。とりあえず、逃げない?」
大きな声がして後ろを向くと、速水が離れたところから手でメガホンを作っていた。事が起こった瞬間に駆け出していたようで、大分埠頭から少し離れた高台に居た。
平太と剛力と昴は、ソレを見て少しだけ笑った。「なんだ早いなあぁ」剛力の言葉に更に笑うと、誰からとも構わず駆け出した。
「なんですかあれぇぇ!?」
平太は走りながら聞くと、顔に一切余裕のない剛力が怒鳴り散らした。
「そんなこと知るかよ!! とりあえず走るんだよぉぉ」
上空から伸びた影の範囲から離れた瞬間、爆発のような衝撃が平太を突き飛ばした。一転二転と前転を繰り返し、何かにぶつり、止まることができた。
続いて砂礫と海水があたり一面に降り注いだ。
ついでに起こった砂煙で周りは見えない。爆薬をいくつ用意すれば今のような衝撃が起こせるのか疑問に思うほどだった。
そのうち晴れた砂煙を見て平太は目を疑った。カオルが手を落とした範囲、埠頭の殆どがゴッソリ削り取られていた。
「あばばばばあ」
平太が悲鳴をあげる前に近くで転がっていた剛力が同じように悲鳴をあげていた。チンピラみたいな見た目の割に悲鳴かわいいな。おい。
「待って。カオルはあのサイズよ。上には登って来れないわ」
平太の隣には、スカートがめくり上がった状態で、上半身が瓦礫に飲まれていた昴が声を上げていた。
平太は目を疑った。そんなキャラでは無かった筈だが。それはさておき、何とは言えないが良いものを見た。くまさんだった。平太は鼻を拭った。
昴の言うことはもっともだった。あんなサイズがこのエリアに登って来れるはずがない。というか登って来られたら終わりだ。
「逃げるな。追いかけるぞ」
ヨッコイショ。おじさんのような呟きが聞こえると同時に、埠頭を踏み潰しながらカオルは上がって来た。
「「あばばばばばば」」
今度こそ剛力さんとハモってしまった。
平太は反転し、走り出した。剛力もまた昴を引っこ抜き、走り出す。昴は引き抜かれた瞬間、マンドラゴラが如く目にも止まらぬ速さで往復ビンタを放った。平太は指摘しなくて正解だったと思った。
「どうしますか?アレ。どうにもならないんじゃないんですか、アレ」
ビンタで顔を真っ赤に膨らませた剛力は平太の隣に並んだ。
「とりあえず、逃げるぞ!! 作戦の立て直しだ!! 」
「逃げるってどこへですか?」
「どっかだよどっか!! とりあえず、そこのマンホールへ逃げこめぇぇぇ」
剛力はマンホールを投げ飛ばすと、マンホールへ飛び込んだ。速水も昴も同様に一緒に落ちていく。平太は一番最後に滑り込むように飛び込んだ。




