29.転換
明日連続投稿します
平太は何が起こったのか理解出来なかった。
気付いたら目の前に剛力が居て、カオルの攻撃を全て受け止めたくれていた。
剛力は足が崩れると同時にこちらを向いてニッコリと笑いかけてくれた。
言葉にすれば簡単だった。それは剛力が立てた作戦の失敗を意味していた。 いや、そんな事ではない。
剛力はずっと平太の隣に居てくれた。助けてくれた時も過去に来た時も。
平太は胸が締まるような思いがした。そして気付いた。彼の思いに応えられ無かったのだと。
平太は涙を流していた。手の痛みはピークを越えたのか、別の要因なのか痛みが薄れてしまっていた。
カオルは剣を背中にしまった。
「コレで一人目だ。この後全員殺す。だが、我は弱った者を虐げ続けるつもりは無い。早く我に向かって来い。『死海』の二つ名の真の意味を見せてやる」
幸い、剛力をすぐに殺すつもりは無いらしい。平太は回復薬を取り出した。しゃがみ込み、飲み口が下になるよう逆手に持ち、地面に蓋部を擦り付けた。
回復薬の瓶は、飲み口から砕け、中身が垂れ流し状態となった。平太は垂れたそれらを手に振りかける。淡い光が輝き、切れた手が回復してきた。
平太は回復した指をそのまま口に突っ込んだ。爪を齧りながら現状を考える。
泣いている暇はない。剛力が稼いでくれた時間で、幾分か落ち着いた思考が出来るようになっていた。
平太の現状持っている武器は投擲物だけだ。種類としてスタングレネード、発煙筒、手榴弾、フラッシュバンがあった。棒はカッコつけで投げ捨ててしまっているから使用出来ない。
フラッシュバンは一瞬だけだが、時間を稼げていた。剛力も言っていたが、顔が弱点なのは間違いないだろう。カオルは弓や魔法攻撃が顔以外に当たる時は避けずにいたが、顔に当たりそうな攻撃は鎧で弾くよう動いていた。
フラッシュバンは光と音だけの虚仮おどし兵器だ。しかし、カオルは顔には防具を付けていない分フラッシュバンのみが通用すると言えるだろう。
逆に鎧の中に手榴弾等が入れられれば......。それには近づかなければ......。
平太に最高の考えが浮かんだ時、昴の声が聞こえた。
「......平太撤退するわよ。剛力は回収出来ないわ......」
昴の声に抑揚は無かった。絶望しているのだろうか? 平太は口元を歪めた。
「俺がやります」
昴は怒りに顔を歪めた。
「あなたが失敗したから引くと言っているの!! 早く引きなさい!!」
「その命令は聞けません。剛力さんは俺が取り返します!!」
平太は発煙筒をカオルの足元に投げつけた。
煙が周囲に立ち込め、視界が狭まって行く。平太煙の中に隠れながらヘルメットを被りなおした。口元を布で抑えても、ツンとした匂いを感じた
そして素早くカオルの足元へ移動し、剛力を引きずって離れた。
「おう、平太逃げろって言われたら逃げろよ。大人しく聞いてたけどよ。逆らうと怖いぜ」
剛力は相も変わらず軽口を叩いた。その距離感に平太は安心した。
平太は回復薬を手渡し、剛力の靴紐を解きながら笑いかけた。
「作戦、台無しにしてすみません。だけど、必ず埋め合わせするので見てて下さい」
「おいやめろ。一人でどうにかなるやつじゃねぇぞ」
剛力は立ち上がろうとするが、平太が両足の靴紐を絡ませたため、立ち上がれずにいた。
スモークの中、カオルの前に立つ。準備は出来た。最悪の可能性もあるだろう。だが、コレしか確実な方法が無いのだから仕方がない。
「チョロチョロと小賢しいな。正々堂々戦わないのか?」
カオルは小馬鹿にしたように笑った。平太は笑みを深めた。
「小賢しい真似だと? だったら......」
平太は片膝をついた。ヘルメットをシッカリと被り、両手を上に差し出した。
「バッチコイヤァァ!!コラァァ」
平太はそう言って真剣白刃取りの姿勢を取った。




