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26.開幕


 平太達は『ドン・セイポ・カオル』に見つからないよう、充分に距離をとって尾行した。10m以上も離れているにも関わらず見失う事は考えられなかった。


 カオルは大きかった。背丈が3m程あり、平太が顔を見ようとすると首が痛くなるほどだった。何より異様なのは背中に挿した剣だろう。体長よりも更に長く、その体より厚い。剣というにはあまりに無骨だったと言わなければならない気がする程だった。


「何処へ行くのかしら?」


 昴がボソリと呟いた。剛力もその言葉に髪をクシャクシャとする。


「人気のないところへ向かっているのは確かだな」


 どでかい鎧は海へ向かっているようで、道を歩くプレイヤーの数はどんどん減っていった。


「いつまで後を付いてくるつもりだ?」


 野太く、重く響く声が聞こえた。平太達は息を殺す。


「答えはしないか。まあいい。付いて来い」


 そう言ってカオルは振り返りもせず、足を早めた。


「あははー。不意打ち失敗だね。どうする?」


 速水はそう言って呆気からんに笑う。平太達はお互い顔を見合わせるとカオルを追いかけた。


 路地の先、広い場所に出た。埠頭のようなそこは縦に長くゆうに10km程ありそうだった。その先に大きな船と小さめの灯台がカオルの陰に隠れていた。


「やはり、我に要件があるようだな?」


 そう言ってカオルは振り返った。その姿は、鬼のような形相以外、写真に写っていた姿そのものだった。


「そうっすねー。実はここだけの話なんですけど」


 そう言って、剛力は手をこねつつ、ヘコヘコと近付いた。へりくだった商人のような背中は中々似合っている。そんなことを平太が考えていると風が吹いた。


 遅れて金属をこするような音が響き、剛力が尻餅をついた。


「楽!!!」


 昴が金切り声をあげた。切られたか?

平太も目を剥いた。一拍置いてから萎びたような声がした。


「ひょー。あぶねー」


「それ以上、近付いたら命は無いと思え」


 カオルはそう言って、いつの間にか抜いた剣をチラつかせた。見ると剛力の足先に底が見えないほど深い溝が出来ていた。

 平太は顔に出さないよう震えた。


 強い。確信したのは平太だけでは無いはずだ。ここは撤退すべきだろう。

平太は剛力の肩を掴んだ。


 しかし、剛力は平太の手を跳ね除け、立ち上がった。その目にはギラリと光る獣のような光があった。


「.......京月博士の件についての情報と言ったらどうだ?」


「ほう? 何を言い出すかと思えば......」


 カオルはその言葉に顔を崩す。

 ショーでも見ているかのような余裕があった。


「京月博士を殺して捕まった高校生が冤罪だということを俺達は知っているぜ。更に言えば、『over the world』のマスターキーアカウント用パスワードも知っている」


 静かな泉へ投石したかのようにカオルの顔が崩れた。驚き。思案。そして笑み。


「なに? ......いや、ならば僥倖とだけ言っておこうか」


「へ?」


 剛力がカオルの言葉に顔を破顔させた。それを無視してカオルは続ける。


「我が名は『ドン・セイポ・カオル』またの名を『死海』。我はあらゆる存在を許さず、全て流して消す海の権化なり。紅にて貴様らを染め上げ、その名通りの死海をつくらん」


 平太はそれを聞いて剛力の肩を強く叩いた。


「剛力さん。なんか相手のほうヤル気満々なんですけど。殺意100倍殺る気満々マンなんですけど」


「だったらこっちはヤル気マンマンマンマンマン・・・」


 剛力がアホみたいに繰り返すと、昴が背中にパンチを加えた。


「〇〇○、○〇〇、ウルセェ。とりあえず、ゴリラ死ね」


 殴られた剛力は悶絶し、平太は黙っていられなかった。


「スゲェ。ピー音が入った!?

 ネットゲームの発言制約に引っかかってる。というか、昴さん発言がセクハラ親父並みですよ!?」


「ままごとをする余裕。さぞ高名なプレイヤーと見た。しかし我は倒せん。纏めて死ね!!」


 カオルはそう言って剣を振り上げた。


 瞬間、剛力は風のように飛び出した。その後ろを5本の矢が追いかける。


 矢は剛力を追い越し、4本がカオルの足や胴体に当たる。やった。平太がそう思ったのも束の間、矢は硬質な音を立てて弾かれた。


「ちぃ!! 硬いわね」


 昴は思わず悪態を吐く。


「これならどう? 火球砲!!」


 速水の声がして、熱いものが平太を掠めて飛んで行った。着弾と同時に火柱が上がり、紅い焔の玉がカオルを包み込んだ。


「小細工が効くと思うなよ!! 小娘どもがぁぁぁ!!!」


 カオルの咆哮とともに、大きな腕が焔の壁を掻き消した。


「なんてタフさだ。コイツ!?」


 いつの間に背後へ回ったのか、剛力がヘラヘラしながらカオルの背後を取っていた。


「背後が死角だと思うてか!? 」


 そういうと、カオルは跳躍した。空中で体を捻りながら大剣を下から掬いあげるように切り上げた。


「嘘だろ!? 」


 剛力は咄嗟に回避しようとするが、3m級の剣のリーチから回避出来無かった。掬いあげた剣は地面を砕く。舞い散る礫と砂の間を剛力が腹から胸にかけて血を吹きながら舞った。


「楽!?」


 昴が2度目の悲鳴を上げた。遠目に見ても明らかに重症だろう。昴が剛力へ駆け寄った。

 

 平太も思わず走り出した。



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