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23.茫然


 なんでこうなってしまったのだろうか? 平太は働かない頭で考えた。日は既にとっぷりと沈み、聖堂からの橙の光が辺りを薄く照らしていた。


 速水は主人を失った青い装備を泣きながら抱きしめている。平太は特に感傷を感じる事もなく、暮凪の話を思い出していた。


『「ただし、過去の自分に合うことだけは禁止な。タイムパラドックスあるらしいから」


 暮凪の言葉に一人だけ表情を崩さない昴が問う。


 「もし、会ったとしたらどうなるのかしら?」


 「消えるんだろうな。多分」』


 事実、園崎は消えてしまった。完全に目の前から消えてしまった。タイムパラドックスという知らない得体の知れないものに殺されてしまったのだ。


「これからどうするつもり?」


 壁に寄りかかった昴は誰に言うでも無く呟いた。剛力は萎びた前髪を力無く振る。


「どうするって敵を倒すだけさ。それしか無い。それに当たってリーダーが居ないという特異な状況になったというだけだ。そうだろう?」


「居なくなっただけ!? 居なくなっただけですって!? 彼が居なきゃ終わりよ!!」


 速水は剛力の言葉を聞いて、白くて長い髪を振り乱し、大声をあげた。見開いたその目は焦点が定まっておらず、下唇を強く噛みしめていた。


「落ち着けよ。そういう意味じゃ無い。そういう意味じゃ無いんだ......」




 誰も何も言わなかった。空虚で無駄な時間は続き、頭上には月が差し掛かっていた。

 淡い光に浮かんだ昴の青白い顏が「そうだ」と動いた。


 剛力は疲れを隠しきれない表情で問い返す。


「何の話だ?」


「園崎は自分自身と鉢合わせて消えた。ということは......よ。私達はあと二回過去へ戻れる。その二回で彼同士の接触を妨害すれば良いんじゃない?」


「ああ。そういうことか!! 出会わないようにさえすれば、園崎は消えずに済む」


 剛力の相槌は聞いただけで頭が爆発しそうな理論だが、誰も何も言わないならそれが正解なんだろうか?

 いや、そんな訳は無い。何故なら。


「それこそタイムパラドックスどうこうの話になりませんか? 」


 平太がボソリと言った言葉に、剛力がギロリと睨む。声に出さず口だけで「だまれ」と言った。平太は両手で口を押さえて、つぐんだ。


 それを聞いていたのか速水は小さな弱々しい声で呟いた。


「良いのよ。わかってるわ。3週目に助けに行きましょう。それが駄目なら4週目。今はこんなことしている場合じゃないって言いたいんでしょ」


 速水の独白に昴は口の端を釣り上げた。


「わかってるじゃない。今日はもう休みましょう」


 一瞬、速水の目に怒りの色が浮かんだが、すぐに諦めたように「そうね」と一言呟いた。




 宿泊予定のホテルまで昴が先導して進んで行く。全員が俯いたまま、誰ひとり口を開く事は無かった。細道を抜け、広い路地を横切り、目的地のホテルに辿り着いた頃には深夜2時になっていた。


 平太はひたすらに疲れていた。フロント係に鍵を貰うと、剛力達に挨拶もせず、自分に割り当てられた部屋に入った。

 ベッドしか無い小さな部屋だったが、平太にはとても素敵に見えた。平太はベッドに飛び込むと、ドロドロとした眠気に包まれて眠った。




 平太は朝日の眩しさで目を覚ました。どのくらい眠っていたのだろうか? 窓からは目が痛くなるほどの眩しい光が周囲を照らしていた。


 平太が顔を洗ってから受付に降りと、既に剛力と昴が待っていた。どうやら居ないのは速水だけのようだ。


「......おはようございます」


 平太の言葉に昴と剛力は顔を上げた。昴は声を出さずにカクリと頷き、剛力は疲れを滲ませた声を出した。


「おう。おはよう。よく来たな。もう少し寝てるかと思ったぜ」


「ええ。もう少し寝てたかったですよ。速水さんはまだですか?」


 平太は勤めて軽口を叩く。その言葉に昴は鼻で笑った。


「誰だって来たく無いわよ。速水はまだ寝てるわ。そろそろ起こしに行くべきかしら?」


「あはは。それには、およばないわよ。私はここにいるわ」



 そう言って宿泊部屋に繋がる階段から速水は降りて来た。見た感じでは顔色は良さそうだ。中身はどうかわからないが。


「よう。おはよう。それじゃあ早速戦いに行くか」


 そう言って、剛力は尻をはたきながら立ち上がり、ニコリと笑った。


 昴が料金を支払って宿を出ると、太陽が殆ど真正面にあった。疲目に太陽の光が突き刺さる。平太が目頭を抑えるていると、昴が肩を叩いて「速水は限界よ。出来るだけフォローしてあげて」と耳打ちしてきた。


 平太が返そうすると、昴は早足で先に進んで行ってしまった。なんなんだよ。平太は俯いた。


 歩いていく内に、縁日の屋台が並んだ通りが見えて来た。舗装されて居ない道に、元気な売り子達。そこは平太が白髪の少女に焼かれた場所だった。


 思い返すと痛みが蘇る。肌と喉が焼け、息を吸うことすらもままならない生き地獄。また、あの女に会ったら今度はローストビーフどころじゃ済まないだろう。


 平太は少女に襲われる事を心配して周囲に気を配りながら通りを歩くが、10分もしない内に通りの終端に到着した。


 そこには青いマンホール程の穴があった。表面は水面の様にさざなみを浮かべている。

吸い込まれそうに成る程の美しさだ。平太は思わず訪ねた。



「コレはなんですか?」


「コレは『テレポーター』だ。『Over the world』には街が5つあって、それぞれ移動する為に使うんだ」


 剛力はそう言って笑った。その影に隠れていた昴はイタズラな表情を浮かべて補足した。


「私たちが今いるのは中央の街『セントラルシティ』、この『テレポーター』を使えば他の4箇所、水の街『アクアガーデン』、空の街『スカイキャッスル』、大地の街『グランドテンプル』、炎の街『ブレイズセメタリー』に行けるのよ」


「今から行くのは何処ですか?」


 平太の言葉に剛力は顔をしかめ、思案した表情を浮かべてから、ハッとしたように声を出した。


「『アクアガーデン』から行こう。えーと『ドン・セイポ.......カオル』を攻略するんだ」


「どれからでも良いんじゃない」と昴。


 平太はチラリと速水に目を向けた。速水は全く別の方向を見ていた。多分聞いていないのだろう。


 平太は少し考えたが、速水に何を言って良いものかわからず、剛力の言葉に「行きましょう」と賛成した。剛力は「おう」と言って微笑んだ。


 平太はその言葉に安心すると同時に浮かんだ一つの疑問を剛力に伝えた。


「で......。『テレポーター』ってどうやって使うんですか?」


「ああ。これはなーー」


「あー。メンドくさいわ!! 平太!! 私に掴まりなさい!!」


 昴は平太にそう言うと、ポカンとした表情の剛力と速水の手を掴んだ。平太が慌てて昴の腕を掴むと、昴は同時に穴へ飛び込んだ。


 水の中へ飛び込むような感覚と共に円の内側へ落ちる。深い深い水槽に何処までも吸い込まれていく。

 そのうち、群青色を越えて、眩い光に体が溶けて行った。


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