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22.消失

22


 飯を食べ終わった一行は武具店に向かった。


 日本家屋的な木製の建物の中は剣や槍がこれでもかと言う程並んでいた。更には、ハンドガン、ガトリングガン、アサルトライフル、RPG、ドローンなどがあった。なんで背景が中世なのに現代戦争を起こせるetcが揃っているのだろうか? 平太は頭が破裂しそうだった。


「おい! 平太『たけざお』があるぞ! これ以外何を選ぶって言うんだ!!」


 剛力が猿山にいる盛った猿のように騒ぎ出していた。絶対に要らねぇよ。平太は心の中で悪態を吐く。ちなみに平太が持っていたのは『ひのきのぼう』だった訳だが、『たけざお』も攻撃力は変わらなかった。


「へい。お客さん何をお探しで?」


 そう言って店奥からエプロンを着けた二足歩行の......。


「オ、オオカミだ!!」


「シベリアンハスキーです」


 平太が驚きの声をあげると、オオカミ改めシベリアンハスキーが歯を剥き出しにして舌を出してみせた。よく見ると確かにハスキーだった。ふわふわの白と黒の毛に、特徴的な蒼い眼。とんがった耳。剥き出された歯には凄い迫力があった。


「笑ってるんですか?」


 平太の言葉にハスキーは俯いた。上目使いに小声で「やっぱり怖いですかね?」と言った。何処か寂しげな表情を見せるハスキーは可愛いくてモシャモシャしてやりたかった。


「さっさと投擲系武器を選びなよ。僕らは勝手に見てるから」


 園崎が青い目に睨みを利かせ、語気を強めに割って入った。平太は内心イラっとしたが小さく「ハイ」と答えると、ハスキーに投擲系武器の場所を聞いた。


 ハスキーは「コチラです」と言って店の奥を指差す。ハスキーに続いて物が溢れかえる店内を進む。背中を丸めて、時折後ろを上目使いに振り返る姿は、散歩している時の犬そのものだった。


「コチラが投擲系になります」


 そう言って指された先には、映画で見たようなパイナップル型の爆弾や、細長い筒のような物まで多数あった。


「沢山有りますね。何かオススメは有りませんか?」


「そうですねぇ。何と戦うかによるんですけど......。大型の怪獣相手にはやっぱりコレですね」


 指差されたのは平太の胸まで高さのある大きなタルだった。


「コレはですね。大タルばくd......」


「ちょっとちょっと、こんな大きな物は要らないです。余り周りに危害を加えなくて、対人間用の奴を下さい」


「うーん。対人間用ですか? コレはコレで楽しいんですけど......。まあいいや。こんなのとかどうですか?」


 そう言ってハスキーは手の平に収まる丸くてゴツゴツした物を平太に手渡した。


「コレは何ですか?」


「コレは『フラグメントグレネード』外装がゴツゴツしてるでしょう? コレがバラバラになって破片を飛ばす武器です。結構威力も強いですよ」


 周囲に破片を飛ばすのか......。他の人に迷惑を掛けるのはちょっとなぁ。平太はそう考えると両手を合わせて申し訳ない姿勢をとった。


「他の人と一緒に戦うので、敵だけにダメージを与えて、仲間には危害を加えない物とか有りませんか?」


「物理ダメージは無しで、光と音だけの奴なら有りますけど......」


「それ見せてください」


「ハイハイこちらになります」


 そう言われて渡されたのは手のひらに収まる程の長細い筒だった。


「コレは『スタングレネード』というものです。別名『フラッシュバン』とも言って、爆発すると強い閃光と大きな音を出します。アメリカの特殊部隊が屋内にいる敵を鎮圧する為に用いる事が多いですね」


「へぇ。イイですね。これ10個とさっきの『フラグメントグレネード』を3つ下さい。お代はさっき棒を見ていた赤いヤンキーから貰って下さい」


「はぁい。毎度あり。じゃあお金を貰って来ますから、その間良かったらそのワゴンの中の奴を持って行って下さい。オマケって奴です」


 そう言ってハスキーは隅を指差した。ワゴンセールでよく見る鉄製の籠があった。中身は雑多な物で溢れており、よく見るとパンツみたいな物も入っている。


「......オマケ?」


「ええ。中古品だったり曰く付きだったりして売れないんですよ。欲しければ幾らでも持って帰って下さい」


「パンツだったら中古品でも曰く付きでも要らないですけど、他の奴をとりあえず見てみますね」


「ん。ああ。そのパンツですか......。性能は凄いんですけどねぇ。装備すると『どんな攻撃も一回だけ無力化出来る』んですよ。パンツで隠せている範囲だけですけど」


「......金的は防げそうですね」


「......ええ。比較的ダメージが大きくなりますからね。中古品ですけど、良かったらどうぞ。履きはしたけど、一回も攻撃されなかったそうなのでまだ使える.....筈ですよ」


「使える訳無いじゃ.....」


 そこまで言いかけて平太は気付いた。『攻撃の無力化』ということは......なんかに使えるかな? 平太が顎を摩りながら考え事をしていると、ハスキーが笑った。


「ははは。好きなだけ悩んで欲しい奴は持ってってよ。色々有るからさ」


「ありがとうございます」


 身を翻し、尻尾をフリフリとしながら、剛力の元へ行くハスキー。平太はそれを尻目に、腕まくりをしてからワゴンに手を突っ込むことにした。




 様々な武器を買い終えて店の外へ出る頃、既に日は沈みかけていた。武器屋の前の通りには、縁日で見る淡い赤色のちょうちんが何千も灯り、通りに溢れ返った人々のせいで、立っているだけでも揉みくちゃにされてしまっていた。


「おうい平太。ここだ。ここだ。コッチへ来い」


 人一倍大きな声に道を歩く人の足が止まる。平太が必死に背伸びすると、店の反対側から大きく手を振る剛力の姿が見えた。平太はため息を吐くと、人の海に飛び込み、掻き分けて剛力の元へ向かった。


 道の反対側に着くと全員既に揃っていた。待ちくたびれていたようで、昴と速水が焼き串を食べていた。


「よお。遅かったじゃねぇか。 何にそんな時間が掛かっていたんだ?」


 剛力が後頭部を掻きながら、ダルそうに声をかけた。平太は帰って来ることが遅くなった事が申し訳無くて、ボソボソと理由を説明しようとした。


「実は色々欲しいものがあって......」


「おいおい頼むぜぇ。今さっきの買い物で、オレはスッカラカンになっちまったんだからな。次なんか欲しい物があったらな。園崎に言えよ」


 剛力は平太の言葉を遮り、ヘラヘラと笑いながら言った。平太が園崎に目を向けると、剛力の後ろで園崎が無感情に睨見返していた。冷たくて近寄るなとでも言いたげな視線。平太は彼と今後やっていける自信が無かった。


 しばらく、そのままこちらを睨んでいた園崎は目を瞑ると暗がりを指差した。


「ここは人が多くて気分が悪い。人通りの少ない『ルキナの聖堂』前を抜けて『宿屋』に行こう」


「さんせー。こんなに混んでると、みんなとはぐれるかもしれないし」


 速水がそう言って賛同すると、なし崩し的に全員が園崎に着いて行った。


 夕暮れに近づく空は紫よりも濃い黒に染まっていた。平太達は裏道とも言える真っ直ぐな細い小道を進む。両隣にそびえ立つレンガ造りの建物には窓が一切無く、圧倒的な存在感で空を塞ぎつつ、平太達を威圧していた。


 さっきから頭が痛い。割れそうな程にガンガンと叩きつけるような痛みがする。耳鳴りや目眩までしてきた。本当に気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


「ここを通る事を辞めませんか?」


 平太は必死に訴えた。この路地に入るまではこんな風にならなかった。ということはこの先には何かがある。それは直感だったが今まで経験してきたどんな判断よりも確実と言える自信があった。


「本当にいい加減にしてくれ!! 何回邪魔をすれば気が済むんだ!!」


 平太の想いも届かず園崎はそう言って睨んだ。平太は懇願するように訴える。


「絶対、ダメです。この先には行ってはいけない。そう感じるんです!!」


「なぁにぃ〜!」


 平太の言葉に怒ったのか、園崎は奥に向かって走り出した。


「ダ、ダメですって!!」


「お、おい。どこに行くんだよ!?」


 平太と剛力が呼び止めようとするが、園崎は奥の暗闇に消えた。


「熱いわねぇ」


「ちょっと、冗談にしてもやりすぎよ!! ちょっと待って!!」


 昴は涼しげに髪を弄るが、速水は取り乱したように走り出す。平太と剛力と昴は互いに目配せすると、後を追って走り出した。


 永遠にも続くと思われた狭い路地を抜けると広い場所に出た。中心にはサクラダファミリアにも似た巨大な建物があり、それを中心として四方向に道が続いていた。多分、この建物が『ルキナの聖堂』なのだろう。


 園崎は建物の大扉前で、腕組みをして待っていた。遠目に見ても、相当怒っているのだろう。


「で? 一体何が危険なんだい? 何も無いじゃないか!!」


 園崎はそう言って怒鳴るとこちらに向かってツカツカと歩み寄って来た。また、前みたいに攻め立てるつもりだろうか? 平太はなんとも言えない恐怖に震えた。その時だった。


 聖堂の扉が開いた。中から青い髪の男が出てきた。全体的に青を基調とした鎧は、肩と腕にプロテクターのみに留まり、それ以外青く上等な布地で包まれた軽そうな装備をしていた。


 その男を平太は知っていた。いや、ここにいる誰もがその男を知っていた。何故ならば......目の前に同じ男が二人居たからだった。


 肩で風を切るように歩いていた園崎が平太達の視線を感じたのか歩みを止めた。やめろ。コッチを見ていろ。平太は言おうとするが、声が出なかった。


 そして、園崎は視線を追いかけるように振り向いた。


 瞬間、全てが光に包まれた。視界は全て白く塗り潰され、鼓膜が破ける程の高音が響き渡った。一体何が起こったのだろうか? 五分とも一時間とも取れる間、光に包まれていた視界が戻り始めた。ボヤけた視界の先にバラバラに撒かれた青い装備見えた。


 キーンとした耳鳴りの向こう誰かが叫ぶ声が聞こえた。速水が膝から崩れていた。


 平太はいつの間にか消えていた頭痛と居なくなった園崎を見て、何の感情も抱いてはいけないと考えていた。


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