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19.疑惑

「何を言ってるんですか? 焼かれたら誰だって痛いし、食事が不味ければ吹き出すこともあるでしょう?」


「それがおかしいんだよ。ゲームの中で痛みを感じる訳ないだろ!! 僕らが守ってやれなかったからってそんな嘘を吐くのか!?」


 平太はフォークを手に持ったまま頭を抱えた。普通の反応しただけで何故ここまで言われなくちゃいけないんだ。何とか説明しなければ。平太は必死に次の言葉を紡いだ。


「な、何で。だって。俺のは『アルカナプロジェクト仕様』だし。痛いのは仕方がないはずじゃ」


 平太は気付いた。面々の異様な雰囲気に。まるで、そんな言葉初めて聞いたかのような表情をしていた。平太は背筋が凍るような思いで聞いた話を伝える。


「え? え? パスワードの入力には。ア、アルカナプロジェクト仕様のPCじゃないと、ダメだって。黒柳さんが......」


 それを聞いた平太以外のメンバーはお互いに目を見合わせた。何かやってしまったか? そう考えていると剛力がいきなり吹き出した。


 それに続いて面々は爆発するように笑い出した。ひとしきり笑うと剛力は疲れたように園崎へ問い掛けた。


「知ってたか?」


 園崎は嫌そうな顔で首を横に振った。


「知ってるわけ無いじゃないですか。 『アルカナプロジェクト』とか『プロジェクトハーメルン』とか秘密裏に動いているプロジェクトが有り過ぎなんですよ」


「あははー。あの人からマトモに説明受けたこと無いからね〜」


 速水はスパゲッティに大量のチーズをかけながら笑う。昴はそれを見て控えめな声でヒソヒソと言った。


「秘密ばっかりだからこんな風に過去へ戻んなきゃいけなくなってんでしょう? それと、あなたチーズかけすぎよ。筋力値が下がるわよ」


「あっ。癖でやっちゃった。というかそもそも、女の子に筋力値なんて必要無いはずよね」


 気付いてしまったと言いたげに速水は溜息を吐く。それを見てか昴も深刻そうな顔をして「そうね」と呟いた。いきなり、静かになる室内。一体何の話をしているんだ? 僕の話はどうなったんだ? 信じてもらえたのだろうか? 平太が疑問を浮かべていると園崎は平太に笑いかけた。


「ごめんね平太くん。君のPCは特別製なんだね。そういうことは始めに言って欲しかったけどね。とりあえず、『アルカナプロジェクト』について知っていることを教えてくれないかな? 」


 全く悪びれた様子の無いその表情を見て平太は「何様だ!?」と言いだしそうになったが、今後の事もある為、思いを今だけは鎮める事にした。


「......スミマセン。詳しくは聞いてないんです。ゲームで痛みを感じるようになるとだけしか」


「そうかい。君は何が目的なのか気にならなかったんだね」


 言葉に棘のある一言。平太はムカつきを通り越して呆れた。何故こんなにも自分に対して突っかかってくるのか? ......待てよ? 園崎が黒柳の言う裏切り者なのか? 剛力達が考えている『僕に対する評価』を下げ、孤立させようとしているんじゃないのか?


 平太は恐怖した。なんて男だ。頭が良いとは思っていたが、そんな事まで考えているとは。平太は気を引き締めた。此処からは絶対に弱味を見せてはならない。見せたら最後、......想像したくも無い。


「ごめん。言い過ぎだったね。気を悪くしたかな?」


 ハッとして平太は園崎に視線を合わせた。心配気な表情をしている園崎の目は青く怪しく輝いていた。


「いや、何でも無いです。少し考え事をしていました」


 平太は謝る振りをして口元に笑みを浮かべる。園崎は気付いただろうか? 出来るだけ事を荒立てず、平太が出来る最大の事。反逆の目に。


「......。そうか。それなら良いんだ」


 園崎は一瞬何かを言いたげに口を開いたが、首を振るとニッコリ微笑みを浮かべて、そう言った。


「まあまあ、お互い落ち着けよ。旅は長いんだからな。とはいえ、今回は今日で終わりだがな」


そうだなぁ。と平太が思いかけた時、剛力の一言に引っかかった。


「今回は終わりってどういう事ですか?」


「うん? ああ。それはだな......」


「あなた寝てたのよ6日間も。てっきり転送に失敗したのかと思ってたわ」


 剛力の言葉に昴がそう被せた。速水も陰でうんうんと頷いている。 6日間だと? そんなに寝てしまっていたのか。


「そ、そしたら......」


「そ。だから早いところパスワードを入力して貰いたいのよ」


 昴が平太の言葉にも被せてくる。そうだったのか。平太はさっきまでのイライラが吹き飛んで、皆に悪い気がしてきた。そんな事を考えていると、園崎が机の一点を見つめたまま、平太に目を合わせること無くボソリと呟いた。


「一応、3体のNPCと炎の女PCは居場所は確認して周囲に居ない事は確認したよ。あとは、君がコレにパスワードを入力するだけだ」


 園崎が空中に絵を描くように指を指すと机の真ん中に開かれた状態のノートパソコンが現れた。画面の真ん中には文字を入力する四角の枠があり、点滅する(キャレット)が催促するようにチカチカ明滅していた。


「君の言うように、僕らはこのパスワードを入力する事が出来なかった。全員試したけど、入力後にエンターキーを押すと『ファイルアクセス権エラー』が表示されてね。触れなかったんだ」


 園崎は疲れたようにそう言った。コレで終われるという思いからか、全員が平太に注視する。平太は唾を飲み込むと、スパゲッティを脇に避け、ノートパソコンを手元に置いた。そして『I out key ago』という囚われのある文字一つ一つを指先で入力した。


 そして、入力された文字を何度も確認する。間違いは無い事を確認するとエンターキーに指を掛けた。


「押しますよ」


 その一言に全員が固唾を飲んだ。


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