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16.過去へと消える


「あの4人の中に裏切り者が居る!!」


 黒柳は絶望の表情で吠える。平太も薄々気付いては居たが、声に出す勇気が無かった事実だった。平太は恐る恐る聞いた。


「一体誰が?」


 黒柳は苛立ったように貧乏揺すりをする。


「一番怪しいのは春川昴だ。あの女は暮凪を誑かして居た部分がある。殺す機会は一番多い」


「それだけで犯人呼ばわりするのは流石に......」


 平太が言葉を濁すと、黒柳は頭を抱えながらアルマジロのように縮こまった。


「そうだな。そうかもしれない。ならば、剛力はどうだ? 暮凪と敵対していたからな。殺す動機は充分あっただろう」


「それも憶測でしょう?」


 平太は両肩を竦めてみせる。黒柳は明らかに動揺している。きっと黒柳にとって暮凪は大切な人物だったのだろう。

 平太は彼を宥める方法を考えた。


「じゃあ、園崎はどうだ? アイツは暮凪とよく何かを相談していた。話の内容は聞いていないが、時々掴み合いの喧嘩に発展することがあった。話がこじれて殺したかもしれない」


「落ち着いて下さい。今はきっと動揺しているだけなんですよ。ゆっくり休めば変わりますから」


 平太自身、適当な事を言っていることはわかっていたが、黒柳を止めなければ永遠に話続けるだろう。そんなことを聞いている暇は無い。それだけは避けたかった。


「確かに、言い過ぎていることはわかっている。だが、君が彼らをそこまで信用する理由はあるのかい? 僕が恐怖するところはそこだ。本当の信用とは自分に対してしかするべきではない。他人の心が読めない限り、人間はいつでも隣人が殺人鬼であると考え、怯えるべきだ」


 平太は固まった。黒柳が何を言いたいのか理解してしまった。それは本当に恐ろしい考え方だった。


「全員敵と思えという事ですか?」


「そういうことだ。わかっているとは思うが、君が鍵を握っている。逆に、君さえ殺せれば敵の勝ちなわけだ。だから、君は常に自分自身を守るように動くんだ」


 黒柳の言いたいことはわかったが、それ以前に平太は根から疑問に思っていた事を聞いてみた。


「殺す。殺す。と言ってますけど。僕はゲームの中に入るだけでしょう? また、やり直せば良いだけじゃないですか? 現実の方が殺されれば話は別ですけど」


「そうだな。だけど、話はそう単純じゃない」


「なんでですか?」


「君のPCが特別製だからさ。『アルカナプロジェクト』仕様でなければ、『マスターキーアカウント』を取得出来ないんだが、『アルカナプロジェクト』仕様PCは痛みを現実と共有してしまう。もし、死んでしまうような事があれば、ショック死してしまうだろう」


「え? 僕はそんなに大変な目にあわなきゃいけないんですか?」


「危険は承知してもらえてるかと思っていたが.......ね。だけど、君自身が怪我をすることは無いだろう。キーワードがわかっているからね。過去へ行ってパスワードを入力するだけさ」


「そういうことなら良いですけど。......うん? 待って下さい。『アルカナプロジェクト』仕様PCじゃないと『マスターキーアカウント』を取得出来ないんですよね?」


「ああ。そうだ」


「そしたら、敵はどうやって『マスターキーアカウント』を入手したんですか? 」


「わからない。だが、3体のPCは確実に『アルカナプロジェクト』仕様だった。きっと奴らの中の誰かが手引きしたんだろうな!!」


 黒柳は目の前に怨敵が居るかのように怒鳴りつけた。平太は驚きで腰を抜かしかけてしまい、「そ、そうですか」と小さく返事することしか出来なかった。


「二人ともぉ。いつまで打ち合わせしているのー?」


 扉が開き、間伸びした口調の春子が屈みながら部屋の中へ入って来た。背が高すぎるための悩みだろう。平太は自分の身長を嘆きつつ、声をあげた。


「起き上がっちゃダメですよ。身体は大丈夫なんですか?」


「そうねぇ。もうほとんど塞がったわぁ。心配してくれてありがとうねぇ」


 塞がる訳ないだろ!! 平太の心の叫びに対して、黒柳は真面目な口調で口を挟んだ。


「どうしたんだ?」


「他のメンバーを過去へ送ったわよぉ〜」


「え!? じゃあ僕は置いて行かれたんですか!?」


 平太は思わず、大声を出すと黒柳が目配せした。


「いや、俺が指示した。聞かれていたらヤバかったからな」


 そして、黒柳は平太を口を開かずに見つめてきた。何か悪いことしただろうか? 平太が不安になりかけると、黒柳はニッと笑った。


「さあ、出発だ少年よ。俺には注意することしか出来ない。それは闇夜に立つ街路灯のようなものだ。君を明るく照らすことは出来るが、いつかは闇に送らなければならない。

 君には闇夜へ歩き出すその一歩を自ら出して貰わなければならない。頑張れとは言わない。君が覚悟出来たなら廊下の突き当たりの部屋へ来てくれ」


 黒柳はそう言うと服装を正して立ち上がる。流れるような動作で席を離れ、春子の肩に腕を掛けて部屋の外に出て行った。


「ふう」


 平太は手を重ねて、後ろへ大きく伸びをした。どうしようか? ココで降りても良いと言うのだろう。


 平太は伸びを解くと自分の手を眺める。今までこんなに信用して貰えたことは無かった。拳を握り席を立つ。部屋から出ると廊下の奥に半分開いた扉が見えた。


 平太は一歩一歩確かめるように歩き出す。ただ、ただ、自分の選択が正しい事を祈ろう。この先に起こり得ることはノーリスクハイリターンだ。自分が苦労する事なく、終われるだろう。だから、恐怖に打ち勝つこの一歩を踏み出そう。


 平太は震える手を抑え、廊下の奥の扉を開いた。部屋の真ん中には戦闘機のコックピットをそのままくり抜いて来たかのようなガラス張りの赤い筒が横倒してあった。


「準備は出来たか?」


 黒柳は丸椅子に座り、座りながら問う。


「はい」


 平太は努めて厳かに答えた。黒柳はそれを見て頷くと、平太に背を向けて円柱状 の機械を操作した。円柱状の扉が半円が分かれるように開いた。

 機械の中は椅子が直列に6つ並んでいた。


「乗りたまえ」


 黒柳に言われるまま平太は一番前の椅子に座る。平太が乗るとガラス製の扉が閉じた。

ガチャンと機械的な音がする。椅子がリクライニングを始め、平太は自動的に上を向いた。


「それでは、さらばだ。少年よ。未来を頼んだ」


「任されました」


 平太はそう言って笑った。上手く笑えているだろうか? そんなことを考えていると、視界にチラチラした光が移り出す。


 光は点滅から流れになり、奔流となって平太を巻き込んでいく。そのうち体が軽くなり、浮き上がるような感覚となる。それは自分の居場所がわからなくなるほどの激流に飲み込まれ、平太は消えていった。

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