14.二人目
平太が追い立てられ、放り込まれた場所は、一人暮らしするには充分な広さがある部屋だった。
目の前には、カーテンの掛かった大きな窓。部屋の半分を占めるふかふかベッドの下には、ダンボール箱へ詰め込まれた大量のカップ麺。隅には洗面台と湯沸かしポットがあり、何泊か出来そうな設備が揃っていた。
平太はカップ麺の山をまさぐってみる。大好きな豚骨味はすぐに見つかるが、箸がどこにも無い。
「やれやれ」
仕方なく、お湯を入れて作ったカップラーメンを冷ましてから、箸なしで飲み込む。
飲み込むだけのカップラーメンは、グチャグチャしていてゲロマズだった。
「寝よう」
幸い、ベッドと布団は留置場の奴よりも柔らかった。平太は着替えることなく、ベッドに飛び込むと、頭から布団を被って目を閉じた。
その夜、夢は見なかった。
朝、寒さで意識が覚醒する。見ると、布団がはだけていた。平太は頭まで布団を被り直して丸まる。布団からは絶対出たくない。
不退転の決意で布団から出ないことを決めると、もう一度眠ろうとした。
ドンドンドン。連続的に部屋の扉が叩かれる。
「どちら様ですか?」
平太が出ない声で小さめな返事をすると、一呼吸置いて扉が吹き飛んだ。
「 な、なんですか!?」
布団を跳ね除け、平太は起き上がる。
「無事か!? 平太!!」
剛力は踏み壊した扉に目もくれず、ずかずかと部屋の中に入って来た。
「扉を壊された事から来る怒り以外オールクリアですよ!?」
「そうか!? よくわからんが無事なら何よりだ!!」
「ゴリラテメェ!! 朝からドラミングするな!! 低血圧で辛いのよ!!」
低血圧の人は絶対出せない大声を出しながら、昴が入って来る。
可愛らしいピンク色のパジャマを身を包み、大きな熊のぬいぐるみを片手で引き摺りつつ、もう片手で目を擦る。仕草と容姿は可愛いが、言動がやくざのソレに近かった。
「......アネゴも無事ですか?」
「うるさい!! アネゴ言うな! で? 何事なの?」
「実は、クソチビゴミストーカー......暮凪が殺されました」
「なん......ですって?」
昴は目を見開き、剛力を凝視した。暮凪が殺された。
ということは、敵が侵入してきたのだろうか? 平太の背を上から下まで氷が滑るように、悪寒が走った。
「二人とも直ぐに来てくれ。あとは二人だけだから」
平太と昴は言われるがまま、剛力の後ろを付いていく。
ふと、平太は昴がパジャマのままだったことに気付いたが、唇を強く噛み締めるその横顔に平太は何も言えなかった。
廊下を歩いて行くと鉄の匂いが強くなる。経験はあるが慣れない匂いだった。
そこは、書類とビニール袋で縛られたゴミ袋にまみれた汚い部屋だった。
中には春子を除いた皆が揃っていた。
足の踏み場すら無い部屋の中、ほぼ全員が立っているにも関わらず、黒柳だけはゴミを積み上げた処に座り、俯いていた。
「来たか?」
黒柳が視線を移さず口を開いた。平太は視線を、黒柳がジッと見つめる先に移した。
「うわっ」
平太は抑えきれずに小さな悲鳴を挙げた。部屋の真ん中に見知った顔が血だらけで倒れていた。暮凪だった。首を横一線に切られ、口からは大量の血を垂らしている。
魚が腐ったような血生臭さと、生気のない顔を見ていたらゲロを吐きそうになってしまった。
「吐くなら外へ行って吐け」
剛力が平太の背をさする。さすられたお陰で幾分楽になる。平太は剛力の手を押し返すと親指を立てて大丈夫の意思を伝えた。
黒柳は平太が落ち着くと同時に舌打ちをした。
「全員殺される前に過去へ戻らなければならないな」
「そうする他無さそうですね」
黒柳の発言に園崎が同意する。同様に頷く面々。平太は何で全員がこんなに平然としてられるのかと恐怖を覚えた。
「私達が怖いかしら?」
昴はしゃがみ込むと無表情のまま、暮凪の額に触れる。
「私達は何が何でも失敗が出来ないのよ。私達が失敗すれば全て終わるのだから。だから私達は目的の為に手段を選んでいられないの」
「例え誰が死んでも......ですか?」
「目的の為なら仕方がないのよ」
「あははー。昴さん脅しすぎじゃな〜い。いつもその調子で話してくれれば嬉しいんだけどなー」
昴は何の反応もせずに押し黙る。無視しているのだろうか? 昨日は気にしていなかったが、何かあるのかもしれない。
「皆こっちの部屋に来い。最後のミーティングをするぞ」
黒柳が立ち上がり、部屋の外に出る。全員がぞろぞろと付いていく中、平太も最後尾を歩く。
この人達が何者なのか? わからないがこの先に対する不安だけが増していった。




